上 下
359 / 438
第10章 覇王を追撃する闇

357.見下ろすなど無礼の極みだ

しおりを挟む
「魔王を頭上から見下ろすなど、無礼の極みだ」

 見下ろされるのは好きではない。これは魔族共通の考え方らしく、誰もが上に立とうとする。上昇志向の現れなのか、別の理由があるのか。どちらにしても、高位魔族は上空から話しかけるのを好んだ。

「お前が魔王だと認めていない!!」

 地面に叩きつけられながらも吐き捨てる気概は見事だった。だが場面を考えずに逆らうのは、愚者の行いに分類される。

 ぐっと地面に頬を押し付けられ、若者は怒りの声をあげる。唸り、獣化しようとした。

「判断が遅い。上位者に立ち向かうならば、戦闘態勢を整えて仕掛けろ」

 外見通りの若者なのだろう。戦いの基本がわかっていない。下位の弱者相手であっても、油断すれば潰されるのが戦いだった。実力がもっとも発揮できる状態が獣化ならば、その姿以外で敵に近づくのは自殺行為に等しい。

 侮っていい相手かどうか、魔力の見極めが出来ていないのも致命傷だった。生き残れば教訓として生かせるが、オレが殺す気ならばすでに死体だ。学ぶ機会も与えられない場合があることを、この者らは理解する必要があった。

 実力差がありすぎて、潰すのも憐れに思う。

「マルコシアス、マーナガルム、少し遊んでやれ」

「「はっ」」

 目を輝かせたマルコシアスが、魔力を解放する。ぶわりと大きくなった体は硬い暗銀の毛に覆われていた。針鼠のように武器となる毛を逆立て、巨体は獲物に近づく。

 にたりと笑うマルコシアスの牙から、涎がぽたりと獲物の顔に落ちた。怯えた様子で喚き散らす彼らの言葉は独創性がない。卑怯だ、拘束を解け、こんなやり方は認めない――まだわからぬらしい。

「お前達が認める必要はない。オレが要らぬと言えば、その命はこの世界に不要だ」

 言いながら、パチンと指を鳴らして自由にしてやった。飛び起きる反射神経はなかなかだが、その後に続いた言葉がよくない。

「魔王位は俺がもらう、死ねっ!」

 先ほど指先ほども動かさず、魔力だけで抑え込まれたことを忘れたらしい。なんとも都合の良い頭の出来をしているが、オレは怒りなど感じなかった。呆れただけだ。

 しかしオレに対する暴言と判断したマルコシアスは違う。唸って姿勢を低くし、飛びかかって肩を噛み砕いた。痛いと喚き転がる獲物を、転がし、踏み、時折爪で引き裂く。

「我が主君を愚弄せし罪、一度の死で贖えぬと知れ。愚か者が……」

 魔獣風情が……と喚く若者だが、その魔獣に殺されかけている現実が見えていない。魔獣以下の存在だと自覚し、そこから這い上がる根性はなさそうだった。

「我らにいただけるのですね?」

 念を押すマルコシアスの後ろで、マーナガルムも別の個体を咥えて答えを待つ。今回は図らずもリリアーナ達が彼らの獲物を奪った事情もあり、オレは詫びの意味も込めて頷いた。

「よい、好きにせよ」

 ばきっ、骨を砕く音がした。マーナガルムの咥えた獲物が絶叫を放つ。だがまだ息の根を止める気はないようで、機嫌よく尻尾を左右に振っていた。猫のように獲物を甚振る習性はなかったと思うが……魔狼や銀狼に関する記憶を引っ張り出し肩をすくめる。どちらでもよい、眷属が満足することが優先だ。

 魔王が頂点に立つ者の称号ならば、この程度の輩に渡す気はなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

家族に辺境追放された貴族少年、実は天職が《チート魔道具師》で内政無双をしていたら、有能な家臣領民が続々と移住してきて本家を超える国力に急成長

ハーーナ殿下
ファンタジー
 貴族五男ライルは魔道具作りが好きな少年だったが、無理解な義理の家族に「攻撃魔法もろくに使えない無能者め!」と辺境に追放されてしまう。ライルは自分の力不足を嘆きつつ、魔物だらけの辺境の開拓に一人で着手する。  しかし家族の誰も知らなかった。実はライルが世界で一人だけの《チート魔道具師》の才能を持ち、規格外な魔道具で今まで領地を密かに繁栄させていたことを。彼の有能さを知る家臣領民は、ライルの領地に移住開始。人の良いライルは「やれやれ、仕方がないですね」と言いながらも内政無双で受け入れ、口コミで領民はどんどん増えて栄えていく。  これは魔道具作りが好きな少年が、亡国の王女やエルフ族長の娘、親を失った子どもたち、多くの困っている人を受け入れ助け、規格外の魔道具で大活躍。一方で追放した無能な本家は衰退していく物語である。

家族に無能と追放された冒険者、実は街に出たら【万能チート】すぎた、理由は家族がチート集団だったから

ハーーナ殿下
ファンタジー
 冒険者を夢見る少年ハリトは、幼い時から『無能』と言われながら厳しい家族に鍛えられてきた。無能な自分は、このままではダメになってしまう。一人前の冒険者なるために、思い切って家出。辺境の都市国家に向かう。  だが少年は自覚していなかった。家族は【天才魔道具士】の父、【聖女】の母、【剣聖】の姉、【大魔導士】の兄、【元勇者】の祖父、【元魔王】の祖母で、自分が彼らの万能の才能を受け継いでいたことを。  これは自分が無能だと勘違いしていた少年が、滅亡寸前の小国を冒険者として助け、今までの努力が実り、市民や冒険者仲間、騎士、大商人や貴族、王女たちに認められ、大活躍していく逆転劇である。

破壊神の加護を持っていた僕は国外追放されました  ~喋る黒猫と世界を回るルーン技師の**候補冒険記~

剣之あつおみ
ファンタジー
剣と魔法の共存する世界「レナスディア」 かつて破壊神に滅ぼされかけたこの世界は、異界より現れた6人の英雄によって救われる。 そして彼等の活躍は伝説として語られる程の長い年月が過ぎた。 その伝説の始まりの街とされるアルテナ国の平民街に住む少年ラルクは中学校卒業と同時に行われる「成人の儀」を境に人生が一変する。 ――彼は世にも珍しい「破壊神の加護」を持っていた。 破壊神は世界を滅ぼす存在として、その名前すらも禁忌される程の存在。 ラルクは危険な存在として捕らわれる事となった。 そして「不死」という能力も同時に発覚した彼は激しい拷問の末、国外追放を命じられる。 気が付いた時には大海原を走る船の倉庫だった。 ・・・彼はそこで世にも不思議な喋る猫スピカと出会う。 この物語は運命の出会いとルーン技師の才能に目覚め、数々の偉業を成し遂げる少年のお話です。 前日譚 なんだこのギルドネカマしかいない! Ψギルドごと異世界に行ったら実は全員ネカマだったΨ https://www.alphapolis.co.jp/novel/288355361/518780651

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

転移は猟銃と共に〜狩りガールの異世界散歩

柴田 沙夢
ファンタジー
アラサー狩りガールが、異世界転移した模様。 神様にも、仏様にも会ってないけど。 テンプレなのか、何なのか、身体は若返って嬉しいな。 でも、初っぱなから魔獣に襲われるのは、マジ勘弁。 異世界の獣にも、猟銃は使えるようです。威力がわやになってる気がするけど。 一緒に転移した後輩(男)を守りながら、頑張って生き抜いてみようと思います。 ※ 一章はどちらかというと、設定話です。異世界に行ってからを読みたい方は、二章からどうぞ。 ******* 一応保険でR-15 主人公、女性ですが、口もガラも悪めです。主人公の話し方は基本的に方言丸出し気味。男言葉も混ざります。気にしないで下さい。 最初、若干の鬱展開ありますが、ご容赦を。 狩猟や解体に絡み、一部スプラッタ表現に近いものがありますので、気をつけて。 微エロ風味というか、下ネタトークありますので、苦手な方は回避を。 たまに試される大地ネタ挟みます。ツッコミ大歓迎。 誤字脱字は発見次第駆除中です。ご連絡感謝。 ファンタジーか、恋愛か、迷走中。 初投稿です。よろしくお願いします。 ********************* 第12回ファンタジー小説大賞 投票結果は80位でした。(応募総数 2,937作品) 皆さま、ありがとうございました〜(*´꒳`*)

異世界に転生した俺は農業指導員だった知識と魔法を使い弱小貴族から気が付けば大陸1の農業王国を興していた。

黒ハット
ファンタジー
 前世では日本で農業指導員として暮らしていたが国際協力員として後進国で農業の指導をしている時に、反政府の武装組織に拳銃で撃たれて35歳で殺されたが、魔法のある異世界に転生し、15歳の時に記憶がよみがえり、前世の農業指導員の知識と魔法を使い弱小貴族から成りあがり、乱世の世を戦い抜き大陸1の農業王国を興す。

辺境伯家次男は転生チートライフを楽しみたい

ベルピー
ファンタジー
☆8月23日単行本販売☆ 気づいたら異世界に転生していたミツヤ。ファンタジーの世界は小説でよく読んでいたのでお手のもの。 チートを使って楽しみつくすミツヤあらためクリフ・ボールド。ざまぁあり、ハーレムありの王道異世界冒険記です。 第一章 テンプレの異世界転生 第二章 高等学校入学編 チート&ハーレムの準備はできた!? 第三章 高等学校編 さあチート&ハーレムのはじまりだ! 第四章 魔族襲来!?王国を守れ 第五章 勇者の称号とは~勇者は不幸の塊!? 第六章 聖国へ ~ 聖女をたすけよ ~ 第七章 帝国へ~ 史上最恐のダンジョンを攻略せよ~ 第八章 クリフ一家と領地改革!? 第九章 魔国へ〜魔族大決戦!? 第十章 自分探しと家族サービス

農民だからと冤罪をかけられパーティを追放されましたが、働かないと死ぬし自分は冒険者の仕事が好きなのでのんびり頑張りたいと思います。 

一樹
ファンタジー
タイトル通りの内容です。 のんびり更新です。 小説家になろうでも投稿しています。

処理中です...