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第9章 支配者の見る景色
258.誰が負うべき責任と詫びか、間違うな
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宰相アガレスが廊下を全力で走り、補佐マルファスが全力で追いかける。もう少しして戦後処理が落ち着いたら、内務担当の大臣の地位を賜る男には見えなかった。
敵国だと思い込んで攻撃した相手が、キララウスの王族と避難民の船団だった。バシレイアに魔王が君臨して以来、最大のピンチだ。今まで一方的に攻め込まれてもアガレスが平然としていた理由は、圧倒的戦力を持つ魔王の存在だった。
魔族との共存もうまく行っており、民もどんどん豊かさを享受する。攻め込む敵は魔王率いる眷族が排除し、一方的にこちらが責められるような状況を作らなかった。
多少頭を悩ませた難民問題も、川の流れを変えてオアシスや森を作ることで解決する。豊かな領地を確保して民を送り出す。このまますべてが解決すると思っていたのに、ここにきて魔族がやらかした。
だが、アガレスにククル達を責める気はなかった。これは宰相として、魔王の頭脳役を担当すべき己のミスだ。可能性として彼女らに提示していたら、直前に確認してくれたかも知れない。申し訳なさに身を切られる思いで、緩やかな大河の船着場に駆け込んだ。
ここはグリュポスの王弟殿下を見送った場所だ。彼が殺されると知りつつ、使者の尻を叩いて見送ったあの日が、今はこんなに遠い。
全身の汗が服を濡らし、べたりと肌を覆った。気持ち悪さに眉をひそめたものの、川は涼しげな風を吹かせる。髪を揺らすほどの風はすぐに汗を引かせた。
服が濡れたため、すこし肌寒くさえ感じ始めた頃……ようやく船団の舳先が覗く。顔が見える位置までそのまま見守り、ゆっくりと頭をさげた。接岸する音がしても、申し訳なさで顔があげられない。3隻が沈み、その半数の者が犠牲になった。被害状況を聞き、青ざめた顔で声掛りを待った。
「……キララウス王家、スライマーンです。バシレイア国宰相閣下とお見受けします」
「バシレイア宰相、アガレスと申します。この度はご来訪をお喜び申し上げるとともに、我が国の不手際をお詫び申し上げます。我が首をもってなにとぞ……」
己の命ひとつで納めてもらえないかと口にしたアガレスは、次の瞬間、吹き飛ばされていた。地面に転がるアガレスを支えようとしたマルファスも、勢いに負けて桟橋の上に尻餅をつく。
「僭越を許した覚えはない」
冷たく言い放ったオレの声に、周囲が音をなくす。しんと静まった場で、ゆっくり踵を返して2人の男を見つめる。初老の男が国王ダーウードだろう。隣の青年が跡取りのスライマーン王子か。
同じ紫と赤の珠を飾った金細工のブレスレットをしている。キララウスの習慣に則った飾り物で血縁を確認し、オレは彼らに声をかけた。
「よくぞ参られた。キララウスの方々よ、我が配下の無礼はオレの責任だ。亡くなった民の無念は俺が負う」
最後に「すまなかった」と付け加えて頭を下げた。
敵国だと思い込んで攻撃した相手が、キララウスの王族と避難民の船団だった。バシレイアに魔王が君臨して以来、最大のピンチだ。今まで一方的に攻め込まれてもアガレスが平然としていた理由は、圧倒的戦力を持つ魔王の存在だった。
魔族との共存もうまく行っており、民もどんどん豊かさを享受する。攻め込む敵は魔王率いる眷族が排除し、一方的にこちらが責められるような状況を作らなかった。
多少頭を悩ませた難民問題も、川の流れを変えてオアシスや森を作ることで解決する。豊かな領地を確保して民を送り出す。このまますべてが解決すると思っていたのに、ここにきて魔族がやらかした。
だが、アガレスにククル達を責める気はなかった。これは宰相として、魔王の頭脳役を担当すべき己のミスだ。可能性として彼女らに提示していたら、直前に確認してくれたかも知れない。申し訳なさに身を切られる思いで、緩やかな大河の船着場に駆け込んだ。
ここはグリュポスの王弟殿下を見送った場所だ。彼が殺されると知りつつ、使者の尻を叩いて見送ったあの日が、今はこんなに遠い。
全身の汗が服を濡らし、べたりと肌を覆った。気持ち悪さに眉をひそめたものの、川は涼しげな風を吹かせる。髪を揺らすほどの風はすぐに汗を引かせた。
服が濡れたため、すこし肌寒くさえ感じ始めた頃……ようやく船団の舳先が覗く。顔が見える位置までそのまま見守り、ゆっくりと頭をさげた。接岸する音がしても、申し訳なさで顔があげられない。3隻が沈み、その半数の者が犠牲になった。被害状況を聞き、青ざめた顔で声掛りを待った。
「……キララウス王家、スライマーンです。バシレイア国宰相閣下とお見受けします」
「バシレイア宰相、アガレスと申します。この度はご来訪をお喜び申し上げるとともに、我が国の不手際をお詫び申し上げます。我が首をもってなにとぞ……」
己の命ひとつで納めてもらえないかと口にしたアガレスは、次の瞬間、吹き飛ばされていた。地面に転がるアガレスを支えようとしたマルファスも、勢いに負けて桟橋の上に尻餅をつく。
「僭越を許した覚えはない」
冷たく言い放ったオレの声に、周囲が音をなくす。しんと静まった場で、ゆっくり踵を返して2人の男を見つめる。初老の男が国王ダーウードだろう。隣の青年が跡取りのスライマーン王子か。
同じ紫と赤の珠を飾った金細工のブレスレットをしている。キララウスの習慣に則った飾り物で血縁を確認し、オレは彼らに声をかけた。
「よくぞ参られた。キララウスの方々よ、我が配下の無礼はオレの責任だ。亡くなった民の無念は俺が負う」
最後に「すまなかった」と付け加えて頭を下げた。
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