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第7章 踊る道化の足元は
158.すでに仕掛けは発動した
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「お、王女殿下!」
「王女カリーナ様、あの」
慌てた使者が取り繕おうとするが、オレは何も言わなかった。肘掛けに左手を乗せ、頬に手をついて寄りかかる。
興奮したカリーナはまだ己の失言に気付いていない。一見すると失言までの流れは、ライラと大差なく見えただろう。しかしやり取りの意味は全く異なっていた。
ライラの見せた覚悟と、カリーナの虚勢では価値がまったく違う。尊重する価値があるかないか。オレでなくとも、この違いは理解するだろう。
「……うふ、ふふっ。今の言葉を聞きました? リリアーナ様、サタン様の治める国を滅ぼすと仰ったようですわ」
オリヴィエラが彼女を煽る。幼く直情的なリリアーナは、唇を尖らせて不満を露わにした。
「その前に私が潰す」
「私もやる」
クリスティーヌも手を挙げて参戦表明する。アガレスがモノクルの縁を意味ありげに撫でながら、口元を緩めた。予定通りだとほくそ笑む宰相の後ろで、やり取りを書き取るマルファスが溜め息を吐いた。
「なんなのっ! 私は大国ビフレストの王女なのよ?! そこの魔王を名乗る男も、あんた達も私より格下なんだから! 宰相なんて平民出じゃない! こんな国、滅ぼしてやるわよ」
そのセリフを一言一句間違えることなく、淡々と書き留めるマルファスが、ぼそっと呟いた。
「そういえば、レーシーの仕掛けはもう動いてましたっけ?」
「ええ、結果が楽しみです」
喚き散らす王女を、使者がなんとか宥めようとするも、肩書を振りかざして抵抗されて挫折する。もうすべての責任を王女に押し付けて、自分達は逃げた方がいいかもしれない。そんな捨て鉢な使者に、悪魔の囁きが届いた。
「そこの2人も同じ考えか?」
黙していた魔王の声に、使者2人は大急ぎで首を横に振った。睨みつける王女の視線は痛いが、彼女についてもメリットがない。彼らは根っからの外交官であり、損得勘定は得意だ。この国にも諜報を得意とする侍女を潜り込ませていた。
王女カリーナが何を言おうが、彼らは自らの得た情報を元に「この魔王の実力は本物で危険だ」と判断している。丸1日放置されたのも、その際に使者を休ませる客間から見える庭で、彼女らと戯れたのも作戦と考えた。故に、王女の短絡的な発言に危機感を募らせる。
「ならば、よい情報をやろう」
ちらりとアガレスへ視線を向ける。心得た宰相は緩みがちな口元を引き締め、真面目くさった顔を取り繕うと書類を読み上げた。どこかの王宮へ放った刺客……という肩書の妖艶なる青白い髪の女性が、国王を快楽に落とした話だ。この情報の意味が分からず眉をひそめ「汚らわしい」と発言したのは、カリーナだった。
「汚らわしいか? だが幻術は彼女の能力だ」
身体を使って落としたと聞こえようが、実際には幻惑で惑わされた愚かな王がいるだけ。そう告げられて、使者2人は青ざめた。魔王は国の名称を故意に伏せた。その意味に気づいたのだ。
「わ、私は亡命を希望します」
「私も! 家族も一緒に」
使者達の豹変の理由を考えず、カリーナは激怒した。我が国で王女に従う使者の位置まで引き立ててやったのは、父である国王だ。その恩を忘れたのか、罵る彼女を無視した2人をアガレスが受け入れた。
「良いでしょう。我が国は拡大中で、常に人手が足りません。働いていただきますよ」
「王女カリーナ様、あの」
慌てた使者が取り繕おうとするが、オレは何も言わなかった。肘掛けに左手を乗せ、頬に手をついて寄りかかる。
興奮したカリーナはまだ己の失言に気付いていない。一見すると失言までの流れは、ライラと大差なく見えただろう。しかしやり取りの意味は全く異なっていた。
ライラの見せた覚悟と、カリーナの虚勢では価値がまったく違う。尊重する価値があるかないか。オレでなくとも、この違いは理解するだろう。
「……うふ、ふふっ。今の言葉を聞きました? リリアーナ様、サタン様の治める国を滅ぼすと仰ったようですわ」
オリヴィエラが彼女を煽る。幼く直情的なリリアーナは、唇を尖らせて不満を露わにした。
「その前に私が潰す」
「私もやる」
クリスティーヌも手を挙げて参戦表明する。アガレスがモノクルの縁を意味ありげに撫でながら、口元を緩めた。予定通りだとほくそ笑む宰相の後ろで、やり取りを書き取るマルファスが溜め息を吐いた。
「なんなのっ! 私は大国ビフレストの王女なのよ?! そこの魔王を名乗る男も、あんた達も私より格下なんだから! 宰相なんて平民出じゃない! こんな国、滅ぼしてやるわよ」
そのセリフを一言一句間違えることなく、淡々と書き留めるマルファスが、ぼそっと呟いた。
「そういえば、レーシーの仕掛けはもう動いてましたっけ?」
「ええ、結果が楽しみです」
喚き散らす王女を、使者がなんとか宥めようとするも、肩書を振りかざして抵抗されて挫折する。もうすべての責任を王女に押し付けて、自分達は逃げた方がいいかもしれない。そんな捨て鉢な使者に、悪魔の囁きが届いた。
「そこの2人も同じ考えか?」
黙していた魔王の声に、使者2人は大急ぎで首を横に振った。睨みつける王女の視線は痛いが、彼女についてもメリットがない。彼らは根っからの外交官であり、損得勘定は得意だ。この国にも諜報を得意とする侍女を潜り込ませていた。
王女カリーナが何を言おうが、彼らは自らの得た情報を元に「この魔王の実力は本物で危険だ」と判断している。丸1日放置されたのも、その際に使者を休ませる客間から見える庭で、彼女らと戯れたのも作戦と考えた。故に、王女の短絡的な発言に危機感を募らせる。
「ならば、よい情報をやろう」
ちらりとアガレスへ視線を向ける。心得た宰相は緩みがちな口元を引き締め、真面目くさった顔を取り繕うと書類を読み上げた。どこかの王宮へ放った刺客……という肩書の妖艶なる青白い髪の女性が、国王を快楽に落とした話だ。この情報の意味が分からず眉をひそめ「汚らわしい」と発言したのは、カリーナだった。
「汚らわしいか? だが幻術は彼女の能力だ」
身体を使って落としたと聞こえようが、実際には幻惑で惑わされた愚かな王がいるだけ。そう告げられて、使者2人は青ざめた。魔王は国の名称を故意に伏せた。その意味に気づいたのだ。
「わ、私は亡命を希望します」
「私も! 家族も一緒に」
使者達の豹変の理由を考えず、カリーナは激怒した。我が国で王女に従う使者の位置まで引き立ててやったのは、父である国王だ。その恩を忘れたのか、罵る彼女を無視した2人をアガレスが受け入れた。
「良いでしょう。我が国は拡大中で、常に人手が足りません。働いていただきますよ」
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