137 / 438
第6章 取捨選択は強者の権利だ
135.対戦者の実力はどれほどものか
しおりを挟む
手元の書類を片付けたオレは、執務室の椅子に深く背を預けた。机の影で、リリアーナとクリスティーヌが札遊びをしている。文字を覚えさせるための札を並べ替え、なにやら新しい遊びを考案したらしい。彼女らの遊びはこの国の子供に評判がよかった。もちろん、新しく加わる難民の子らも学ぶよすがになるだろう。
先ほどまで彼女らが遊んでいた遊戯は、駒を使った陣取りゲームだった。その遊具を机の端に置いたまま、少女達は札に夢中である。普段から侍女が片付けるため、散らかしたものを元に戻す習慣がないリリアーナとクリスティーヌを見つめ、溜め息をついた。
「サタン様、情報きた」
少し手を止めて空中を睨んでいたクリスティーヌは、口頭で説明を始める。大人しく待つリリアーナの顎や頬を撫でながら、最後まで聞いた。自然と口元が緩む。
どの国も、一枚岩で魔王と対決することは出来ない。続いて別の情報ももたらされた。書類を右側に押しのけ、未使用の紙に内容を記載していく。
豊かな平野をもつ農耕民族であるテッサリアは、我が国との友好を選んだ。悩まされてきたグリュポスの侵攻から解放された彼らが望んだのは、圧倒的な戦力を持つ異世界の魔王の庇護下に入ること――ある意味、賢い選択だった。一部の貴族が反発しているが、それはテッサリア国内の問題だ。
内政干渉させずに済むか……テッサリア国王の手腕次第だろう。
来訪を遅らせるよう工作をさせたビフレスト国は、身勝手にもすでに王女を使者とした一団を派遣していた。バシレイアのロゼマリアを娶った魔王に、自国の王女も妻として差し出そうと安易に考えたらしい。来るならば勝手にすればいいが、色よい返事を返せと期待されるのは迷惑だった。
その王女の外見や性格がどうであれ、この段階で彼女を受け入れる気はない。出国の足止めが間に合わなかったなら、入国してから足止めすればいい。しばらく放置する方針を決めて、手元に書き込んだ。
何よりビフレストから送り込まれた間者は3種類5人いた。王族配下、辺境伯の親族、王女の生母の実家である侯爵家の関係だ。どれもクリスティーヌの監視下にあるネズミ経由で、さまざまな事情が聞こえていた。王女が第三夫人の娘であり、王宮内で肩身の狭い存在だということも……。
自らの境遇を嘆くばかりの女に同情する気はないが、何らかの策略に組み込めば使えそうなネタもあった。それも一緒に記載しておく。複写してアガレスに与えれば、上手に使うだろう。
ぐるぐる喉を鳴らすリリアーナが床に膝をついて身を起こし、膝の上に顎を乗せる。すっかり懐いた愛玩動物に目を細め、さらさらと柔らかな金髪を指に絡めて梳いた。
「リリアーナ、今日の狩りはよいのか?」
「ここにいる」
ぱたんと軽い音を立てて尻尾が床を叩く。機嫌よく左右に振られる様子から、どうやら眠いようだ。好きにさせて、さらにクリスティーヌの情報を纏めた。
イザヴェルの情報は少し遅れている。国の間の距離が離れているため、まだ諜報担当の侍女達が国に帰りついていないのだ。中間の都市に数人の繋ぎを置けば、情報の伝達が早くなるのだが……そんな知恵はないらしい。愚かにも情報を持つ者が自ら国まで出向いて往復する形だった。
途中で情報伝達者が襲われ、失われる可能性も考慮すべきだろう。先日の国境付近での騎士の振る舞いや武器のレベルから見て、軍事国家だと思われた。その割にお粗末な情報処理に、まだ時間がかかりそうだと判断を保留する。
「ユーダリルは8人か」
一番多くの間者を送り込んだ国は、どう動くか。陣取りゲームの駒をひとつ手に取り、転がしてから盤の上に戻した。遊ぶなら上級者と対戦を望むが……さて、奴らの実力はどれほどのものか。
先ほどまで彼女らが遊んでいた遊戯は、駒を使った陣取りゲームだった。その遊具を机の端に置いたまま、少女達は札に夢中である。普段から侍女が片付けるため、散らかしたものを元に戻す習慣がないリリアーナとクリスティーヌを見つめ、溜め息をついた。
「サタン様、情報きた」
少し手を止めて空中を睨んでいたクリスティーヌは、口頭で説明を始める。大人しく待つリリアーナの顎や頬を撫でながら、最後まで聞いた。自然と口元が緩む。
どの国も、一枚岩で魔王と対決することは出来ない。続いて別の情報ももたらされた。書類を右側に押しのけ、未使用の紙に内容を記載していく。
豊かな平野をもつ農耕民族であるテッサリアは、我が国との友好を選んだ。悩まされてきたグリュポスの侵攻から解放された彼らが望んだのは、圧倒的な戦力を持つ異世界の魔王の庇護下に入ること――ある意味、賢い選択だった。一部の貴族が反発しているが、それはテッサリア国内の問題だ。
内政干渉させずに済むか……テッサリア国王の手腕次第だろう。
来訪を遅らせるよう工作をさせたビフレスト国は、身勝手にもすでに王女を使者とした一団を派遣していた。バシレイアのロゼマリアを娶った魔王に、自国の王女も妻として差し出そうと安易に考えたらしい。来るならば勝手にすればいいが、色よい返事を返せと期待されるのは迷惑だった。
その王女の外見や性格がどうであれ、この段階で彼女を受け入れる気はない。出国の足止めが間に合わなかったなら、入国してから足止めすればいい。しばらく放置する方針を決めて、手元に書き込んだ。
何よりビフレストから送り込まれた間者は3種類5人いた。王族配下、辺境伯の親族、王女の生母の実家である侯爵家の関係だ。どれもクリスティーヌの監視下にあるネズミ経由で、さまざまな事情が聞こえていた。王女が第三夫人の娘であり、王宮内で肩身の狭い存在だということも……。
自らの境遇を嘆くばかりの女に同情する気はないが、何らかの策略に組み込めば使えそうなネタもあった。それも一緒に記載しておく。複写してアガレスに与えれば、上手に使うだろう。
ぐるぐる喉を鳴らすリリアーナが床に膝をついて身を起こし、膝の上に顎を乗せる。すっかり懐いた愛玩動物に目を細め、さらさらと柔らかな金髪を指に絡めて梳いた。
「リリアーナ、今日の狩りはよいのか?」
「ここにいる」
ぱたんと軽い音を立てて尻尾が床を叩く。機嫌よく左右に振られる様子から、どうやら眠いようだ。好きにさせて、さらにクリスティーヌの情報を纏めた。
イザヴェルの情報は少し遅れている。国の間の距離が離れているため、まだ諜報担当の侍女達が国に帰りついていないのだ。中間の都市に数人の繋ぎを置けば、情報の伝達が早くなるのだが……そんな知恵はないらしい。愚かにも情報を持つ者が自ら国まで出向いて往復する形だった。
途中で情報伝達者が襲われ、失われる可能性も考慮すべきだろう。先日の国境付近での騎士の振る舞いや武器のレベルから見て、軍事国家だと思われた。その割にお粗末な情報処理に、まだ時間がかかりそうだと判断を保留する。
「ユーダリルは8人か」
一番多くの間者を送り込んだ国は、どう動くか。陣取りゲームの駒をひとつ手に取り、転がしてから盤の上に戻した。遊ぶなら上級者と対戦を望むが……さて、奴らの実力はどれほどのものか。
0
お気に入りに追加
1,031
あなたにおすすめの小説
救国の巫女姫、誕生史
ぺきぺき
ファンタジー
霊や妖による事件が起こる国で、それらに立ち向かうため新設された部署・巫覡院(ふげきいん)。その立ち上げに抜擢されたのはまだ15歳の少女だった。
少女は期待以上の働きを見せ、どんどん怪奇事件を解決していくが、事件はなくなることなく起こり続ける。
さらにその少女自身にもなにやら秘密がいっぱいあるようで…。
新米巫覡がやがて救国の巫女姫と呼ばれるようになるまでの雑用係の少年との日常と事件録。
ーーーー
毎日更新・最終話まで執筆済み
激レア種族に転生してみた(笑)
小桃
ファンタジー
平凡な女子高生【下御陵 美里】が異世界へ転生する事になった。
せっかく転生するなら勇者?聖女?大賢者?いやいや職種よりも激レア種族を選んでみたいよね!楽しい異世界転生ライフを楽しむぞ〜
【異世界転生 幼女編】
異世界転生を果たしたアリス.フェリシア 。
「えっと…転生先は森!?」
女神のうっかりミスで、家とか家族的な者に囲まれて裕福な生活を送るなんていうテンプレート的な物なんか全く無かった……
生まれたばかり身一つで森に放置……アリスはそんな過酷な状況で転生生活を開始する事になったのだった……アリスは無事に生き残れるのか?
精霊の加護
Zu-Y
ファンタジー
精霊を見ることができ、話もできると言う稀有な能力を持つゲオルクは、狩人の父から教わった弓矢の腕を生かして冒険者をしていた。
ソロクエストの帰りに西府の近くで土の特大精霊と出会い、そのまま契約することになる。特大精霊との契約維持には膨大な魔力を必要とするが、ゲオルクの魔力量は桁外れに膨大だった。しかし魔力をまったく放出できないために、魔術師への道を諦めざるを得なかったのだ。
土の特大精霊と契約して、特大精霊に魔力を供給しつつ、特大精霊に魔法を代行してもらう、精霊魔術師となったゲオルクは、西府を後にして、王都、東府経由で、故郷の村へと帰った。
故郷の村の近くの大森林には、子供の頃からの友達の木の特大精霊がいる。故郷の大森林で、木の特大精霊とも契約したゲオルクは、それまで世話になった東府、王都、西府の冒険者ギルドの首席受付嬢3人、北府では元騎士団副長の女騎士、南府では宿屋の看板娘をそれぞれパーティにスカウトして行く。
パーティ仲間とともに、王国中を回って、いろいろな属性の特大精霊を探しつつ、契約を交わして行く。
最初に契約した土の特大精霊、木の特大精霊に続き、火の特大精霊、冷気の特大精霊、水の特大精霊、風の特大精霊、金属の特大精霊と契約して、王国中の特大精霊と契約を交わしたゲオルクは、東の隣国の教国で光の特大精霊、西の隣国の帝国で闇の特大精霊とも契約を交わすための、さらなる旅に出る。
~~~~
初投稿です。
2作品同時発表です。
「射手の統領」も、合わせてよろしくお願いします。
カクヨム様、小説家になろう様にも掲載します。
【完結】実家に捨てられた私は侯爵邸に拾われ、使用人としてのんびりとスローライフを満喫しています〜なお、実家はどんどん崩壊しているようです〜
よどら文鳥
恋愛
フィアラの父は、再婚してから新たな妻と子供だけの生活を望んでいたため、フィアラは邪魔者だった。
フィアラは毎日毎日、家事だけではなく父の仕事までも強制的にやらされる毎日である。
だがフィアラが十四歳になったとある日、長く奴隷生活を続けていたデジョレーン子爵邸から抹消される運命になる。
侯爵がフィアラを除名したうえで専属使用人として雇いたいという申し出があったからだ。
金銭面で余裕のないデジョレーン子爵にとってはこのうえない案件であったため、フィアラはゴミのように捨てられた。
父の発言では『侯爵一家は非常に悪名高く、さらに過酷な日々になるだろう』と宣言していたため、フィアラは不安なまま侯爵邸へ向かう。
だが侯爵邸で待っていたのは過酷な毎日ではなくむしろ……。
いっぽう、フィアラのいなくなった子爵邸では大金が入ってきて全員が大喜び。
さっそくこの大金を手にして新たな使用人を雇う。
お金にも困らずのびのびとした生活ができるかと思っていたのだが、現実は……。
転生させて貰ったけど…これやりたかった事…だっけ?
N
ファンタジー
目が覚めたら…目の前には白い球が、、
生まれる世界が間違っていたって⁇
自分が好きだった漫画の中のような世界に転生出来るって⁈
嬉しいけど…これは一旦落ち着いてチートを勝ち取って最高に楽しい人生勝ち組にならねば!!
そう意気込んで転生したものの、気がついたら………
大切な人生の相棒との出会いや沢山の人との出会い!
そして転生した本当の理由はいつ分かるのか…!!
ーーーーーーーーーーーーーー
※誤字・脱字多いかもしれません💦
(教えて頂けたらめっちゃ助かります…)
※自分自身が句読点・改行多めが好きなのでそうしています、読みにくかったらすみません
死亡エンドしかない悪役令息に転生してしまったみたいだが、全力で死亡フラグを回避する!
柚希乃愁
ファンタジー
『Blessing Blossom』という大人向けの恋愛シミュレーションRPGゲームがあった。
いわゆるエロゲ―だ。
その中に登場する公爵家長男レオナルド=クルームハイト。
あるときゲーム内のキャラクターであるはずの彼は、今の自分ではないもう一つの記憶を思い出す。
それはこの世界とは別の世界のもの。
その記憶の中で、彼は今自分がいるのがゲームの世界だということを知る。
しかもレオナルドは、ヒロインのどのルートに進んでも最後は死亡してしまう悪役令息で……。
ゲーム本編開始までにはまだ時間がある。
レオナルドは記憶を頼りに死亡回避のために動き出す。
自分にできることをしよう、と。
そんなレオナルドの行動は少なからず周囲に影響を与えていく。
自身の死亡回避、そして悠々自適なスローライフという目標に向かって順調に進んでいるかに見えたレオナルドだが、ある事件が起きる。
それはゲームにはなかったもので……。
ゲームと今レオナルドが生きている現実で展開が違っているのだ。
この事件をきっかけにレオナルドの考え方は変わっていくこととなる。
果たしてレオナルドは死亡エンドを回避できるのか―――。
*念のためのセルフレイティングです。
10/10 男性向けHOTランキング3位!
10/11 男性向けHOTランキング2位!
10/13 男性向けHOTランキング1位!
皆様お読みくださりありがとうございますm(__)m
11/4 第一章完結
11/7 第二章開始
公爵家長男はゴミスキルだったので廃嫡後冒険者になる(美味しいモノが狩れるなら文句はない)
音爽(ネソウ)
ファンタジー
記憶持ち転生者は元定食屋の息子。
魔法ありファンタジー異世界に転生した。彼は将軍を父に持つエリートの公爵家の嫡男に生まれかわる。
だが授かった職業スキルが「パンツもぐもぐ」という謎ゴミスキルだった。そんな彼に聖騎士の弟以外家族は冷たい。
見習い騎士にさえなれそうもない長男レオニードは廃嫡後は冒険者として生き抜く決意をする。
「ゴミスキルでも美味しい物を狩れれば満足だ」そんな彼は前世の料理で敵味方の胃袋を掴んで魅了しまくるグルメギャグ。
異世界転移したら女神の化身にされてしまったので、世界を回って伝説を残します
高崎三吉
ファンタジー
その乙女の名はアルタシャ。
『癒し女神の化身』と称えられる彼女は絶世の美貌の持ち主であると共に、その称号にふさわしい人間を超越した絶大な癒しの力と、大いなる慈愛の心を有していた。
いかなる時も彼女は困っている者を見逃すことはなく、自らの危険も顧みずその偉大な力を振るって躊躇なく人助けを行い、訪れた地に伝説を残していく。
彼女はある時は強大なアンデッドを退けて王国の危機を救い
ある国では反逆者から皇帝を助け
他のところでは人々から追われる罪なき者を守り
別の土地では滅亡に瀕する少数民族に安住の地を与えた
相手の出自や地位には一切こだわらず、報酬も望まず、ただひたすら困っている人々を助けて回る彼女は、大陸中にその名を轟かせ、上は王や皇帝どころか神々までが敬意を払い、下は貧しき庶民の崇敬の的となる偉大な女英雄となっていく。
だが人々は知らなかった。
その偉大な女英雄は元はと言えば、別の世界からやってきた男子高校生だったのだ。
そして元の世界のゲームで回復・支援魔法使いばかりをやってきた事から、なぜか魔法が使えた少年は、その身を女に変えられてしまい、その結果として世界を逃亡して回っているお人好しに過ぎないのだった。
これは魔法や神々の満ち溢れた世界の中で、超絶魔力を有する美少女となって駆け巡り、ある時には命がけで人々を助け、またある時は神や皇帝からプロポーズされて逃げ回る元少年の物語である。
なお主人公は男にモテモテですが応じる気は全くありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる