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第4章 愚王の成れの果て
89.人間の国を蹂躙せよ
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伝言を携えたドラゴンが飛来した山で、銀狼を束ねる巨狼は大きく咆哮をあげる。遠吠えに山のあちこちから返事が響いてきた。人化したリリアーナが、マルコシアスのふかふかの毛に抱き着く。何度も狩りに来て共同戦線を張るドラゴンは、狼達にとって仲間同然だった。
仲良くなった彼女は、マルコシアスがもつ白い鬣に顔を埋めるのが大好きなのだ。訪ねるたびに抱き着くので、マルコシアスも慣れてしまった。喉のあたりをわしゃわしゃと掻いてくれる人の手は、心地よいのだ。ボスの毛皮に埋もれる少女が、この場で最強という事実を知らなければ、異常な光景だった。
「マルコシアス、戦する。いいな」
自分も出陣したい。戦って役に立ち、「よくやった」と褒めて欲しいのだ。しかし「まだ早い」と言われてしまった。しょんぼりしたリリアーナを慰めるように、巨狼は彼女の頬を舐める。顔の近くを牙がかすめても、リリアーナは恐怖を感じなかった。
すでに仲間として認識したのもあるが、いざとなれば竜化した自分のほうが強いと知っている。魔族や魔物は強い者がすべてだった。人間の城に攻撃を仕掛けたリリアーナが、サタンにおとなしく従った理由と同じだ。圧倒的な力こそすべてだった。
腕力であれ、魔力であれ、相手をねじ伏せた方が勝ち。強い者は弱い者を守り、弱者は強者に従う。世界不変のルールだった。魔族は当たり前に理解する掟を守らないのは、馬鹿な人間のみ。
「人間は馬鹿。サタン様、怒らせた」
ぐるるるっ、喉を鳴らしながら狼が近づいてきた。マルコスアスと同じ琥珀色の瞳を持つ狼は、他の狼より一回り大きい。それでもマルコシアスには及ばないが、同じように白い首の飾り毛を持っていた。
「マーナガルム、こっち来る」
手招きされたマーナガルムは、ごろんと腹を見せて寝転がった。いつもと同じ光景に頬を緩めたリリアーナが狼の腹を撫で、その上に抱き着く。頬ずりしてから、リリアーナは集まった狼の群れを確認した。
頼まれた仕事は、銀狼の群れを連れて隣国グリュポスに向かうこと。場所は聞かなくても覚えていた。つい先日、大量の死体を捨てた領地だ。今度は狼達を連れてグリュポスの辺境から侵入し、リリアーナは狼に損害が出ないように見守る役だった。
「できるな? リリアーナ」
そう告げたサタンの声を思い出し、リリアーナの表情が和らぐ。出来るだろうと思ったから任せてくれた。単純に嬉しいが、出来れば戦う役も任せてほしかったのだ。それを愚痴りながら狼達に甘えた。
『ドラゴン殿が思うより、主は信頼しておられるぞ』
言葉ではなく意思疎通が出来るようになったマルコシアスが、慰めるように鼻先で額をつつく。鼻先を丁寧に上から下へ撫でて、リリアーナは少し離れた。ドラゴンの姿に戻ると、ばさりと羽ばたく。空に舞い上がる優美な姿を見上げ、集まった配下に命じた。
――我らが主の命である。ドラゴンの導きに従い、人間の国を蹂躙せよ。
口々に賛同する遠吠えを行った群れが、我先にと山を下る。彼らにとってグリュポスまでの距離は、わずか数時間だった。山を下り、人間を殺しながら進め。その先に見える都を滅ぼし、主に捧げるのだ。群れの動きを最後まで見送ってから、マルコシアスが走り出した。
一駆けで先頭を走るマーナガルムに追いつく。2mを超える巨大な狼を筆頭に、雪崩のような轟音を立てて魔物の群れは山を駆け抜けた。
仲良くなった彼女は、マルコシアスがもつ白い鬣に顔を埋めるのが大好きなのだ。訪ねるたびに抱き着くので、マルコシアスも慣れてしまった。喉のあたりをわしゃわしゃと掻いてくれる人の手は、心地よいのだ。ボスの毛皮に埋もれる少女が、この場で最強という事実を知らなければ、異常な光景だった。
「マルコシアス、戦する。いいな」
自分も出陣したい。戦って役に立ち、「よくやった」と褒めて欲しいのだ。しかし「まだ早い」と言われてしまった。しょんぼりしたリリアーナを慰めるように、巨狼は彼女の頬を舐める。顔の近くを牙がかすめても、リリアーナは恐怖を感じなかった。
すでに仲間として認識したのもあるが、いざとなれば竜化した自分のほうが強いと知っている。魔族や魔物は強い者がすべてだった。人間の城に攻撃を仕掛けたリリアーナが、サタンにおとなしく従った理由と同じだ。圧倒的な力こそすべてだった。
腕力であれ、魔力であれ、相手をねじ伏せた方が勝ち。強い者は弱い者を守り、弱者は強者に従う。世界不変のルールだった。魔族は当たり前に理解する掟を守らないのは、馬鹿な人間のみ。
「人間は馬鹿。サタン様、怒らせた」
ぐるるるっ、喉を鳴らしながら狼が近づいてきた。マルコスアスと同じ琥珀色の瞳を持つ狼は、他の狼より一回り大きい。それでもマルコシアスには及ばないが、同じように白い首の飾り毛を持っていた。
「マーナガルム、こっち来る」
手招きされたマーナガルムは、ごろんと腹を見せて寝転がった。いつもと同じ光景に頬を緩めたリリアーナが狼の腹を撫で、その上に抱き着く。頬ずりしてから、リリアーナは集まった狼の群れを確認した。
頼まれた仕事は、銀狼の群れを連れて隣国グリュポスに向かうこと。場所は聞かなくても覚えていた。つい先日、大量の死体を捨てた領地だ。今度は狼達を連れてグリュポスの辺境から侵入し、リリアーナは狼に損害が出ないように見守る役だった。
「できるな? リリアーナ」
そう告げたサタンの声を思い出し、リリアーナの表情が和らぐ。出来るだろうと思ったから任せてくれた。単純に嬉しいが、出来れば戦う役も任せてほしかったのだ。それを愚痴りながら狼達に甘えた。
『ドラゴン殿が思うより、主は信頼しておられるぞ』
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一駆けで先頭を走るマーナガルムに追いつく。2mを超える巨大な狼を筆頭に、雪崩のような轟音を立てて魔物の群れは山を駆け抜けた。
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