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第4章 愚王の成れの果て
80.屈服からの交渉ならば話が早い
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オリヴィエラの口角が持ち上がり、ゆらりとその姿が揺れた。待っていた通り、主と定めたサタン様のお言葉通り、愚か者は墓穴を掘ったのだ。自ら死を望む言葉を吐き出し、その意味に気づこうとしない。なんて愚かで、哀れで、愛しい生き物か。
グリフォンの姿に立ち戻らず、彼女は魔力でライオネスを床に這いつくばらせた。じわりと力を込めて押し、ついでに足元で不穏な呪文を呟く魔術師も潰す。
「本当にお馬鹿さんね」
「オリヴィエラ様、一応生かしておいてください」
モノクルを弄りながら、アガレスは溜め息をついた。実力行使にでる性格と踏んだが、王族をいきなり床に叩きつける暴挙に呆れる。せいぜいが頬を張るくらいだろうと考えたが、想像より直情的だった。最終的に同じ状況になるから問題はないのだが、いささか途中経過を省きすぎだ。
「ライオネス王弟殿下、そのままお聞きください。我がバシレイア聖国に与えた人的損害は58名、サタン様はその全員と遺族に対して5000万ゴールドの支出を決めました。これは1人当たりの金額で、王命による決定事項です」
「なっ……」
5000万ゴールドは、貴族であっても大金だった。豪遊していたバシレイア聖国の公爵家クラスであっても、2年以上遊べる。それを失われた平民の命の対価として支払う決定は、王族としては異常だった。みしみしと骨が軋むような激痛の中、ライオネスは気づく。
この国は多少の金を取り戻した。だがそこまで潤沢な資金があるわけではない。ならばどこから支払い金を捻出するのか。
王の留守を狙って攻め込んだ国の王族の謁見を、簡単に受け入れた理由がここにある。慰謝料と称し、大量の賠償金をグリュポスへ請求するつもりだ。自分達はその人質になる可能性があった。
「う、ぐ……思い、ど……りに」
「思い通りにさせないと? 私は構いません。その場合は貴国を瓦礫の山にします。城や街が崩れ去れば、後で金貨を集めやすいでしょう。私はそちらの案を押したのですが、魔王陛下は平和主義のようで……そのような蛮族の振る舞いは好まぬと仰せです。慈悲深い方でよかったですね」
決定事項を書いた書類を読みながら、床に圧迫されもがくライオネスに微笑みかける。その姿は魔王サタンが認めるに値する、残酷さと冷徹さ、そして有能過ぎる交渉術が滲んでいた。相手が反論することを予想し、織り込み、絶対に受け入れ不可能な案を盛り込んで脅迫する。
彼らに自分で選択したと思わせるため、徐々に酷い案を並べていく。数段階用意した案の中から、マシな案を提示したつもりのアガレスだが、ライオネスにとってはすでに悪夢だった。
「ああ、ご安心ください。人的被害はゼロに押さえてくださるそうです。逃げる時間はご用意します。その際に財産を持ち出す者がいれば、残念ですが不幸な結末を迎えるでしょう。あの方の眷属には魔狼などもおりますし……生きたまま腸を引きずり出される激痛は、私でもぞっとします」
機嫌よさそうに、とんでもない発言をする。アガレスの暗い一面に、ロゼマリアは情景を想像したのか失神した。腰に手を当てて見下ろすオリヴィエラは、興味深そうに微笑んだ。
「あなた、意外といいセンスしてるわね」
「グリフォン様にお誉めいただくほどではございません」
謙遜するアガレスの後ろで、マルファスが複雑そうに溜め息をついた。魔王陛下についていくのも大変だが、この側近アガレスやオリヴィエラの間に挟まれて仕事をすることへの苦労が見えた気がする。しかし逆に考えれば、これ以上面白い職場もないだろう。
「これも拾われた野良犬の運命ってやつか」
苦笑いして受け止める時点で、マルフォスも十分素質があるのだが……本人は気づいていなかった。
グリフォンの姿に立ち戻らず、彼女は魔力でライオネスを床に這いつくばらせた。じわりと力を込めて押し、ついでに足元で不穏な呪文を呟く魔術師も潰す。
「本当にお馬鹿さんね」
「オリヴィエラ様、一応生かしておいてください」
モノクルを弄りながら、アガレスは溜め息をついた。実力行使にでる性格と踏んだが、王族をいきなり床に叩きつける暴挙に呆れる。せいぜいが頬を張るくらいだろうと考えたが、想像より直情的だった。最終的に同じ状況になるから問題はないのだが、いささか途中経過を省きすぎだ。
「ライオネス王弟殿下、そのままお聞きください。我がバシレイア聖国に与えた人的損害は58名、サタン様はその全員と遺族に対して5000万ゴールドの支出を決めました。これは1人当たりの金額で、王命による決定事項です」
「なっ……」
5000万ゴールドは、貴族であっても大金だった。豪遊していたバシレイア聖国の公爵家クラスであっても、2年以上遊べる。それを失われた平民の命の対価として支払う決定は、王族としては異常だった。みしみしと骨が軋むような激痛の中、ライオネスは気づく。
この国は多少の金を取り戻した。だがそこまで潤沢な資金があるわけではない。ならばどこから支払い金を捻出するのか。
王の留守を狙って攻め込んだ国の王族の謁見を、簡単に受け入れた理由がここにある。慰謝料と称し、大量の賠償金をグリュポスへ請求するつもりだ。自分達はその人質になる可能性があった。
「う、ぐ……思い、ど……りに」
「思い通りにさせないと? 私は構いません。その場合は貴国を瓦礫の山にします。城や街が崩れ去れば、後で金貨を集めやすいでしょう。私はそちらの案を押したのですが、魔王陛下は平和主義のようで……そのような蛮族の振る舞いは好まぬと仰せです。慈悲深い方でよかったですね」
決定事項を書いた書類を読みながら、床に圧迫されもがくライオネスに微笑みかける。その姿は魔王サタンが認めるに値する、残酷さと冷徹さ、そして有能過ぎる交渉術が滲んでいた。相手が反論することを予想し、織り込み、絶対に受け入れ不可能な案を盛り込んで脅迫する。
彼らに自分で選択したと思わせるため、徐々に酷い案を並べていく。数段階用意した案の中から、マシな案を提示したつもりのアガレスだが、ライオネスにとってはすでに悪夢だった。
「ああ、ご安心ください。人的被害はゼロに押さえてくださるそうです。逃げる時間はご用意します。その際に財産を持ち出す者がいれば、残念ですが不幸な結末を迎えるでしょう。あの方の眷属には魔狼などもおりますし……生きたまま腸を引きずり出される激痛は、私でもぞっとします」
機嫌よさそうに、とんでもない発言をする。アガレスの暗い一面に、ロゼマリアは情景を想像したのか失神した。腰に手を当てて見下ろすオリヴィエラは、興味深そうに微笑んだ。
「あなた、意外といいセンスしてるわね」
「グリフォン様にお誉めいただくほどではございません」
謙遜するアガレスの後ろで、マルファスが複雑そうに溜め息をついた。魔王陛下についていくのも大変だが、この側近アガレスやオリヴィエラの間に挟まれて仕事をすることへの苦労が見えた気がする。しかし逆に考えれば、これ以上面白い職場もないだろう。
「これも拾われた野良犬の運命ってやつか」
苦笑いして受け止める時点で、マルフォスも十分素質があるのだが……本人は気づいていなかった。
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