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第3章 表と裏
58.消えた死体を捕まえろ、生かしたままだ
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文官候補としてアガレスに男を預け、城内を歩けばリリアーナが飛びついてきた。仕事が終わったので風呂に入るよう勧めたのだが、新しいワンピースを貰ったらしい。ロゼマリアから受け取った白い裾の長いワンピースは裾が広がるよう、ふんだんに布が使われていた。
くるくる回って見せるリリアーナに、微笑んで「よく似合う」と褒める。彼女は褒められると頑張るタイプに分類した。クリスティーヌも同様だ。だがオリヴィエラやロゼマリアは叱って方向を示す方が言うことを聞く。タイプにより育て方を変えるのも、優秀な主に求められる素質だろう。
何もない背後に一瞬だけ視線を向け、反対側から近づいてくる吸血鬼に意識を戻した。
「サタン様! みつけた、死体、歩いてる」
物騒な単語を叫びながら走ってきたクリスティーヌが、勢い余って腰に抱き着く。竜化した腕で強引に引っぺがしたリリアーナが唇を尖らせた。この悋気激しいところは多少面倒だが、焼きもち焼きの小動物はそれなりに愛らしい。ぽんと金髪の上に手を置けば、嬉しそうに尻尾が揺れた。
「どこにいた?」
「城壁の外、歩いてる! こっち、はやく!!」
連れ出そうとするクリスティーヌの興奮した様子に、リリアーナも興味を持ったらしい。歩く死体という不吉なキーワードに、目を期待に輝かせた。
「捕まえる?」
膝をついて2人と視線を合わせて命じる。
「捕まえてこい。ただし……生きたままだ。出来るか?」
「やる」
「うん」
先ほどまでの焼きもちが嘘のように、リリアーナはクリスティーヌと手を繋いで空に舞い上がる。翼と腕だけ竜化したまま、器用にクリスティーヌが示した方角へ飛んで行った。見送って、急に静かになった廊下で苦笑する。
本当に騒がしい連中だ。
「楽しそうですわね、サタン様」
魔力感知に引っ掛かったオリヴィエラが、するりと腕を絡めた。どこか甘い香りのする彼女を振り払う。不愉快という程でもないが、この女は要注意だ。状況次第でどちらにも寝返るだろう。だからといって排除する必要はない。利用しつつ気を許さず、優秀な手駒として管理するのが賢い使い方だった。
「どうした?」
豊満な胸を押し付けながら距離を縮めるオリヴィエラが、赤く毒々しい唇を横に引いて笑った。
「牢での虐殺は夢魔、その他に一角獣が動いておりますわ」
「情報が古い。もう襲撃された後だ」
「え?」
オリヴィエラは予想外の言葉に目を見開く。大きな青い瞳が零れそうなほど開かれ、口元を手が覆った。赤い口紅が見えなくなるだけで、だいぶ幼い印象になる。
「リリアーナとクリスティーヌが捕らえに出た」
「あのお嬢さん、意外とやるのね」
素直な感嘆の言葉をこぼし、焦げ茶の髪を揺らして一礼したオリヴィエラが「また寄りますわ」と微笑む。どうやら知略の王で名を馳せる種族として、有用な情報をもたらせなかったことに焦ったらしい。大急ぎで姿を消した。魔法陣が足元に浮かんだあと、彼女の姿は影形なく転移を終える。
見るとはなしに座標を読み解いたオレは、一応その記号と数字を記憶した。こういった役目はアースティルティトの役目なのだが……僅か1週間前まで一緒にいた部下を思い出しながら、溜め息をつく。彼女がいない以上、すべて自分でこなすしかない。手間は増えるが、成し遂げた達成感も一入だろう。
「ナイトメア……」
オリヴィエラのもたらした情報で、この世界の現在の魔王は夢魔だと聞いている。魔王自ら動くわけはないし、動いたなら牢内の罪人よりオレやリリアーナを狙うはずだ。
夢を見ない死の眠りを持つ、吸血種のクリスティーヌをぶつけるのが最適だった。問題は彼女の知能が多少足りず、幼過ぎるところだが……。そこを何とかするのが腕の見せ所だと割り切って、廊下を足早に進んだ。
くるくる回って見せるリリアーナに、微笑んで「よく似合う」と褒める。彼女は褒められると頑張るタイプに分類した。クリスティーヌも同様だ。だがオリヴィエラやロゼマリアは叱って方向を示す方が言うことを聞く。タイプにより育て方を変えるのも、優秀な主に求められる素質だろう。
何もない背後に一瞬だけ視線を向け、反対側から近づいてくる吸血鬼に意識を戻した。
「サタン様! みつけた、死体、歩いてる」
物騒な単語を叫びながら走ってきたクリスティーヌが、勢い余って腰に抱き着く。竜化した腕で強引に引っぺがしたリリアーナが唇を尖らせた。この悋気激しいところは多少面倒だが、焼きもち焼きの小動物はそれなりに愛らしい。ぽんと金髪の上に手を置けば、嬉しそうに尻尾が揺れた。
「どこにいた?」
「城壁の外、歩いてる! こっち、はやく!!」
連れ出そうとするクリスティーヌの興奮した様子に、リリアーナも興味を持ったらしい。歩く死体という不吉なキーワードに、目を期待に輝かせた。
「捕まえる?」
膝をついて2人と視線を合わせて命じる。
「捕まえてこい。ただし……生きたままだ。出来るか?」
「やる」
「うん」
先ほどまでの焼きもちが嘘のように、リリアーナはクリスティーヌと手を繋いで空に舞い上がる。翼と腕だけ竜化したまま、器用にクリスティーヌが示した方角へ飛んで行った。見送って、急に静かになった廊下で苦笑する。
本当に騒がしい連中だ。
「楽しそうですわね、サタン様」
魔力感知に引っ掛かったオリヴィエラが、するりと腕を絡めた。どこか甘い香りのする彼女を振り払う。不愉快という程でもないが、この女は要注意だ。状況次第でどちらにも寝返るだろう。だからといって排除する必要はない。利用しつつ気を許さず、優秀な手駒として管理するのが賢い使い方だった。
「どうした?」
豊満な胸を押し付けながら距離を縮めるオリヴィエラが、赤く毒々しい唇を横に引いて笑った。
「牢での虐殺は夢魔、その他に一角獣が動いておりますわ」
「情報が古い。もう襲撃された後だ」
「え?」
オリヴィエラは予想外の言葉に目を見開く。大きな青い瞳が零れそうなほど開かれ、口元を手が覆った。赤い口紅が見えなくなるだけで、だいぶ幼い印象になる。
「リリアーナとクリスティーヌが捕らえに出た」
「あのお嬢さん、意外とやるのね」
素直な感嘆の言葉をこぼし、焦げ茶の髪を揺らして一礼したオリヴィエラが「また寄りますわ」と微笑む。どうやら知略の王で名を馳せる種族として、有用な情報をもたらせなかったことに焦ったらしい。大急ぎで姿を消した。魔法陣が足元に浮かんだあと、彼女の姿は影形なく転移を終える。
見るとはなしに座標を読み解いたオレは、一応その記号と数字を記憶した。こういった役目はアースティルティトの役目なのだが……僅か1週間前まで一緒にいた部下を思い出しながら、溜め息をつく。彼女がいない以上、すべて自分でこなすしかない。手間は増えるが、成し遂げた達成感も一入だろう。
「ナイトメア……」
オリヴィエラのもたらした情報で、この世界の現在の魔王は夢魔だと聞いている。魔王自ら動くわけはないし、動いたなら牢内の罪人よりオレやリリアーナを狙うはずだ。
夢を見ない死の眠りを持つ、吸血種のクリスティーヌをぶつけるのが最適だった。問題は彼女の知能が多少足りず、幼過ぎるところだが……。そこを何とかするのが腕の見せ所だと割り切って、廊下を足早に進んだ。
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