上 下
54 / 438
第3章 表と裏

52.首輪の代わりを与えよう

しおりを挟む
 契約を終えた2人を連れて倉庫に戻る。中に放り出していた品から指輪が入った宝石箱を見つけ、彼女らに与えることにした。能力の高い魔族が死ぬと、魔石と呼ばれる宝石を残す。正確には封印されても宝石状態になるので、封魔石ふうませきと呼称されることもあった。

「綺麗、すごい」

 覗き込んだリリアーナが目を丸くする。彼女達の足りない言葉を総合して判断した結果、この世界でも魔族が死んだり封印されると宝石になることが判明した。そういった宝石は自然発生した鉱石と違い、魔力を強く帯びているので一目で判断がつくことが多い。

「これ、魔力ぴかぴか、する」

 食い入るように見つめる先に、美しい琥珀色の指輪があった。魅了眼を持つバンパイアの石だったと思うので、リリアーナと相性がいいのだろう。よほど眩しく見えるようで、瞬きを何度も繰り返すが目を逸らそうとしなかった。

「ならば、これをリリアーナにやろう」

 摘まんで差し出すと、嬉しそうに左手の薬指を指さす。一番心臓に近い指で、もっとも魔力が強く影響するとアースティルティトも口にしていた。その指を指定するとは、リリアーナも上位魔族の娘ということか。納得して魔力で指輪の地金を調整した。嵌めてから指輪のサイズを合わせるため、簡単に抜けない。

 目を輝かせて左手の薬指の指輪を喜ぶ。羨ましそうにしながらも、大人しく選ぶ順番を待っていたクリスティーヌが宝石箱から選んだのは、深色の蒼玉だった。夜空の色と表現すればロマンチックだが、透明度が低い宝石だ。記憶にないので受け取って鑑定してみる。

 シードラゴンの封魔石と表示されたため、納得した。死した後に残される魔石と違い、封魔石はやや濁って色が濃くなる傾向がある。このシードラゴンも死んだ後に結晶化したなら、もっと透明度が高いサファイヤだっただろう。

「これがいい」

 金色の地金はオリハルコンだったか。リリアーナに倣って、同じ指を希望したので嵌めて調整してやる。満足そうに見せ合って笑う少女達は愛らしかった。いくら愛玩動物でも人型タイプの魔族に首輪は付けられないと迷っていたが、これで褒美を兼ねた魔力補強も出来てひとつ悩みが片付いた。

「なくさない、ありがとう」

 頬を染めてお礼を口にするリリアーナを撫でて、倉庫に並べていた品を確認しながら仕舞うことにした。すべて取り出した収納だが、開くと中に手紙が入っている。前回と同じ薄緑の封筒だった。おそらくアースティルティトだ。

 倉庫を片付け終えると、残しておいた家具を丁寧に並べ直す。使わなかったベッドや棚、家具を配置して魔法で浄化すれば、倉庫内は見違えるほどきれいな部屋になった。クリスティーヌに後宮の余った部屋を使わせようとしたのだが、寝ている昼間に人が入れる建物は恐いと泣かれる。

 なにやらトラウマもありそうなので触れずに慰め、本人の希望通りに部屋を整えた。吸血蝙蝠のジンも一緒に暮らすようなので、倉庫は確かに向いているかも知れない。あとはこの場所に目くらましをかけて、ドワーフなどの精霊や他の魔族が近づかない結界を張ればいい。

 準備を終えて一度外へ出ると、夕暮れ近い空が赤く染まっていた。

「……大変です、サタン様!!」

 案内のドワーフに付き従い、乳母に支えられたロゼマリアが駆け寄ってくる。彼女の大変はどの程度なのかわからぬが、騒動が大きいのは人間の特徴だった。そのため大した問題ではないと悠長に構えていたオレに、とんでもない言葉が飛び込む。

「先ほど離宮に賊が入り……料理番と侍女が数人殺されました……っ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

家族に辺境追放された貴族少年、実は天職が《チート魔道具師》で内政無双をしていたら、有能な家臣領民が続々と移住してきて本家を超える国力に急成長

ハーーナ殿下
ファンタジー
 貴族五男ライルは魔道具作りが好きな少年だったが、無理解な義理の家族に「攻撃魔法もろくに使えない無能者め!」と辺境に追放されてしまう。ライルは自分の力不足を嘆きつつ、魔物だらけの辺境の開拓に一人で着手する。  しかし家族の誰も知らなかった。実はライルが世界で一人だけの《チート魔道具師》の才能を持ち、規格外な魔道具で今まで領地を密かに繁栄させていたことを。彼の有能さを知る家臣領民は、ライルの領地に移住開始。人の良いライルは「やれやれ、仕方がないですね」と言いながらも内政無双で受け入れ、口コミで領民はどんどん増えて栄えていく。  これは魔道具作りが好きな少年が、亡国の王女やエルフ族長の娘、親を失った子どもたち、多くの困っている人を受け入れ助け、規格外の魔道具で大活躍。一方で追放した無能な本家は衰退していく物語である。

家族に無能と追放された冒険者、実は街に出たら【万能チート】すぎた、理由は家族がチート集団だったから

ハーーナ殿下
ファンタジー
 冒険者を夢見る少年ハリトは、幼い時から『無能』と言われながら厳しい家族に鍛えられてきた。無能な自分は、このままではダメになってしまう。一人前の冒険者なるために、思い切って家出。辺境の都市国家に向かう。  だが少年は自覚していなかった。家族は【天才魔道具士】の父、【聖女】の母、【剣聖】の姉、【大魔導士】の兄、【元勇者】の祖父、【元魔王】の祖母で、自分が彼らの万能の才能を受け継いでいたことを。  これは自分が無能だと勘違いしていた少年が、滅亡寸前の小国を冒険者として助け、今までの努力が実り、市民や冒険者仲間、騎士、大商人や貴族、王女たちに認められ、大活躍していく逆転劇である。

残滓と呼ばれたウィザード、絶望の底で大覚醒! 僕を虐げてくれたみんなのおかげだよ(ニヤリ)

SHO
ファンタジー
15歳になり、女神からの神託の儀で魔法使い(ウィザード)のジョブを授かった少年ショーンは、幼馴染で剣闘士(ソードファイター)のジョブを授かったデライラと共に、冒険者になるべく街に出た。 しかし、着々と実績を上げていくデライラとは正反対に、ショーンはまともに魔法を発動する事すら出来ない。 相棒のデライラからは愛想を尽かされ、他の冒険者たちからも孤立していくショーンのたった一つの心の拠り所は、森で助けた黒ウサギのノワールだった。 そんなある日、ショーンに悲劇が襲い掛かる。しかしその悲劇が、彼の人生を一変させた。 無双あり、ザマァあり、復讐あり、もふもふありの大冒険、いざ開幕!

破壊神の加護を持っていた僕は国外追放されました  ~喋る黒猫と世界を回るルーン技師の**候補冒険記~

剣之あつおみ
ファンタジー
剣と魔法の共存する世界「レナスディア」 かつて破壊神に滅ぼされかけたこの世界は、異界より現れた6人の英雄によって救われる。 そして彼等の活躍は伝説として語られる程の長い年月が過ぎた。 その伝説の始まりの街とされるアルテナ国の平民街に住む少年ラルクは中学校卒業と同時に行われる「成人の儀」を境に人生が一変する。 ――彼は世にも珍しい「破壊神の加護」を持っていた。 破壊神は世界を滅ぼす存在として、その名前すらも禁忌される程の存在。 ラルクは危険な存在として捕らわれる事となった。 そして「不死」という能力も同時に発覚した彼は激しい拷問の末、国外追放を命じられる。 気が付いた時には大海原を走る船の倉庫だった。 ・・・彼はそこで世にも不思議な喋る猫スピカと出会う。 この物語は運命の出会いとルーン技師の才能に目覚め、数々の偉業を成し遂げる少年のお話です。 前日譚 なんだこのギルドネカマしかいない! Ψギルドごと異世界に行ったら実は全員ネカマだったΨ https://www.alphapolis.co.jp/novel/288355361/518780651

転生したら死にそうな孤児だった

佐々木鴻
ファンタジー
過去に四度生まれ変わり、そして五度目の人生に目覚めた少女はある日、生まれたばかりで捨てられたの赤子と出会う。 保護しますか? の選択肢に【はい】と【YES】しかない少女はその子を引き取り妹として育て始める。 やがて美しく育ったその子は、少女と強い因縁があった。 悲劇はありません。難しい人間関係や柵はめんどく(ゲフンゲフン)ありません。 世界は、意外と優しいのです。

転移は猟銃と共に〜狩りガールの異世界散歩

柴田 沙夢
ファンタジー
アラサー狩りガールが、異世界転移した模様。 神様にも、仏様にも会ってないけど。 テンプレなのか、何なのか、身体は若返って嬉しいな。 でも、初っぱなから魔獣に襲われるのは、マジ勘弁。 異世界の獣にも、猟銃は使えるようです。威力がわやになってる気がするけど。 一緒に転移した後輩(男)を守りながら、頑張って生き抜いてみようと思います。 ※ 一章はどちらかというと、設定話です。異世界に行ってからを読みたい方は、二章からどうぞ。 ******* 一応保険でR-15 主人公、女性ですが、口もガラも悪めです。主人公の話し方は基本的に方言丸出し気味。男言葉も混ざります。気にしないで下さい。 最初、若干の鬱展開ありますが、ご容赦を。 狩猟や解体に絡み、一部スプラッタ表現に近いものがありますので、気をつけて。 微エロ風味というか、下ネタトークありますので、苦手な方は回避を。 たまに試される大地ネタ挟みます。ツッコミ大歓迎。 誤字脱字は発見次第駆除中です。ご連絡感謝。 ファンタジーか、恋愛か、迷走中。 初投稿です。よろしくお願いします。 ********************* 第12回ファンタジー小説大賞 投票結果は80位でした。(応募総数 2,937作品) 皆さま、ありがとうございました〜(*´꒳`*)

間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜

舞桜
ファンタジー
 初めまして!私の名前は 沙樹崎 咲子 35歳 自営業 独身です‼︎よろしくお願いします‼︎  って、何故こんなにハイテンションかと言うとただ今絶賛大パニック中だからです!  何故こうなった…  突然 神様の手違いにより死亡扱いになってしまったオタクアラサー女子、 手違いのお詫びにと色々な加護とチートスキルを貰って異世界に転生することに、 だが転生した先でまたもや神様の手違いが‼︎  転生したオタクアラサー女子は意外と物知りで有能?  そして死亡する原因には不可解な点が…  様々な思惑と神様達のやらかしで異世界ライフを楽しく過ごす主人公、 目指すは“のんびり自由な冒険者ライフ‼︎“  そんな主人公は無自覚に色々やらかすお茶目さん♪ *神様達は間違いをちょいちょいやらかします。これから咲子はどうなるのかのんびりできるといいね!(希望的観測っw) *投稿周期は基本的には不定期です、3日に1度を目安にやりたいと思いますので生暖かく見守って下さい *この作品は“小説家になろう“にも掲載しています

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

処理中です...