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最終章 御伽噺はこうして終わる
129.もう逃げられぬぞ
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薔薇色は女神ネメシアの象徴だ。リクニスの血族に生まれたクナウティアに与えた加護は、彼女の髪色に宿った。早い段階から聖女候補とされたクナウティアだが、実は5歳まで髪色は銀だった。家族や巫女だけが知る話を、クナウティア本人は知らない。
母親と同じ銀髪に戻った毛先を摘まみ、不思議そうに首を傾けた。
「お母様と同じね」
そう笑うクナウティアは気づいていない。12歳前後の幼い姿だった彼女が、年齢相応に成長していた。母であるリナリアによく似ている。
「外に出てみましょうよ」
はしゃいだ声に誘われて、テラスへ続く扉を押し開く。途端に魔族の歓喜の声はさらに大きく響いた。魔力が溢れ濃くなった世界は、魔族の魔力をさらに高める。暮らす人間も魔力の影響を経て変化するだろう。
魔力が多い者が魔族になったのではなく、世界に満ちる魔力を浴びて育つから魔力量の多い魔族が生まれるのだ。今更ながらにそれを実感した。魔法が使える人間から影響が出て、やがて魔力を持たない人間は消える。この世界で新たに生まれる子供達は、皆当たり前に魔力を操れるはずだった。
「魔王様万歳!」
「我らは戻ってきた」
魔王城に詰め掛けた魔族が、大きな声で祝いや万歳を叫び、帰還を喜ぶ。助かったと安堵の息をつく人間と手を取り、踊る者までいた。この興奮が収まれば、また新たな火種を放つものも出るだろう。それを仲裁し、処罰して世界を安定させるのが、魔王本来の役目だ。
「クナウティア、もう逃げられぬぞ」
この世界は閉ざされた。女神ネメシアの助けももうない。そなたは余の箱庭に囚われた子羊も同然……そう告げる物騒な独占欲の吐露に、銀髪に戻った元聖女は頬を緩めた。
「逃げる気なんてないわ」
中身は何も変わっていない。魔王の腕に抱きこまれ、押し倒され奪われても、彼女は同じように笑うのだろう。想像がついて、シオンは顔を上げて民の歓声に応えた。
「あっ! いた!!」
外へ飛び出したセージは、見つけた茶髪の女性に駆け寄った。
「サルビアさん!」
「え、あ……私?」
驚いて目を瞠るサルビアの足が止まる。妹の手を引き、逆の手にバケツを持っていた。水を汲みに出た彼女は、鮮やかな世界でも生き抜く逞しさを発揮する。近くの泉から持ち帰った水が入ったバケツを置くと、セージはその前で膝をついた。
「あの後探してたんだ」
眠っていた聖女に花を届けた後の話だろう。落とし物でもしたのかしら。向き直ったサルビアの手を捧げ持ち、受け取ろうと上向きの手のひらに唇を当てた。セージの行動にびっくりして手を引こうとするが、手首を掴んだ力は強くないのに抜けない。
懇願のキスをして、くるりと手を裏返した。最後にピンクに爪を染めたのは、3日前だ。商売女の証明である爪を隠すように握ろうとしたサルビアに、セージは見せつけるように爪に唇を寄せる。
「だ、だめだよ」
「俺の妻になってください」
「あんたは勇者だろ! もっと若くて綺麗なお嫁さんをもらえば……」
「サルビアさんがいい」
言い切られ、隣の妹が嬉しそうに手を叩いた。
「素敵! お姉ちゃんは勇者様のお嫁さんになるのね」
否定するより早く、周囲から湧き起こった拍手と向けられる笑みに困惑した。
母親と同じ銀髪に戻った毛先を摘まみ、不思議そうに首を傾けた。
「お母様と同じね」
そう笑うクナウティアは気づいていない。12歳前後の幼い姿だった彼女が、年齢相応に成長していた。母であるリナリアによく似ている。
「外に出てみましょうよ」
はしゃいだ声に誘われて、テラスへ続く扉を押し開く。途端に魔族の歓喜の声はさらに大きく響いた。魔力が溢れ濃くなった世界は、魔族の魔力をさらに高める。暮らす人間も魔力の影響を経て変化するだろう。
魔力が多い者が魔族になったのではなく、世界に満ちる魔力を浴びて育つから魔力量の多い魔族が生まれるのだ。今更ながらにそれを実感した。魔法が使える人間から影響が出て、やがて魔力を持たない人間は消える。この世界で新たに生まれる子供達は、皆当たり前に魔力を操れるはずだった。
「魔王様万歳!」
「我らは戻ってきた」
魔王城に詰め掛けた魔族が、大きな声で祝いや万歳を叫び、帰還を喜ぶ。助かったと安堵の息をつく人間と手を取り、踊る者までいた。この興奮が収まれば、また新たな火種を放つものも出るだろう。それを仲裁し、処罰して世界を安定させるのが、魔王本来の役目だ。
「クナウティア、もう逃げられぬぞ」
この世界は閉ざされた。女神ネメシアの助けももうない。そなたは余の箱庭に囚われた子羊も同然……そう告げる物騒な独占欲の吐露に、銀髪に戻った元聖女は頬を緩めた。
「逃げる気なんてないわ」
中身は何も変わっていない。魔王の腕に抱きこまれ、押し倒され奪われても、彼女は同じように笑うのだろう。想像がついて、シオンは顔を上げて民の歓声に応えた。
「あっ! いた!!」
外へ飛び出したセージは、見つけた茶髪の女性に駆け寄った。
「サルビアさん!」
「え、あ……私?」
驚いて目を瞠るサルビアの足が止まる。妹の手を引き、逆の手にバケツを持っていた。水を汲みに出た彼女は、鮮やかな世界でも生き抜く逞しさを発揮する。近くの泉から持ち帰った水が入ったバケツを置くと、セージはその前で膝をついた。
「あの後探してたんだ」
眠っていた聖女に花を届けた後の話だろう。落とし物でもしたのかしら。向き直ったサルビアの手を捧げ持ち、受け取ろうと上向きの手のひらに唇を当てた。セージの行動にびっくりして手を引こうとするが、手首を掴んだ力は強くないのに抜けない。
懇願のキスをして、くるりと手を裏返した。最後にピンクに爪を染めたのは、3日前だ。商売女の証明である爪を隠すように握ろうとしたサルビアに、セージは見せつけるように爪に唇を寄せる。
「だ、だめだよ」
「俺の妻になってください」
「あんたは勇者だろ! もっと若くて綺麗なお嫁さんをもらえば……」
「サルビアさんがいい」
言い切られ、隣の妹が嬉しそうに手を叩いた。
「素敵! お姉ちゃんは勇者様のお嫁さんになるのね」
否定するより早く、周囲から湧き起こった拍手と向けられる笑みに困惑した。
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