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第4章 リクニスの盟約
107.眠れぬ夜に聖女は開き直る
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みんな、難しく考えすぎるのよ。1人になった部屋でベッドに寝転ぶ。窓の外の星空は綺麗で、雲が月にかかって光を遮った。
薄暗くなった部屋でごろんと転がる。両親と婚約後の相談をするセントーレアが部屋を出て、あっという間に誰もいなくなった部屋は広く感じた。
やけに静かだわ。物音がしない部屋で、クナウティアはベッドの上に座った。スプリングの軋む音が少し、後は外から聞こえるフクロウの声だけ。風も強くないようで、葉擦れの音もなかった。
「魔王様の奥さん」
お嫁さんという表現より、現実感があった。周りが大騒ぎするほど、クナウティアは大きな決断だと思っていない。貴族令嬢なら嫌いな人に嫁ぐこともある……それは近所のおばさんに聞いた話だ。城塞都市リキマシアのご近所さんは貴族以外も多かった。
好きな人と結婚できる平民、家のために政略結婚する貴族。両極端な例を出され、可哀想にと同情された。その時、なんて答えたかしら。
うーんと唸りながら枕を抱きしめる。昼間から眠ってしまったため、全然眠くならない。過去の生活で一番豪華な寝台で、シーツにシワを作りながら転がった。王宮のベッドの記憶はあまりないが、やはり柔らかかったわよね。思い出せない記憶辿りに飽きて、違う方向へ思考が転がり始めた。
王子様は金髪碧眼で綺麗だった。だけど、結婚したいかと問われたら違う。聖女になったら、恥ずかしい仕事もするのかと思ったけど、今のところそんなこともない。それは王宮を出て、魔王様の所にいるからかも?
だって王子様はいきなり迎えに来て、豪華な部屋に入れた。まるでお姫様みたいに着飾らせて、セージ兄様と引き離されたのも。私はあのままだったら、サルビアさんが言っていた、蔑まれる仕事をさせられたんじゃない?
王都で親切にも泊まらせてくれた女性を思い出す。聖女なんて蔑まれると教えてくれた人だ。教会では誰も教えてくれなかったし、無理やり閉じ込められ手足を縛られた。
でも魔族はそんなことしない。魔王様も優しかった。このまま魔族のお城にいたら、私は幸せになれると思う。夜が更けていく。緩やかに雲を押す上空の風が、ようやく月の顔を晒した。
明るくなった庭に揺れる花は、すべて青く見える。夜になると世界は昼とは違う顔を見せた。
物語でお姫様の危機に駆けつけるのは、いつも王子様だ。王宮が危険だったなら、その危機に駆けつけて助けてくれたのは――魔王様だった。
「うん、お父様とお母様にお話ししてから魔王様にお返事しなくちゃ」
この時点でクナウティアは、魔王へ嫁ぐ気持ちを固めていた。誤解や勘違いの土台の上にある気持ちだが、彼らの優しさに嘘はない。その一点だけを信じ、クナウティアは若草色の目を閉じた。夜明けまで後少し……寝ないと明日が辛いわ。
子供の頃に夜更かしした翌日、朝起きられずに叱られた記憶が過ぎる。ちゃんと起きられないと叱られちゃうわ。漠然とそう思いながら、クナウティアは眠りの腕をようやく掴んだ。
同じ頃、最上階の部屋で魔王シオンは月を眺める。整理できない気持ちを確かめるように、手にしたグラスの縁を指先でなぞりながら。
薄暗くなった部屋でごろんと転がる。両親と婚約後の相談をするセントーレアが部屋を出て、あっという間に誰もいなくなった部屋は広く感じた。
やけに静かだわ。物音がしない部屋で、クナウティアはベッドの上に座った。スプリングの軋む音が少し、後は外から聞こえるフクロウの声だけ。風も強くないようで、葉擦れの音もなかった。
「魔王様の奥さん」
お嫁さんという表現より、現実感があった。周りが大騒ぎするほど、クナウティアは大きな決断だと思っていない。貴族令嬢なら嫌いな人に嫁ぐこともある……それは近所のおばさんに聞いた話だ。城塞都市リキマシアのご近所さんは貴族以外も多かった。
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うーんと唸りながら枕を抱きしめる。昼間から眠ってしまったため、全然眠くならない。過去の生活で一番豪華な寝台で、シーツにシワを作りながら転がった。王宮のベッドの記憶はあまりないが、やはり柔らかかったわよね。思い出せない記憶辿りに飽きて、違う方向へ思考が転がり始めた。
王子様は金髪碧眼で綺麗だった。だけど、結婚したいかと問われたら違う。聖女になったら、恥ずかしい仕事もするのかと思ったけど、今のところそんなこともない。それは王宮を出て、魔王様の所にいるからかも?
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でも魔族はそんなことしない。魔王様も優しかった。このまま魔族のお城にいたら、私は幸せになれると思う。夜が更けていく。緩やかに雲を押す上空の風が、ようやく月の顔を晒した。
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子供の頃に夜更かしした翌日、朝起きられずに叱られた記憶が過ぎる。ちゃんと起きられないと叱られちゃうわ。漠然とそう思いながら、クナウティアは眠りの腕をようやく掴んだ。
同じ頃、最上階の部屋で魔王シオンは月を眺める。整理できない気持ちを確かめるように、手にしたグラスの縁を指先でなぞりながら。
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