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第2章 目覚めた魔王の決断
51.正確な場所、知らないけど
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途中で数人挟んで届いた手紙に、ルドベキアは眉をひそめた。長男セージの手紙を机の上に放ると、バンと大きな音を立てて机を叩く。驚いた顔で歩み寄った母リナリアは手紙を拾い、中身に目を見開いた。
「僕にも読ませて」
次男ニームが母の手から受け取った手紙には、予想外の言葉が並んでいた。読んだリナリアもニームも絶句する。
――クナウティアが魔王に拐われた。協力求む。
短すぎる文章に、言い訳も謝罪も入っていなかった。セージは己の手で妹を取り返す算段をつけているのだ。それでも戦力が足りないのだろう。王家の兵や騎士をかき集めたところで、勇者がいない陣営が魔王と対等に戦うのは無理だった。それこそ強大な力を持つ協力者が必要だ。
「セージの奴、何のために……」
唸るように吐き出した言葉は、手放すのではなかったと後悔する響きが滲む。手元ならば、命懸けでクナウティアを守った。そう滲ませた父ルドベキアの嘆きに、母リナリアは淡々と言い切った。
「泣いてる時間はないわ。ほら、急いで」
あと少しで故郷に着く。そこなら助けてくれる仲間もたくさんいるのだから。尻を叩く妻に頷き、ルドベキアは急ぎ荷物をまとめた。この宿は明日までの予定だったが、自分だけでも先に行きたいと気が焦る。
「僕も行くよ」
ニームも荷造りしようとするが、リナリアはそれを止めた。
「ニームはセレアちゃんと一緒にいらっしゃい」
さっさと荷馬車のある宿の裏まで歩いた母は、ひとつ深呼吸して手のひらに何か文字を描いた。隣のルドベキアが大急ぎで荷物を引き寄せる。リナリアが詠唱する言葉は異国のもので、音楽のように響いた。知らないはずの言語を、ニームは重ねるように口遊む。
「荷物を収納するわ」
魔法陣で作り出した空間へ、荷馬車の荷物を片っ端から放り込んだ。愛用の椅子や衣服も関係なく、とにかく中に投げ入れる。荷馬車から馬を切り離し、ルドベキアが飛び乗る。ここまで、あっという間だった。
娘クナウティアを迎えに行った時の、黒毛馬だった。荷馬車を引くような足の太い馬ではなく、騎士や将軍の馬であってもおかしくない種類の馬だ。その背に飛び乗ったルドベキアが手を伸ばし、妻リナリアを引いた。
彼女も軽い身のこなしで飛び乗ると、目の前の鬣にしっかり掴まる。
「先に行きますから、後から追いかけていらっしゃい」
「門番には話しておく」
リナリアとルドベキアは指示を終えると、馬を走らせた。息子を置いて。
「……父上、僕……」
セントーレアの一家は同族ではない。だがニームと結婚するなら家族となり、一族は彼女らを迎えてくれるだろう。問題はそこではなく……。
「場所、ちゃんと覚えてない」
怒涛の勢いに押されて言えなかったが、ぼんやりとしか場所を覚えていないのだ。大体の方角がわかれば、なんとかなるだろうか。最後に一族を訪ねたのは、まだ5歳だった。妹クナウティアはその時の滞在で生まれたのだと思う。
不安を抱えながら宿に戻り、宿屋の主人経由で荷馬車を買い取ってもらう手筈を整えた。婚約者達のいる隣室のドアをノックしながら、ニームはひとまず気持ちを切り替える。
大丈夫、唯一道を知る僕が不安そうにしていたら、セレアや未来の父母も不安になるだろう。父母の不在を「先に行って準備している」と説明しながら、ニームは笑顔が引きつっていないことを願った。
「僕にも読ませて」
次男ニームが母の手から受け取った手紙には、予想外の言葉が並んでいた。読んだリナリアもニームも絶句する。
――クナウティアが魔王に拐われた。協力求む。
短すぎる文章に、言い訳も謝罪も入っていなかった。セージは己の手で妹を取り返す算段をつけているのだ。それでも戦力が足りないのだろう。王家の兵や騎士をかき集めたところで、勇者がいない陣営が魔王と対等に戦うのは無理だった。それこそ強大な力を持つ協力者が必要だ。
「セージの奴、何のために……」
唸るように吐き出した言葉は、手放すのではなかったと後悔する響きが滲む。手元ならば、命懸けでクナウティアを守った。そう滲ませた父ルドベキアの嘆きに、母リナリアは淡々と言い切った。
「泣いてる時間はないわ。ほら、急いで」
あと少しで故郷に着く。そこなら助けてくれる仲間もたくさんいるのだから。尻を叩く妻に頷き、ルドベキアは急ぎ荷物をまとめた。この宿は明日までの予定だったが、自分だけでも先に行きたいと気が焦る。
「僕も行くよ」
ニームも荷造りしようとするが、リナリアはそれを止めた。
「ニームはセレアちゃんと一緒にいらっしゃい」
さっさと荷馬車のある宿の裏まで歩いた母は、ひとつ深呼吸して手のひらに何か文字を描いた。隣のルドベキアが大急ぎで荷物を引き寄せる。リナリアが詠唱する言葉は異国のもので、音楽のように響いた。知らないはずの言語を、ニームは重ねるように口遊む。
「荷物を収納するわ」
魔法陣で作り出した空間へ、荷馬車の荷物を片っ端から放り込んだ。愛用の椅子や衣服も関係なく、とにかく中に投げ入れる。荷馬車から馬を切り離し、ルドベキアが飛び乗る。ここまで、あっという間だった。
娘クナウティアを迎えに行った時の、黒毛馬だった。荷馬車を引くような足の太い馬ではなく、騎士や将軍の馬であってもおかしくない種類の馬だ。その背に飛び乗ったルドベキアが手を伸ばし、妻リナリアを引いた。
彼女も軽い身のこなしで飛び乗ると、目の前の鬣にしっかり掴まる。
「先に行きますから、後から追いかけていらっしゃい」
「門番には話しておく」
リナリアとルドベキアは指示を終えると、馬を走らせた。息子を置いて。
「……父上、僕……」
セントーレアの一家は同族ではない。だがニームと結婚するなら家族となり、一族は彼女らを迎えてくれるだろう。問題はそこではなく……。
「場所、ちゃんと覚えてない」
怒涛の勢いに押されて言えなかったが、ぼんやりとしか場所を覚えていないのだ。大体の方角がわかれば、なんとかなるだろうか。最後に一族を訪ねたのは、まだ5歳だった。妹クナウティアはその時の滞在で生まれたのだと思う。
不安を抱えながら宿に戻り、宿屋の主人経由で荷馬車を買い取ってもらう手筈を整えた。婚約者達のいる隣室のドアをノックしながら、ニームはひとまず気持ちを切り替える。
大丈夫、唯一道を知る僕が不安そうにしていたら、セレアや未来の父母も不安になるだろう。父母の不在を「先に行って準備している」と説明しながら、ニームは笑顔が引きつっていないことを願った。
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