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第2章 目覚めた魔王の決断

50.火力不足で足並み揃わず

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 魔王の居場所を特定するのは簡単だ。数十回と行われた魔王城への襲撃は、そのほとんどが記録として残されていた。

 魔王城は、魔王が目覚めると同時に出現する。正確には触れられるようになるのだ。同じ場所に存在するが、魔王が封印され眠りについた間は陽炎のように揺れる姿が見えるだけだった。この期間に魔王城へ入れた者は誰もいない。

 そう、過去の勇者ですら入れなかった。記録された書物を開き、リアトリスは手元の地図の一点を指し示す。魔物の森と呼ばれる危険地帯の真ん中だ。

「ここだ」

 示された場所をじっくり眺めた後、セージは椅子の背もたれに寄り掛かった。身体を反らせて天井のシャンデリアを睨みつける。考え事をするときの癖だった。動かないものをじっくり見ながら、頭の中で状況や情報を組み立てる。

 魔王の封印で強大な力をもつ魔族は眠らせることが出来る。しかし、知性のない魔物は現世に残った。魔王がいた頃に比べれば弱体化するため、腕試しに狩る騎士や冒険者もいる。

 魔王が復活した今、魔物は活性化しているだろう。魔物の森の脅威度は数倍に跳ね上がり、抜けることは難しかった。

「ここへたどり着く方法を考えよう」

「その前に前提条件の確認です」

 商人として各地を渡り歩くセージの言葉に、リアトリスは一度言葉を切った。彼の話を聞いた方がいい。帝王学を修めた彼は、他者の話を引き出してまとめる行為に抵抗がなかった。己の主張ばかりする王族は、部下に切り捨てられると事例をもって理解している。

「わかった」

 同行させる騎士や魔法士の数と実力を書き出した。各地で得られる食料や道具の補充についても、微に入り細に入り確認していく。すべてを紙に並べ、セージはじっと考え込んだ。

 戦力という意味で、このセントランサス国は多くの人員を捻出している。防衛に必要な兵士以外の実力者を、聖女救出に回した。だが足りない。

 数より火力の問題だった。戦力を数値化しながら書き加え、自分もその中に記載する。先日見た魔王軍の戦力をざっと試算してみた。この時点ですでに足りないのだ。

「勝てる要素がない」

 攻めるには、そこまで辿りつく間に戦力の消耗がある。商売で運ぶ果物に傷みや欠けが出るのと同じ理屈だった。転がって足りなくなったり、動物に食べられてしまったり、途中で熟れて腐ることも想定しなくてはならない。商売なら実際に販売できるのは、持参した総数の7割前後だった。

 その事例を示しながら、リアトリスに戦力の増強を申し出る。しかし彼は簡単に首を縦に振らなかった。出し渋っているのではない。上位の実力者から順番に抜き出したので、残っているのは実力が足りなかった。足手纏いを増やしても、魔物の森で死んでしまう。

 悪戯に犠牲者を増やすことは、リアトリスには承諾できなかった。

「仕方ない、俺から父に連絡してみます」

 リッピア男爵家では当てにならないが、リクニスの血族なら話は別だ。リアトリスは「頼む」とセージに頭を下げ、その日の話はそこで中断となった。
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