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第4章 陰陽師の弟子取り騒動

33.***神舞***

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 呪詛という単語に顔を向けたのは藍人あいとだった。乳母の魂は水晶となり手元にあるが、彼女を呪い殺した蛇を含めて、彼は因縁が深すぎる。

「オレとアカリが祓う。お前達はよく視ておけ」

 闇の神族に繋がる真桜しおうと、神格を一時的に返上した光神アカリは、それぞれに属性が偏っている。陰陽師は両方を兼ね備え、双方を上手に混ぜて扱う者だ。今まで不足していた光を真桜に与えたのは、華炎かえいであり華守流かるらであった。

 本来の役目は真桜の護衛だ。しかし彼に足りない光を補う役を自ら名乗り出た。真桜が他の陰陽師と同等以上に陰陽術を使えるのは、本人がもつ闇の霊力が大きいことに加え、巫女である母親の霊力を引き継ぎ、不足した光を神将が補ったため。

 大きすぎる闇を打ち消す光は、神将1柱では足りず、2柱をもってようやく均衡が取れる。その役目を引き受けたアカリが右手を空にかざした。夜空を彩る月が一際近くなる。

「いつでもよいぞ」

「なら、始める」

 屋敷を闇に包んでいる真桜の準備は不要だ。この世に常世の闇を引き出した以上、いつでも闇を引き寄せられる。くつを脱いで放り出し、素足で地面を踏み締めた。

 子狐姿の糺尾くおんを抱いた藍人が、端にある沓脱石の脇に控える。視線を遮らぬ位置で、真桜とアカリの手元が見える場所だった。

「藍人、乳母殿の水晶を持っているか?」

「は、はいっ」

「ならば左手に握れ」

 不浄の右手、清浄の左手。地上に墜とされた人は右手を使う。神は左手をもって穢れを祓うとされた。浄化させ昇華させるならば、乳母は我が子同然の藍人の手を望むだろう。

 胸元から取り出した小さな袋から転がる水晶を、藍人は左手に包み込んだ。半透明だったはずの水晶は、透明度の高い美しい水色に変化している。すでに蛇を浄化した影響だ。

『息は域、きをき、我らが行く手を照らし給え』

 ぶわっと真桜の髪や衣が舞い上がる。足元から風が吹き、素足を掴むように闇が広がった。包まれた足がわずかに沈む。

『沈め、しずめ、しずめ。日の加護をもちて、闇の籠を持たせよ。我は闇を、光を捧げ持つ者なり』

 どくりと闇が脈打ち、アカリがことを繋げた。

しを消し、を決せよ。其は祖の光をもちて、を闇に保たせよ。光を右に、闇を左に……』

 アカリの衣が白く透き通る。本人ごと半透明になった神様はひらりと舞を踊った。軽やかに踏み出す足元で鈴に似た軽い音がする。手を振ると光の粉が追った。

 神楽に似た奉納の舞を思わせる、神聖な動きが緩急をつけて繰り返される。徐々に閉じていく空間の中、アカリは静かに動きを止めた。
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