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第3章 陰陽師、囚われる

19.***目守***

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『我が息はいきとなる。広がり、ひろがれ、地をしずめるために赤き血を沈めよ。我が血をもって、地を支配する。闇の王の名において従え』

 華炎かえいが捧げ持つ青龍刀を受け取り、躊躇ためらいなく左手首を切り裂く。深く切った傷から零れた血は大地に触れると吸い込まれるように消えた。血溜まりを作る間もなく、大地は与えられた霊力を吸収しながら拡散していく。

 国津神に連なる直系の血は、呪詛の黒い霧を刻みながら大地を清めた。

『もう足りるであろう』

「いや、まだだ」

 止血しようとした華守流かるらの手を遮る。輝きが途中で押し留められているのだ。都の門まで清めを終えれば、都の守護は回復する。そのために多くの寺や神社が配置されていた。しかし手前で浄化が止まる現状では、いずれ闇に押し戻されてしまう。

「あれは『けがれの供物くもつ』か」

 呪詛によく使用される手段だ。巫蠱ふこを行ったつぼかめが埋められることが多いが、魂を直接埋める方法もあった。いわゆる『人柱』である。さすがに今回はそこまでしていないだろうが、虫や小動物ではなさそうだ。

「華炎」

『これ以上は認められん』

 塞がろうとする傷を開くために刃を求めれば、華炎は首を横に振った。半分は人の身である以上、大量の血を失えば命が喪われる。主の命と都の清めならば、主を取るのが式神だった。

黒刃くろは

『お断りいたします』

 丁重に、しかし断固とした意志を示して拒絶する。黒葉くろばであっても黒刃であっても、真桜の守護者なのだ。彼を危険に晒す行為に協力するわけがなかった。

「しかたない。オレの霊力でこの場を固定する。黒葉と華炎、華守流で供物を排除してくれ」

 供物の箇所は四方なので、急いで回らなければならない。顔を見合わせる守護者と式神だが、この場を守る存在がいなくなる事態に懸念を示した。主のめいであっても彼の安全を脅かす命令は拒否できる。

『真桜様、私は』

 残ると言い掛けた黒葉に、別の声が答えた。

「俺が守護に残ろう」

 白い衣を翻したアカリは人形ひとがたを纏っていた。青ざめているが、本来の姿ではなく人形を纏うだけの力は戻っている。

「俺の存在に代えても目守まもる」

 言い切ったアカリの後ろで、藤姫がゆったり頭を下げた。

『私も供物をけるお力となれましょう』

 4つの供物と1人の主。すべてに対処できるだけの数が揃った瞬間だった。
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