155 / 192
155.あの女が悪い ***SIDE国王
しおりを挟む
ケンプフェルト公爵は変わった。以前は仕事も熱心で、サボったり手を抜いたりしない。真面目で、きちっとした男だったのに。
妻をもらってから別人のようだ。仕事をこちらに押し付け、平然としている。定時で帰ると言い出し、日暮れ近くなると帰宅した。あり得ない。その後に届いた書類は誰が処理するんだ? 泊まり込みで対応してもらわねば、俺の仕事が増えるじゃないか。
文官達が積んだ書類にうんざりする。このほとんどは公爵の分だった。俺の仕事じゃない。国王になってからずっと、インク瓶より高く書類が積まれたことはなかったんだ。公爵が結婚してから、こうなった。最初の数ヶ月は大人しくしていたようだが、本性を現したのか?
とんでもない女狐を娶ったものだな。舌打ちして書類を見るが、資料がなければ判断できない。横へ積んだ。次の書類は先ほどの書類を処理した後の申請書だ。また後回しにした。気づけば、書類は右から左へ移動しただけ。まったく減っていない。
資料がなければ作れない書類なら、一緒に資料も用意すべきだろう。イライラしながら文官を呼びつけた。叱ると、彼らはきょとんとした顔をする。それから平然と口答えした。
「陛下、普段から書類を処理しておられれば、頭に入っている内容です。国の税に関する重要な案件ですよ。王陛下が何も知らないなど……」
語尾を濁したが「おかしい」と口が動く。そうなのか? 宰相を呼び出すが、彼も同じように顔を顰めた。
「陛下に処理できないなら、誰も手をつけられません。先代王も書類はきちんと確認しておられましたぞ。もしや……今まで誰かに押し付けておられたのですか?」
驚いた顔で指摘され、慌てて彼らを外へ出した。これが国王が処理すべき案件? 国にとって重要な書類が放置されるなど。なぜだ、公爵が処理していたではないか!
さらに腹立たしいことに、王妃までがあの女の肩を持つ。可愛い娘までが、お父様のせいでレオンが遊んでくれないと言い出した。俺の何が悪い? 王である俺に恥をかかせる奴は、全員不敬罪で処分してやる!
公爵夫人を名乗る女に命令書を発行したところ、公爵から返事がきた。二度と妻に手紙を送るな、命令するなと書かれている。お前こそ何様のつもりだ。王家がなければ、公爵家も意味をなさないのだぞ! 頭に来てまた手紙を書くが、今度はそのまま突っ返された。
開封した上で別の封筒に入れて返送された手紙を破く。そのやり取りも数回に渡り、公爵がいないことで書類はさらに溜まった。これ以上は無理だと命令書を作成する。
休暇は中止だ、早く戻って書類を処理しろ。封蝋を押す前に、王妃に見つかった。眦を吊り上げたマルレーネは、俺の手から取り上げた封書に目を通し溜め息を吐く。
「王として最低限の仕事もできないなら、退位しかありませんね。宰相やお父様も見放していますよ」
俺が見放される? 何を言っているのだ。お前もあの女と同じように、俺を馬鹿にするんだな!? 机を強く叩いた。
妻をもらってから別人のようだ。仕事をこちらに押し付け、平然としている。定時で帰ると言い出し、日暮れ近くなると帰宅した。あり得ない。その後に届いた書類は誰が処理するんだ? 泊まり込みで対応してもらわねば、俺の仕事が増えるじゃないか。
文官達が積んだ書類にうんざりする。このほとんどは公爵の分だった。俺の仕事じゃない。国王になってからずっと、インク瓶より高く書類が積まれたことはなかったんだ。公爵が結婚してから、こうなった。最初の数ヶ月は大人しくしていたようだが、本性を現したのか?
とんでもない女狐を娶ったものだな。舌打ちして書類を見るが、資料がなければ判断できない。横へ積んだ。次の書類は先ほどの書類を処理した後の申請書だ。また後回しにした。気づけば、書類は右から左へ移動しただけ。まったく減っていない。
資料がなければ作れない書類なら、一緒に資料も用意すべきだろう。イライラしながら文官を呼びつけた。叱ると、彼らはきょとんとした顔をする。それから平然と口答えした。
「陛下、普段から書類を処理しておられれば、頭に入っている内容です。国の税に関する重要な案件ですよ。王陛下が何も知らないなど……」
語尾を濁したが「おかしい」と口が動く。そうなのか? 宰相を呼び出すが、彼も同じように顔を顰めた。
「陛下に処理できないなら、誰も手をつけられません。先代王も書類はきちんと確認しておられましたぞ。もしや……今まで誰かに押し付けておられたのですか?」
驚いた顔で指摘され、慌てて彼らを外へ出した。これが国王が処理すべき案件? 国にとって重要な書類が放置されるなど。なぜだ、公爵が処理していたではないか!
さらに腹立たしいことに、王妃までがあの女の肩を持つ。可愛い娘までが、お父様のせいでレオンが遊んでくれないと言い出した。俺の何が悪い? 王である俺に恥をかかせる奴は、全員不敬罪で処分してやる!
公爵夫人を名乗る女に命令書を発行したところ、公爵から返事がきた。二度と妻に手紙を送るな、命令するなと書かれている。お前こそ何様のつもりだ。王家がなければ、公爵家も意味をなさないのだぞ! 頭に来てまた手紙を書くが、今度はそのまま突っ返された。
開封した上で別の封筒に入れて返送された手紙を破く。そのやり取りも数回に渡り、公爵がいないことで書類はさらに溜まった。これ以上は無理だと命令書を作成する。
休暇は中止だ、早く戻って書類を処理しろ。封蝋を押す前に、王妃に見つかった。眦を吊り上げたマルレーネは、俺の手から取り上げた封書に目を通し溜め息を吐く。
「王として最低限の仕事もできないなら、退位しかありませんね。宰相やお父様も見放していますよ」
俺が見放される? 何を言っているのだ。お前もあの女と同じように、俺を馬鹿にするんだな!? 机を強く叩いた。
1,327
お気に入りに追加
4,035
あなたにおすすめの小説
前世軍医だった傷物令嬢は、幸せな花嫁を夢見る
花雨宮琵
恋愛
侯爵令嬢のローズは、10歳のある日、背中に刀傷を負い生死の境をさまよう。
その時に見た夢で、軍医として生き、結婚式の直前に婚約者を亡くした前世が蘇る。
何とか一命を取り留めたものの、ローズの背中には大きな傷が残った。
“傷物令嬢”として揶揄される中、ローズは早々に貴族女性として生きることを諦め、隣国の帝国医学校へ入学する。
背中の傷を理由に六回も婚約を破棄されるも、18歳で隣国の医師資格を取得。自立しようとした矢先に王命による7回目の婚約が結ばれ、帰国を余儀なくされる。
7人目となる婚約者は、弱冠25歳で東の将軍となった、ヴァンドゥール公爵家次男のフェルディナンだった。
長年行方不明の想い人がいるフェルディナンと、義務ではなく愛ある結婚を夢見るローズ。そんな二人は、期間限定の条件付き婚約関係を結ぶことに同意する。
守られるだけの存在でいたくない! と思うローズは、一人の医師として自立し、同時に、今世こそは愛する人と結ばれて幸せな家庭を築きたいと願うのであったが――。
この小説は、人生の理不尽さ・不条理さに傷つき悩みながらも、幸せを求めて奮闘する女性の物語です。
※この作品は2年前に掲載していたものを大幅に改稿したものです。
(C)Elegance 2025 All Rights Reserved.無断転載・無断翻訳を固く禁じます。
いつか彼女を手に入れる日まで
月山 歩
恋愛
伯爵令嬢の私は、婚約者の邸に馬車で向かっている途中で、馬車が転倒する事故に遭い、治療院に運ばれる。医師に良くなったとしても、足を引きずるようになると言われてしまい、傷物になったからと、格下の私は一方的に婚約破棄される。私はこの先誰かと結婚できるのだろうか?
職業『お飾りの妻』は自由に過ごしたい
LinK.
恋愛
勝手に決められた婚約者との初めての顔合わせ。
相手に契約だと言われ、もう後がないサマンサは愛のない形だけの契約結婚に同意した。
何事にも従順に従って生きてきたサマンサ。
相手の求める通りに動く彼女は、都合のいいお飾りの妻だった。
契約中は立派な妻を演じましょう。必要ない時は自由に過ごしても良いですよね?
初耳なのですが…、本当ですか?
あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た!
でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。
交換された花嫁
秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
「お姉さんなんだから我慢なさい」
お姉さんなんだから…お姉さんなんだから…
我儘で自由奔放な妹の所為で昔からそればかり言われ続けてきた。ずっと我慢してきたが。公爵令嬢のヒロインは16歳になり婚約者が妹と共に出来きたが…まさかの展開が。
「お姉様の婚約者頂戴」
妹がヒロインの婚約者を寝取ってしまい、終いには頂戴と言う始末。両親に話すが…。
「お姉さんなのだから、交換して上げなさい」
流石に婚約者を交換するのは…不味いのでは…。
結局ヒロインは妹の要求通りに婚約者を交換した。
そしてヒロインは仕方無しに嫁いで行くが、夫である第2王子にはどうやら想い人がいるらしく…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる