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150.怒らせてしまったの?

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 ユリアーナが迎えにきて、レオンは何度も振り返る。皆が勉強する部屋で絵を描くらしい。素敵な絵をプレゼントしてほしいと伝え、見送った。きっと私の休む時間を作ろうとしているのね。お父様の案かしら?

 ヘンリック様はベルントに呼ばれ、朝から顔を見せない。別邸から出かけたら連絡が来るでしょうし。仕事が届いたのかもしれないわ。

「奥様、お薬の時間です」

 入れ替わりでリリーがカップを運んでくる。痛み止めとして用意された苦い灰色の薬を睨んだ。朝に飲んだ薬の効果が切れる前に、飲んでしまわなくては。

 一晩寝たら楽になったと思った痛みは、身じろぎしたら戻ってきた。お医者様の処方した薬は、なぜか灰色の粉薬で見た目が悪い。お湯で溶かして飲むのだけれど、目が覚めるほど不味いわ。見た目も味も悪いなんて、料理だったら返品ものよ。

 良薬口に苦し……自分に言い聞かせてカップを手に取る。ほんのり温かいカップから左手を離し、そっと鼻を摘んだ。臭いも酷いわ。我慢よ、早く治さないとレオンが泣くから。レオンのためなら、このくらい!

 ぐっと飲み干した。不味い、臭い、うえぇ……。吐き出したいのを堪え、口直しの湯冷ましを受け取った。蜂蜜の甘い香りがして、ほっとする。口に入れ、残った薬を流すようにゆっくり飲み干した。行儀が悪いけれど、濯ぐように蜂蜜湯を回す。

「生姜が入っているのね」

「はい。流行り病の予防にもいいと聞きましたので」

 この世界で「流行り病」と表現するのは、風邪のことだ。寒い季節になると流行し、人々の間を渡り歩く。生姜も蜂蜜も、非常に効果的だった。美味しくいただいたところに、ノックの音がした。

 許可を得て入室したのは、ヘンリック様だった。険しい表情をしている。何か悪い連絡でも入ったのかしら。心配になって椅子を薦める。ベッド脇まで来て、リリーに視線を向けた。心得た様子で一礼して出ていく彼女が、扉を閉める。

「この手紙を受け取ったのは、いつだ?」

「手紙、ですか」

 手渡されて、国王陛下からの手紙だと気づいた。処分されたのか、封筒はない。陛下からの手紙に返事はしていなかった。それで怒っているのかも。

「転んだ日、ですわ。まだお返事はできていなくて……ご」

「読んだ直後にケガをしたと聞いた!」

 ごめんなさいと謝罪しようとしたのに、遮って叫ぶヘンリック様がくしゃりと手紙を潰した。そのまま床に叩きつけ、椅子から立ち上がる。そんなに怒らなくても……。

「ごめんなさい、あの」

「君が悪いんじゃない。俺が怒っているのはっ……はぁ……すまない。勘違いさせた」

 がくりと椅子に座ったヘンリック様は、自ら感情を整理している。しばらく待とうと思い、投げ捨てられた手紙が気になった。失礼な内容だけど、一応は国主からの手紙なのよね。拾った方が……手を伸ばすも届かず、ヘンリック様に遮られた。

「心底愛想が尽きた。俺はもう王宮に行かない」

「え?」

 何を言われたか考え、まずいのでは? と口に出しかけ……あの状況では仕方ないわよね、と感情が着地した。大量の仕事を押し付け、王女殿下を甘やかしながらダメ人間を製造している。うん、ヘンリック様が突き放すのも無理はないわ。納得してしまい、苦笑いを浮かべた。
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