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119.すべての原因がここに

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 慰めて、レオンはいい子よとキスを降らせる。リリーやマーサも褒めてくれたので、ようやくレオンに笑顔が戻った。ちなみに金木犀の香りを変えるため、普段は使用しない香水を使っている。

 リリーが念の為にと持参した香りは、レオンも平気だったみたい。薔薇系の香りみたいね。一緒に同じ香りを纏い、手を繋いで歩き出す。部屋を出たところで、ヘンリック様が待っていた。

「お疲れ様です、ヘンリック様。お仕事は片付きましたか?」

「半分ほどだが……残りは陛下に差し戻す。レオンは泣いたのか?」

 めざとく見つけた赤い目元に、ヘンリック様の指が触れる。叱られると思ったのか、ぎゅっと目を閉じたレオンは拳を握った。優しく撫でたヘンリック様は、私に尋ねる視線を向ける。笑顔で声に出さず、唇の動きだけで伝えた。撫でてあげてください。

「よし、俺が抱いていこう」

 レオンをひょいっと抱き上げ、正装がよれるのも気にせず歩き出す。隣に並ぶ私に、腕を絡めるよう合図した。するりと腕に手を沿わせる。息子を抱いて妻と腕を組み、明らかにいつもと違うケンプフェルト公爵閣下の出来上がりだ。

 抱き上げられたレオンは、いつもより高いことに喜んだ。身長差の分だけ、視線の位置が高い。加えて、ヘンリック様は肩に座らせた。肩車のように跨いでいないが、レオンは大喜びだ。この運び方は、女性の私では無理ね。鍛え方も体つきも違う。

「しゅごい! おとちゃま」

「よかったわね、レオン」

「うん」

 仲良し家族の会話を振り撒きながら進んだ。レオンは手をどこに置くか迷って、私と手を繋ぐ。家族全員が繋がる不思議な状態は、王宮の使用人に驚きを持って受け止められた。堅物な仕事人間として有名だったケンプフェルト公爵が、愛妻家で親バカ状態なんだもの。

 小さな悪戯が成功したような気分で、ふふっと頬を緩める。案内する侍従も、時折こちらをチラ見した。大きな扉の前で止まり、恭しく入室を促す。ヘンリック様からレオンを受け取ろうとしたが、彼は気にせずそのまま扉を開いた。

「ケンプフェルト公爵夫妻、並びにご子息のご到着です」

 第一王子殿下、第二王子殿下がすでに着座していた。立ち上がって会釈する第一王子殿下は、初めてお会いする。丁寧に挨拶し、それぞれに着座した。レオンはずっと高い位置から見下ろしている。

 まだ無礼を理解しない年齢だけれど、さすがにまずいのでは? 心配する私をよそに、ヘンリック様は平然としていた。問題ないのかしら。

 国王陛下ご夫妻の到着が告げられ、立ち上がって出迎える。

「れぉ! いっちょ」

 興奮した声で叫んだのは、ルイーゼ王女殿下だ。レオンを指さして足を揺らした。幼い子供と考えれば珍しくない言動だが、王族なのにいいの? そんな私の疑問を、王妃マルレーネ様の溜め息が肯定する。問題なのね……そうだと思ったわ。

 抱っこで登場した王女殿下は、第一王子殿下に睨まれている。無礼が過ぎると判断したのでしょう。叱らない国王陛下の様子に、事情を察してしまった。これは……我が侭王女爆誕の原因と遭遇したみたい。
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