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116.子供は汚れるのも仕事のうち

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 子供の教育方針について、マルレーネ様と意見交換した。そう表現すると堅苦しい感じだが、実際は「あれってどう?」「うちはこうしているわ」の繰り返しだった。徐々に口調も柔らかくなり、打ち解けてくる。

「友人同士の会話ですもの、敬語もいらないくらいよ」

 マルレーネ様はそう笑う。もちろん社交辞令として受け取り、丁寧な言葉遣いは崩さなかった。それでも声のトーンや語尾を少し変えるだけで、印象は変化する。結婚前のご友人とは疎遠になったマルレーネ様は、こうした気の置けない関係が嬉しかったみたい。

 事情を深くは聞かない。それでも言葉の端端から感じ取れたのは、王妃殿下となったマルレーネ様に過去のご友人が擦り寄ったこと。実家や婚家に有利になるよう、取り計らってもらえないか。そんな期待を込めた接し方をされ、うんざりしたのだろう。

 幸い、私は他家とのお付き合いが薄かった。だから幼馴染みは街の肉屋のお嬢さんだったり、よく家族で食事をした家が平民だったりする。公爵家に嫁いだと言われても、彼らが貴族相手に要求する心配はなかった。

 権力や財力を持つことは、人との関係を壊すのね。気の毒なことだわ。だからヘンリック様は私に、マルレーネ様の友人になることを勧めたのだろう。爵位がある程度釣り合い、互いを利用しなくても済むだけの地位や財力がある。安心できるでしょうね。

 軽食を挟んで、遊ぶ二人を見守る。ルイーゼ王女殿下は今日もやんちゃで、レオンを引っ張って右へ左へ。振り回されているようで、レオンも楽しんでいた。幼子特有の甲高い歓声をあげながら、温室の土で汚れ、花を摘んで振り回す。

 着替えのシャツ、もう二、三枚用意するべきだったかしら。興奮して走ったレオンが私に飛びつき、後ろのルイーゼ王女殿下は止まった。マルレーネ様を見上げ、きゅっと唇を尖らせる。飛び付いてはいけないと、誰かに言われたことがありそう。

「ルイーゼ王女殿下、どうぞ」

 椅子から立ち上がり、膝をついて誘う。両手を開くと、目を丸くして……ぱっと笑顔になった。そのままレオンの真似をして、スカートに飛びつく。泥の手で握れば汚れるし、王妃殿下に対して行えば周囲が注意する。でも公爵夫人の私が許せば、止められないわ。

「まぁ、ルイーゼったら」

 マルレーネ様の声に、びくりと肩が揺れた。そんな王女殿下を、レオンと一緒に抱き上げる。ぐっ、さすがに重いわ。それでも堪えた。ここで落とすわけにいかないの。

「叱らないでくださいね、マルレーネ様。ルイーゼ王女殿下を呼んだのは私ですわ」

 呼ばれたから飛び付いた。王女殿下に過失はないと伝える。それから長椅子に二人を座らせた。両手の泥をタオルで拭き取り、頬についた汚れも落とす。ドレスが汚れたのを見て、侍女達がおろおろした。どうせ着替えるから問題ないわ。

「お菓子を食べる前に、一緒に手を洗いましょうね」

 用意された水桶に、二人は競うように手を入れた。イタズラをして水を掛けたルイーゼ王女殿下へ、レオンがお返しをする。こら、と叱ってやめさせた。侍女達が二人の手を拭き、私が焼き菓子を手渡す。お礼を言って齧るレオンを真似て、ルイーゼ王女殿下も「あんと」とお礼を言った。

 やはり言葉が未成熟ね。二人の頭を撫でると、ルイーゼ王女殿下は満面の笑みを向けた。うん、二人とも可愛いわ。
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