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105.思わぬお願いごと

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 レオンより王女殿下の方が積極的だ。少し離れてみていると、性格の違いがよくわかった。王女殿下は好奇心旺盛で、すぐに他人を巻き込みたがる。その点、レオンは好奇心はあるが用心深い。よく観察してから手を伸ばすことが多かった。

 王女殿下が手を引っ張り、追いかける形でレオンが同意する。この形で二人とも満足しているみたい。積極的な王女殿下が、引っ込み思案なレオンを牽引する形ね。引っ張り回される状態なのに、レオンはにこにこと嬉しそうだった。

 この部分は、ヘンリック様に似たのかしら。迷惑とは感じていない様子だった。仲良く遊ぶ二人を見守りながら、マルレーネ様と育児に関する雑談を交わす。

「王家のことなんて、下手な貴族に話せないでしょう? 変な噂に成長したら困るわ。その点、ケンプフェルト公爵家なら安心よ。陛下の親族ですもの」

 ふふっと笑うマルレーネ様は、友人ができて嬉しいのと全身で示してくれた。私としても、同じ母親の友人ができるのは嬉しい。レオンが王女殿下と仲良く遊べているなら、何よりだった。筆頭公爵家も貴族の上位だから、遊んでくれる家を探すのは苦労すると思うわ。

 側近を選ぶのとは違う。対等に意見を言い合い、競い合える存在が理想だった。第一王女ルイーゼ殿下は地位が上だけれど、この年齢なら大丈夫そうね。幼馴染みに落ち着きそう。

「ルイーゼ、レオンを転ばせてしまうわ」

 右へ走っていた王女殿下が、突然左へ向きを変えた。本人はいいが、手を引かれて後ろを走るレオンが尻餅をつく。驚いた顔をして私を振り返るから、笑顔で頷いた。ついでに頑張れと応援のつもりで拳を握る。

 ぱっと笑顔になったレオンは立ち上がり、ぽんぽんと自分で埃を叩いた。

「ごめんちゃい」

「いいよ」

 また手を繋いで走り出す。左に植えられた花を示し、侍女に摘んでもらっていた。どうやら花束を作りたいようね。後ろで見守る侍女は、約束通り助けの手を伸ばさなかった。剪定鋏と摘んだ花が彼女の手を塞いでいる。それでも王女殿下が転びそうになれば、持っている物を放り出して助けるのだろう。

「ねぇ、あなたの……力を貸してほしいの」

 カップの縁を指で触れる無作法をしながら、マルレーネ様は言いづらそうに切り出した。厄介なお願い事かしら。用心しながら、どうぞと促す。だって、王妃である方のお願いよ? いきなり断れないわ。

「ルイーゼの成長が遅くて、他の二人の王子と違いすぎるの。心配で、だからレオンに施している教育を、うちのルイーゼにも受けさせたいわ。教えてくれるかしら」

 役職も用意するし、もちろん報酬も払う。そう付け足すマルレーネ様をじっと見つめた。想像していた方向と違いすぎるわ。私に教えさせるのではなく、ご自分で取り組もうと考えたのね。

 ルイーゼ王女殿下と向き合う気持ちがあるなら、協力できますわね。私はもったいぶらずに頷いた。その後で、はっとする。ヘンリック様に相談するべきだったかも?
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