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98.贅沢な休日の過ごし方

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 普段は落ち着いて、すまし顔で仕事をこなす家令フランクも、今日ばかりは忙しそうだ。ベルント同伴の旦那様を見送り、すぐさま踵を返した。

 このところ、ヘンリック様は定時で仕事を終えて戻られる。夕食の少し前よ。のんびり作業していたら、帰宅時間までに引っ越しが終わらないの。レオンも私も荷物が少なかったので、半日もあれば終わった。ずっと住んでいたヘンリック様の荷物は多いし、使う予定の部屋も掃除したり整えたり。

 皆の邪魔にならないよう、絨毯の部屋で積み木遊びに付き合う。昨晩読んだ絵本をもう一度と強請られ、膝に乗せたレオンに読み聞かせた。悪い魔女が猫を拾って、いい魔女になるお話よ。街の人との交流などが描かれて、華やかな絵本だった。

 二人きりなのが珍しいのか、レオンはしきりに部屋を見回す。

「ふたり?」

「そうよ、今日は二人なの。上手に発音できているわ」

 嬉しそうなレオンは、また積み木を横に並べ始めた。今日は何ができるのかしらね。作ったら、これは何? と説明を求めるの。絵も同じで、何をどう描いたのか尋ねた。説明する過程で言葉を覚えるし、人に何かを伝える能力が発達するわ。

 ご機嫌で作った長細いものは、レオンによると屋敷の壁だそうよ。壁だけを作ったの。子供に見える世界は、大人の思う世界と違うから楽しいわ。よくできたと褒めたところで、リリーが昼食を運んできた。

 今日はこの部屋に閉じ籠ると伝えたので、パンに肉や野菜を挟んでいる。レオンと窓際に移動し、並んで食べた。もちろん、椅子じゃなくて床で。レオンはこれが特別な秘密だと思っているみたい。ピクニックと同じ、小さな冒険ね。

 食べたら手を拭いて、今度は絵を描いてもらった。鮮やかな色が多く使われ、とてもカラフルだ。指さして説明するレオンに頷き、午後を過ごした。眠くなったのか、クレヨンを持ったまま顔を擦ってしまい……笑いながら拭ってあげる。

「お行儀悪いけれど、内緒よ。二人の秘密なの」

 二人の秘密がいっぱいと喜ぶレオンと一緒に、柔らかな絨毯の上に寝転んだ。誰かが入ってくる時は、ノックされるから安心ね。忙しいから双子が飛び込んでくる心配もいらない。今頃、何を本邸に持ってくるか悩んでいる頃よ。

 すぐ取りに帰れる距離だけれど、荷造りはいい経験になるわ。バッグに入る量は決まっていて、溢れないよう必要なものを選んだり諦めたりする。お父様やエルヴィンはすぐに終わって、双子は夕方まで悩むでしょうね。

 何もしない一日は罪悪感もあるが、こんな日も悪くないわ。すごく贅沢な過ごし方をした。可愛いレオンと遊んで、二人でたくさん秘密を作り、一緒にお昼寝。最高の休日ね。

「奥様、よろしいでしょうか」

 ノックの音で、うっかり寝てしまっていた自分に気づく。レオンを抱いて横になった後、寝ていたらしい。飛び起きて髪を手で整え、許可を出した。入ってきたのはフランクで、ヘンリック様の引っ越しが終わったと。

「もうすぐ旦那様がお帰りになりますので」

「ええ、レオンを起こして出迎えの支度をしましょう」

 よく寝ているけれど、お昼寝はここで終わり。起きて、私の可愛い天使。
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