82 / 316
82.見られてしまったわ!
しおりを挟む
二回のあーんをクリアしたところで、ヘンリック様は自分で食べ始めた。正直、ほっとしたわ。二人に食べさせながら、私も食べるのは忙しすぎるんだもの。
デザートはプリンに似た蒸し物で、ほんのり甘くて美味しい。レオンは右手にスプーンを握り、当然のように口を開けた。そろそろ使い方を教えるべきかしら。笑顔で口に運び、ちらりと視線を向けた先で、こちらの様子を窺うヘンリック様に気づく。
そう、気づいちゃったの。無視はできないわ。尻尾も耳も垂れて、くーんと鼻を鳴らすイメージが浮かんだ。
「ヘンリック様も」
どうぞと、スプーンで掬って差し出す。咥えたタイミングで、間の悪い給仕がお茶を運んできてしまった。驚き過ぎて声もでない給仕を視線に捉えつつも、ヘンリック様は平然としている。王族って何をするときも侍従や侍女がいて、すべて見られて育つのよね。
羞恥心が薄いと聞いたけれど、公爵にも当てはまるのかしら。王族と血が繋がっているのが、公爵家だから合ってるかも。忙しく考えながら、手元のスプーンで私も頂く。うん、美味しいわ。
凝視する給仕の目が、スプーンに釘付けだ。私も釣られてスプーンを眺め、はっとした。レオン、ヘンリック様、私……この順番で食べたということは!
間接キス――よね? でも旦那様で夫だし、だけど契約で繋がっているだけ。これは性的接触じゃないから、セーフだと思う。何もなかった風を装い、給仕が動き出すのを待った。そうか、先ほどのヘンリック様が平然としていたのもコレね?
動揺を内側に隠したんだわ。さすが上位貴族! 違和感がなくて、見抜けなかったわ。感心しながら、袖を引くレオンに残りを食べさせた。ようやく復活した給仕がお茶を淹れ、丁寧に並べて「ごゆっくりお過ごしください」と帰っていく。
ご飯食べただけなのに、妙に疲れてしまった。それでも、この後は仕立て屋に寄るのよね。新しく仕立てる服を話題にして、穏やかな雰囲気で店を出た。ヘンリック様がレオンを抱き上げ、私は後ろからついていく。外はやや曇り空で、過ごしやすい天気だった。
「仕立て屋まで歩いて行こうか」
街を歩くのは久しぶりだ。弟妹の世話に忙しかったので、日常の買い物ぐらいだけど。こうして歩くと、雑貨屋も宝飾店も賑わっていた。人が集まる店を冷やかしながら、仕立て屋の近くまで来た時……レオンが興奮した様子で「あれ、ぼくも」と声をあげる。
指さしそうになって、自分で慌てて握りしめた。その拳が前方に突き出されたので、何を示しているのか気づく。三人家族の仲の良い光景だった。真ん中の女の子が、両親の間で手を繋ぐ。その足が地面から浮いて、ブランコのように見えた。
浮いているのが楽しいようで、声をあげて笑う。羨ましいと素直に強請るレオンに、私はヘンリック様の様子を窺った。私はいいけれど、彼は?
「よし、やろう」
あっさりとレオンの要望を受け入れ、手を繋いだ。私もレオンの手を握り……レオンが足を縮める。浮き上がった足をじたばた揺らし、レオンは甲高い声で大笑いした。
「重くないか」
「ええ、まだ平気ですわ」
貴族の奥様としては失格なくらい、逞しい腕を持っている。三歳でも小柄なレオンなら、仕立て屋まで行けそう。微笑んでそう伝え、私達は歩き出した。まるで普通の家族のように。
デザートはプリンに似た蒸し物で、ほんのり甘くて美味しい。レオンは右手にスプーンを握り、当然のように口を開けた。そろそろ使い方を教えるべきかしら。笑顔で口に運び、ちらりと視線を向けた先で、こちらの様子を窺うヘンリック様に気づく。
そう、気づいちゃったの。無視はできないわ。尻尾も耳も垂れて、くーんと鼻を鳴らすイメージが浮かんだ。
「ヘンリック様も」
どうぞと、スプーンで掬って差し出す。咥えたタイミングで、間の悪い給仕がお茶を運んできてしまった。驚き過ぎて声もでない給仕を視線に捉えつつも、ヘンリック様は平然としている。王族って何をするときも侍従や侍女がいて、すべて見られて育つのよね。
羞恥心が薄いと聞いたけれど、公爵にも当てはまるのかしら。王族と血が繋がっているのが、公爵家だから合ってるかも。忙しく考えながら、手元のスプーンで私も頂く。うん、美味しいわ。
凝視する給仕の目が、スプーンに釘付けだ。私も釣られてスプーンを眺め、はっとした。レオン、ヘンリック様、私……この順番で食べたということは!
間接キス――よね? でも旦那様で夫だし、だけど契約で繋がっているだけ。これは性的接触じゃないから、セーフだと思う。何もなかった風を装い、給仕が動き出すのを待った。そうか、先ほどのヘンリック様が平然としていたのもコレね?
動揺を内側に隠したんだわ。さすが上位貴族! 違和感がなくて、見抜けなかったわ。感心しながら、袖を引くレオンに残りを食べさせた。ようやく復活した給仕がお茶を淹れ、丁寧に並べて「ごゆっくりお過ごしください」と帰っていく。
ご飯食べただけなのに、妙に疲れてしまった。それでも、この後は仕立て屋に寄るのよね。新しく仕立てる服を話題にして、穏やかな雰囲気で店を出た。ヘンリック様がレオンを抱き上げ、私は後ろからついていく。外はやや曇り空で、過ごしやすい天気だった。
「仕立て屋まで歩いて行こうか」
街を歩くのは久しぶりだ。弟妹の世話に忙しかったので、日常の買い物ぐらいだけど。こうして歩くと、雑貨屋も宝飾店も賑わっていた。人が集まる店を冷やかしながら、仕立て屋の近くまで来た時……レオンが興奮した様子で「あれ、ぼくも」と声をあげる。
指さしそうになって、自分で慌てて握りしめた。その拳が前方に突き出されたので、何を示しているのか気づく。三人家族の仲の良い光景だった。真ん中の女の子が、両親の間で手を繋ぐ。その足が地面から浮いて、ブランコのように見えた。
浮いているのが楽しいようで、声をあげて笑う。羨ましいと素直に強請るレオンに、私はヘンリック様の様子を窺った。私はいいけれど、彼は?
「よし、やろう」
あっさりとレオンの要望を受け入れ、手を繋いだ。私もレオンの手を握り……レオンが足を縮める。浮き上がった足をじたばた揺らし、レオンは甲高い声で大笑いした。
「重くないか」
「ええ、まだ平気ですわ」
貴族の奥様としては失格なくらい、逞しい腕を持っている。三歳でも小柄なレオンなら、仕立て屋まで行けそう。微笑んでそう伝え、私達は歩き出した。まるで普通の家族のように。
2,203
お気に入りに追加
4,341
あなたにおすすめの小説
夫と息子は私が守ります!〜呪いを受けた夫とワケあり義息子を守る転生令嬢の奮闘記〜
梵天丸
恋愛
グリーン侯爵家のシャーレットは、妾の子ということで本妻の子たちとは差別化され、不遇な扱いを受けていた。
そんなシャーレットにある日、いわくつきの公爵との結婚の話が舞い込む。
実はシャーレットはバツイチで元保育士の転生令嬢だった。そしてこの物語の舞台は、彼女が愛読していた小説の世界のものだ。原作の小説には4行ほどしか登場しないシャーレットは、公爵との結婚後すぐに離婚し、出戻っていた。しかしその後、シャーレットは30歳年上のやもめ子爵に嫁がされた挙げ句、愛人に殺されるという不遇な脇役だった。
悲惨な末路を避けるためには、何としても公爵との結婚を長続きさせるしかない。
しかし、嫁いだ先の公爵家は、極寒の北国にある上、夫である公爵は魔女の呪いを受けて目が見えない。さらに公爵を始め、公爵家の人たちはシャーレットに対してよそよそしく、いかにも早く出て行って欲しいという雰囲気だった。原作のシャーレットが耐えきれずに離婚した理由が分かる。しかし、実家に戻れば、悲惨な末路が待っている。シャーレットは図々しく居座る計画を立てる。
そんなある日、シャーレットは城の中で公爵にそっくりな子どもと出会う。その子どもは、公爵のことを「お父さん」と呼んだ。

「君を愛するつもりはない」と言ったら、泣いて喜ばれた
菱田もな
恋愛
完璧令嬢と名高い公爵家の一人娘シャーロットとの婚約が決まった第二皇子オズワルド。しかし、これは政略結婚で、婚約にもシャーロット自身にも全く興味がない。初めての顔合わせの場で「悪いが、君を愛するつもりはない」とはっきり告げたオズワルドに、シャーロットはなぜか歓喜の涙を浮かべて…?
※他サイトでも掲載中しております。

すり替えられた公爵令嬢
鈴蘭
恋愛
帝国から嫁いで来た正妻キャサリンと離縁したあと、キャサリンとの間に出来た娘を捨てて、元婚約者アマンダとの間に出来た娘を嫡子として第一王子の婚約者に差し出したオルターナ公爵。
しかし王家は帝国との繋がりを求め、キャサリンの血を引く娘を欲していた。
妹が入れ替わった事に気付いた兄のルーカスは、事実を親友でもある第一王子のアルフレッドに告げるが、幼い二人にはどうする事も出来ず時間だけが流れて行く。
本来なら庶子として育つ筈だったマルゲリーターは公爵と後妻に溺愛されており、自身の中に高貴な血が流れていると信じて疑いもしていない、我儘で自分勝手な公女として育っていた。
完璧だと思われていた娘の入れ替えは、捨てた娘が学園に入学して来た事で、綻びを見せて行く。
視点がコロコロかわるので、ナレーション形式にしてみました。
お話が長いので、主要な登場人物を紹介します。
ロイズ王国
エレイン・フルール男爵令嬢 15歳
ルーカス・オルターナ公爵令息 17歳
アルフレッド・ロイズ第一王子 17歳
マルゲリーター・オルターナ公爵令嬢 15歳
マルゲリーターの母 アマンダ
パトリシア・アンバタサー エレインのクラスメイト
アルフレッドの側近
カシュー・イーシヤ 18歳
ダニエル・ウイロー 16歳
マシュー・イーシヤ 15歳
帝国
エレインとルーカスの母 キャサリン帝国の侯爵令嬢(皇帝の姪)
キャサリンの再婚相手 アンドレイ(キャサリンの従兄妹)
隣国ルタオー王国
バーバラ王女

大公閣下!こちらの双子様、耳と尾がはえておりますが!?
まめまめ
恋愛
魔法が使えない無能ハズレ令嬢オリヴィアは、実父にも見限られ、皇子との縁談も破談になり、仕方なく北の大公家へ家庭教師として働きに出る。
大公邸で会ったのは、可愛すぎる4歳の双子の兄妹!
「オリヴィアさまっ、いっしょにねよ?」
(可愛すぎるけど…なぜ椅子がシャンデリアに引っかかってるんですか!?カーテンもクロスもぼろぼろ…ああ!スープのお皿は投げないでください!!)
双子様の父親、大公閣下に相談しても
「子どもたちのことは貴女に任せます。」
と冷たい瞳で吐き捨てられるだけ。
しかもこちらの双子様、頭とおしりに、もふもふが…!?
どん底だけどめげないオリヴィアが、心を閉ざした大公閣下と可愛い謎の双子とどうにかこうにか家族になっていく恋愛要素多めのホームドラマ(?)です。

頭頂部に薔薇の棘が刺さりまして
犬野きらり
恋愛
第二王子のお茶会に参加して、どうにかアピールをしようと、王子の近くの場所を確保しようとして、転倒。
王家の薔薇に突っ込んで転んでしまった。髪の毛に引っ掛かる薔薇の枝に棘。
失態の恥ずかしさと熱と痛みで、私が寝込めば、初めましての小さき者の姿が見えるようになり…
この薔薇を育てた人は!?
余命六年の幼妻の願い~旦那様は私に興味が無い様なので自由気ままに過ごさせて頂きます。~
流雲青人
恋愛
商人と商品。そんな関係の伯爵家に生まれたアンジェは、十二歳の誕生日を迎えた日に医師から余命六年を言い渡された。
しかし、既に公爵家へと嫁ぐことが決まっていたアンジェは、公爵へは病気の存在を明かさずに嫁ぐ事を余儀なくされる。
けれど、幼いアンジェに公爵が興味を抱く訳もなく…余命だけが過ぎる毎日を過ごしていく。

結婚5年目の仮面夫婦ですが、そろそろ限界のようです!?
宮永レン
恋愛
没落したアルブレヒト伯爵家を援助すると声をかけてきたのは、成り上がり貴族と呼ばれるヴィルジール・シリングス子爵。援助の条件とは一人娘のミネットを妻にすること。
ミネットは形だけの結婚を申し出るが、ヴィルジールからは仕事に支障が出ると困るので外では仲の良い夫婦を演じてほしいと告げられる。
仮面夫婦としての生活を続けるうちに二人の心には変化が生まれるが……

継母の品格 〜 行き遅れ令嬢は、辺境伯と愛娘に溺愛される 〜
出口もぐら
恋愛
【短編】巷で流行りの婚約破棄。
令嬢リリーも例外ではなかった。家柄、剣と共に生きる彼女は「女性らしさ」に欠けるという理由から、婚約破棄を突き付けられる。
彼女の手は研鑽の証でもある、肉刺や擦り傷がある。それを隠すため、いつもレースの手袋をしている。別にそれを恥じたこともなければ、婚約破棄を悲しむほど脆弱ではない。
「行き遅れた令嬢」こればかりはどうしようもない、と諦めていた。
しかし、そこへ辺境伯から婚約の申し出が――。その辺境伯には娘がいた。
「分かりましたわ!これは契約結婚!この小さなお姫様を私にお守りするようにと仰せですのね」
少しばかり天然、快活令嬢の継母ライフ。
▼連載版、準備中。
■この作品は「小説家になろう」にも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる