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74.いまは嫌いじゃないわ
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ヘンリック様が戻る夕方まで、レオンと過ごした。数冊の絵本を読み聞かせ、一緒に絨毯の部屋で寛ぐ。ご機嫌のレオンは、お出迎えも満面の笑顔だった。
「おかえりなさいませ、ヘンリック様」
以前と変わったのは、ヘンリック様の呼称だ。旦那様という表現をやめ、個人として認識するようになった。重ねて、自然と笑顔が出る。当初は怯えたレオンも、今では笑顔で出迎えていた。見慣れない人が屋敷内にいたから、びっくりしただけだったみたい。
嬉しそうに手を振る。もう家族だと認識しているのね。深刻な人見知りじゃなくてよかったわ。
「「おかえりなさい!」」
「お疲れ様でございました」
使用人だけじゃなく、双子も声を張り上げる。エルヴィンは大人顔負けの礼を披露した。お父様は少し遅れている。慌てて駆ける姿に、くすっと笑ってしまった。靴の紐が解けそうよ。
揃っての出迎えに驚いた顔をしてから、ヘンリック様は嬉しそうに頬を緩めた。まだ表情が硬いけれど、自然な感情表現が増えている。先代公爵ヨーナス様の振る舞いを思い出す限り、愛情豊かに育ててもらえたとは思えない。
もしかしたら、屋敷にレオンを置いて仕事に没頭していたのも、それ以外の対応を知らなかったのかも。悪意があると考えるより、前向きに捉える方がいいわ。性善説を振りかざす気はないけれど、ヘンリック様は他人を傷つけて喜ぶ人ではないもの。
結婚式で私に対して冷たい態度を取ったのだって、触れ合い方を知らなかっただけ。急いで仕事に戻らなくては、と使命感があったなら……。
少なくとも、歩み寄ろうとする今のヘンリック様は嫌いじゃないわ。遠ざけて傷つけるつもりはない。大好きとまで言えないけれど……そうね、手のかかる子がもう一人増えた感じ?
「いま戻った……待たせたか?」
まさかの気遣いに、目を丸くする。腕の中でレオンが動いたので、はっと我に返った。
「いいえ、馬車の音で玄関に向かいましたので」
待っていないと伝えて、階段の先へ促す。数段登ったところで、足を止めて振り返った。無言で見つめられても、以心伝心は無理ですのよ。こてりと首を傾げれば、腕の中のレオンが真似する。
「食堂で待っていてくれ」
「承知いたしました」
「あい!」
レオンも元気よく返事をして、私達は一足先に食堂へ入った。当たり前のように距離を詰めたテーブルには、薔薇の豪華な花瓶と小さな一輪挿しが並ぶ。レオンが庭師から受け取った花よ。握りしめていたのを、こちらに移動させたの。
「これ、ぼくの!」
自慢げに一輪挿しを指さす。
「レオン様が摘んだの?」
「選んだのかな、綺麗だね」
双子が褒めたことで、レオンはさらにご機嫌になった。膝の上で左右に体を揺らしている。幼子のこういう仕草って、本当に可愛いわ。
ヘンリック様が着座しようとした瞬間、レオンは大喜びで一輪挿しを示した。褒めてもらいたいのだろう。
「きれぇなの!」
「……ああ、本当だな。綺麗だ」
一瞬動きを止めたヘンリック様だったが、向かいのフランクが手で小さな合図を送る。ぎこちないながらも、相槌を打つヘンリック様。レオンは「きゃぁ!」と甲高い声で大喜びした。
「おかえりなさいませ、ヘンリック様」
以前と変わったのは、ヘンリック様の呼称だ。旦那様という表現をやめ、個人として認識するようになった。重ねて、自然と笑顔が出る。当初は怯えたレオンも、今では笑顔で出迎えていた。見慣れない人が屋敷内にいたから、びっくりしただけだったみたい。
嬉しそうに手を振る。もう家族だと認識しているのね。深刻な人見知りじゃなくてよかったわ。
「「おかえりなさい!」」
「お疲れ様でございました」
使用人だけじゃなく、双子も声を張り上げる。エルヴィンは大人顔負けの礼を披露した。お父様は少し遅れている。慌てて駆ける姿に、くすっと笑ってしまった。靴の紐が解けそうよ。
揃っての出迎えに驚いた顔をしてから、ヘンリック様は嬉しそうに頬を緩めた。まだ表情が硬いけれど、自然な感情表現が増えている。先代公爵ヨーナス様の振る舞いを思い出す限り、愛情豊かに育ててもらえたとは思えない。
もしかしたら、屋敷にレオンを置いて仕事に没頭していたのも、それ以外の対応を知らなかったのかも。悪意があると考えるより、前向きに捉える方がいいわ。性善説を振りかざす気はないけれど、ヘンリック様は他人を傷つけて喜ぶ人ではないもの。
結婚式で私に対して冷たい態度を取ったのだって、触れ合い方を知らなかっただけ。急いで仕事に戻らなくては、と使命感があったなら……。
少なくとも、歩み寄ろうとする今のヘンリック様は嫌いじゃないわ。遠ざけて傷つけるつもりはない。大好きとまで言えないけれど……そうね、手のかかる子がもう一人増えた感じ?
「いま戻った……待たせたか?」
まさかの気遣いに、目を丸くする。腕の中でレオンが動いたので、はっと我に返った。
「いいえ、馬車の音で玄関に向かいましたので」
待っていないと伝えて、階段の先へ促す。数段登ったところで、足を止めて振り返った。無言で見つめられても、以心伝心は無理ですのよ。こてりと首を傾げれば、腕の中のレオンが真似する。
「食堂で待っていてくれ」
「承知いたしました」
「あい!」
レオンも元気よく返事をして、私達は一足先に食堂へ入った。当たり前のように距離を詰めたテーブルには、薔薇の豪華な花瓶と小さな一輪挿しが並ぶ。レオンが庭師から受け取った花よ。握りしめていたのを、こちらに移動させたの。
「これ、ぼくの!」
自慢げに一輪挿しを指さす。
「レオン様が摘んだの?」
「選んだのかな、綺麗だね」
双子が褒めたことで、レオンはさらにご機嫌になった。膝の上で左右に体を揺らしている。幼子のこういう仕草って、本当に可愛いわ。
ヘンリック様が着座しようとした瞬間、レオンは大喜びで一輪挿しを示した。褒めてもらいたいのだろう。
「きれぇなの!」
「……ああ、本当だな。綺麗だ」
一瞬動きを止めたヘンリック様だったが、向かいのフランクが手で小さな合図を送る。ぎこちないながらも、相槌を打つヘンリック様。レオンは「きゃぁ!」と甲高い声で大喜びした。
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