上 下
58 / 192

58.これが団欒か ***SIDE公爵

しおりを挟む
 朝の支度の際、フランクから提案されていた。離れに住まう伯爵家とも交流してはどうか、と。彼は年齢的にも父親と呼べる世代だ。屋敷を留守にしてばかりの両親に代わり、俺を育てた。

 こくんと頷き、仕事場である王宮へ向かう。こうして通って気づいたが、屋敷の方が休める。家具やベッドの質ではなく、仕事が追いかけてこない環境だろう。屋敷の様々な家計の取り回しは、大筋を女主人が決めて家令が取り仕切るのが通例だった。

 一人一人の使用人を女主人が管理するのは、伯爵家レベルまで。侯爵家以上となれば、領地と王都屋敷合わせて、一つの街が作れるほどの人数になる。それぞれの役職ごとに長を置いて、全体を執事や家令が管理する形が一般的だった。

 俺がいなくても屋敷の管理は問題ない。そのため帰る手間を惜しんだが、妻子の様子を見て考えが変わった。何故だか、すごく気になるのだ。息子レオンは幼く、妻アマーリアは我が子のように接している。母と呼んで慕う息子に、なんとも言えない複雑な感情が湧いた。

 仕事場の文官達は、ここ最近は効率よく仕事を片付ける。その原動力が、毎日屋敷に帰ることらしい。新たな改革を行なった成果を、とても喜んでいた。彼らが帰りやすいよう、俺も屋敷に帰る回数を増やしたが……。

 どうしてもぎこちない。接し方や話しかけるタイミングがわからず、フランクに相談した。その結果が、一家団欒に加わるアドバイスだった。彼が手助けしてくれて助かったな。

 楽な服装に着替え、食堂へ向かう。玄関ですれ違った伯爵家はすでに揃っていた。

「待たせた」

「いいえ。お気になさらず」

 アマーリアが微笑み、レオンは「ずぅ!」と最後の言葉だけ真似た。頬を寄せて可愛いと喜ぶ妻に、また胸がじわりと温かくなる。この不思議な感覚を相談したら、フランクは嬉しそうだった。突き詰めてもいい感情なのだろう。

 並べられた料理は、大皿。俺だけコース料理を出されるかと心配したが、同じ大皿から取り分ける小皿だけ用意された。ほっとする。

「旦那様、ユリアーナやユリアンはまだカトラリーの勉強中ですの。無作法があってもお許しくださいね」

 目をぱちくりと瞬き、視線を遠くへ向ける。食堂の長い机は、中央に花瓶が置かれていた。その向こう側に伯爵家の四人が並んでいる。無作法があるから、離れて座ったのか? 疑問が浮かび、それをそのまま妻に尋ねた。

「近くで食べないのは、そのせいか」

「それもありますが、爵位や立場が違いますので」

 変な気遣いだ。フランクを手招きし、机の間の花瓶を取り去って距離を縮めるよう申しつけた。笑顔で応じる彼の様子から、俺の対応は正しかったらしい。驚いた顔をするアマーリア達も、促されて移動した。

 大皿を中央に置き、出来るだけ固まって食べる。右側に俺とアマーリアとレオン。左側は伯爵と三人の子供達。配置もだが、近い距離に満足した。明日から恒例にしよう。

 食堂を担当する侍女達がこまめに動き回り、指さして指示するだけで取り分けられる。最初は遠慮していた子供達も、後半は元気に好きなものを食べていたようだ。不思議といつもより美味しく感じられ、満腹になるまで食べてしまった。
しおりを挟む
感想 490

あなたにおすすめの小説

王家に生まれたエリーザはまだ幼い頃に城の前に捨てられた。が、その結果こうして幸せになれたのかもしれない。

四季
恋愛
王家に生まれたエリーザはまだ幼い頃に城の前に捨てられた。

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

前世軍医だった傷物令嬢は、幸せな花嫁を夢見る

花雨宮琵
恋愛
侯爵令嬢のローズは、10歳のある日、背中に刀傷を負い生死の境をさまよう。 その時に見た夢で、軍医として生き、結婚式の直前に婚約者を亡くした前世が蘇る。 何とか一命を取り留めたものの、ローズの背中には大きな傷が残った。 “傷物令嬢”として揶揄される中、ローズは早々に貴族女性として生きることを諦め、隣国の帝国医学校へ入学する。 背中の傷を理由に六回も婚約を破棄されるも、18歳で隣国の医師資格を取得。自立しようとした矢先に王命による7回目の婚約が結ばれ、帰国を余儀なくされる。 7人目となる婚約者は、弱冠25歳で東の将軍となった、ヴァンドゥール公爵家次男のフェルディナンだった。 長年行方不明の想い人がいるフェルディナンと、義務ではなく愛ある結婚を夢見るローズ。そんな二人は、期間限定の条件付き婚約関係を結ぶことに同意する。 守られるだけの存在でいたくない! と思うローズは、一人の医師として自立し、同時に、今世こそは愛する人と結ばれて幸せな家庭を築きたいと願うのであったが――。 この小説は、人生の理不尽さ・不条理さに傷つき悩みながらも、幸せを求めて奮闘する女性の物語です。 ※この作品は2年前に掲載していたものを大幅に改稿したものです。 (C)Elegance 2025 All Rights Reserved.無断転載・無断翻訳を固く禁じます。

いつか彼女を手に入れる日まで

月山 歩
恋愛
伯爵令嬢の私は、婚約者の邸に馬車で向かっている途中で、馬車が転倒する事故に遭い、治療院に運ばれる。医師に良くなったとしても、足を引きずるようになると言われてしまい、傷物になったからと、格下の私は一方的に婚約破棄される。私はこの先誰かと結婚できるのだろうか?

殿下、私の身体だけが目当てなんですね!

石河 翠
恋愛
「片付け」の加護を持つ聖女アンネマリーは、出来損ないの聖女として蔑まれつつ、毎日楽しく過ごしている。「治癒」「結界」「武運」など、利益の大きい加護持ちの聖女たちに辛く当たられたところで、一切気にしていない。 それどころか彼女は毎日嬉々として、王太子にファンサを求める始末。王太子にポンコツ扱いされても、王太子と会話を交わせるだけでアンネマリーは満足なのだ。そんなある日、お城でアンネマリー以外の聖女たちが決闘騒ぎを引き起こして……。 ちゃらんぽらんで何も考えていないように見えて、実は意外と真面目なヒロインと、おバカな言動と行動に頭を痛めているはずなのに、どうしてもヒロインから目を離すことができないヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は他サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID29505542)をお借りしております。

職業『お飾りの妻』は自由に過ごしたい

LinK.
恋愛
勝手に決められた婚約者との初めての顔合わせ。 相手に契約だと言われ、もう後がないサマンサは愛のない形だけの契約結婚に同意した。 何事にも従順に従って生きてきたサマンサ。 相手の求める通りに動く彼女は、都合のいいお飾りの妻だった。 契約中は立派な妻を演じましょう。必要ない時は自由に過ごしても良いですよね?

初耳なのですが…、本当ですか?

あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た! でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

もう愛は冷めているのですが?

希猫 ゆうみ
恋愛
「真実の愛を見つけたから駆け落ちするよ。さよなら」 伯爵令嬢エスターは結婚式当日、婚約者のルシアンに無残にも捨てられてしまう。 3年後。 父を亡くしたエスターは令嬢ながらウィンダム伯領の領地経営を任されていた。 ある日、金髪碧眼の美形司祭マクミランがエスターを訪ねてきて言った。 「ルシアン・アトウッドの居場所を教えてください」 「え……?」 国王の命令によりエスターの元婚約者を探しているとのこと。 忘れたはずの愛しさに突き動かされ、マクミラン司祭と共にルシアンを探すエスター。 しかしルシアンとの再会で心優しいエスターの愛はついに冷め切り、完全に凍り付く。 「助けてくれエスター!僕を愛しているから探してくれたんだろう!?」 「いいえ。あなたへの愛はもう冷めています」 やがて悲しみはエスターを真実の愛へと導いていく……  ◇ ◇ ◇ 完結いたしました!ありがとうございました! 誤字報告のご協力にも心から感謝申し上げます。

処理中です...