上 下
45 / 156

45.二度目のお祭りは串肉から

しおりを挟む
 着替えたレオンのシャツは柔らかなピンク色、半ズボンは青だった。空色とも違う、やや紫がかった深い青はピンクとの相性も最高だ。

 リリーの提案で、まさかのピンクワンピースを着用することになり、なんとなく人目が気になる。年齢的には十八歳なので、若いと思うけれど……子供のいる既婚者な訳だし。ドレスなら夜会に合わせてとか言い訳ができる。でも私服のワンピースだと、ちょっと……ね?

 そんな言い訳も、レオンの「おなし!」の一言で吹き飛んだ。ええ、レオンのためならピンクも問題なし。柔らかい桜色なので、おかしくないはず。結い上げた金髪は、キラキラ感がない。シュミット家は全員、色褪せた金髪だった。

 お母様は綺麗な金髪だったのに、家族は誰も受け継がなかったのよね。非常に残念だわ。お母様が絹糸の髪なら、私達は綿糸って感じだ。赤い宝玉の付いた髪留めで纏めた。レオンは、自分のシャツの赤いボタンを指差す。

「おかあ、しゃま! おなじ!」

 ゆっくり区切って話すレオンは、心から幸せそうに笑う。揺れる馬車で転がらないよう、抱っこしての移動だった。今日も馬車置き場で降りて、護衛に囲まれたまま歩く。レオンは歩きたいと言わないので、そのまま抱っこだった。

 すれ違う中に、貴族夫人や貴族令嬢の華やかな一行もいる。互いに目配せして軽い会釈、その後は挨拶せず離れた。事前にフランクに言われた通り、こういった場では見なかったことになるのね。

 知り合いなら言葉を交わすのかもしれない。貴族社会に知り合いはほぼいないので、気軽だった。公爵夫人としては問題かしら。

 何軒か出店を覗き、いくつか指示を出す。同行したベルントが注文をまとめて、料理を手配した。よくあるお忍びなら、買い食いも出来るんでしょうけれど。公爵家御一行様と看板を掲げたような状況では、さすがに無理だったわ。

 経験させてあげたいけれど、公爵家の面目を潰す事態は避けたい。護衛以外についてきた侍従が、手早く場所を整えた。広場にあるテーブルや椅子は自由に使える。その一角に、クッションやテーブルクロスを使用した豪勢な野外食堂が現れた。

 やり過ぎじゃないかしら。そう思ったけれど、見回すと他にも同様の場所がある。ベルントに尋ねると、伯爵令嬢御一行だったり、子爵家のご家族だったりした。問題なさそうね。テントを張られないだけ、よかったわ。

 手配された料理が届くと、順番に味見……ではなく、毒見がされる。私達シュミット伯爵家だけなら必要ないけれど、ケンプフェルト公爵家には省けない手順ね。大人しく待つレオンの黒髪を撫でた。

 温かいうちにと急がせたベルントのお陰で、串焼きが皿に並んだ。丁寧に串を抜かれ、カトラリーを添えて提供される。変な顔をしているのはエルヴィンと双子達。今までなら「気をつけるのよ」と串ごと渡されたのに。

「いただきましょう」

 微笑んで、一口サイズにカットした肉を、レオンへ運ぶ。ぱくりと口に入れ、もぐもぐと咀嚼する。考え事をするように斜め上を見ながら、右へ左へ、頬が膨らんだ。噛み切れないんでしょう? ふふっと笑い、私も口に入れた。思ったより硬いわね。切る時はあまり感じなかったけど……。

 同様に家族も無言になり、必死に咀嚼する。周囲は騒がしいのに、テーブルは静まり返った。
しおりを挟む
感想 403

あなたにおすすめの小説

欲しがり病の妹を「わたくしが一度持った物じゃないと欲しくない“かわいそう”な妹」と言って憐れむ(おちょくる)姉の話 [完]

ラララキヲ
恋愛
 「お姉様、それ頂戴!!」が口癖で、姉の物を奪う妹とそれを止めない両親。  妹に自分の物を取られた姉は最初こそ悲しんだが……彼女はニッコリと微笑んだ。 「わたくしの物が欲しいのね」 「わたくしの“お古”じゃなきゃ嫌なのね」 「わたくしが一度持った物じゃなきゃ欲しくない“欲しがりマリリン”。貴女はなんて“可愛”そうなのかしら」  姉に憐れまれた妹は怒って姉から奪った物を捨てた。  でも懲りずに今度は姉の婚約者に近付こうとするが…………  色々あったが、それぞれ幸せになる姉妹の話。 ((妹の頭がおかしければ姉もそうだろ、みたいな話です)) ◇テンプレ屑妹モノ。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい。 ◇なろうにも上げる予定です。

みんながまるくおさまった

しゃーりん
恋愛
カレンは侯爵家の次女でもうすぐ婚約が結ばれるはずだった。 婚約者となるネイドを姉ナタリーに会わせなければ。 姉は侯爵家の跡継ぎで婚約者のアーサーもいる。 それなのに、姉はネイドに一目惚れをしてしまった。そしてネイドも。 もう好きにして。投げやりな気持ちで父が正しい判断をしてくれるのを期待した。 カレン、ナタリー、アーサー、ネイドがみんな満足する結果となったお話です。

夫の隠し子を見付けたので、溺愛してみた。

辺野夏子
恋愛
セファイア王国王女アリエノールは八歳の時、王命を受けエメレット伯爵家に嫁いだ。それから十年、ずっと仮面夫婦のままだ。アリエノールは先天性の病のため、残りの寿命はあとわずか。日々を穏やかに過ごしているけれど、このままでは生きた証がないまま短い命を散らしてしまう。そんなある日、アリエノールの元に一人の子供が現れた。夫であるカシウスに生き写しな見た目の子供は「この家の子供になりにきた」と宣言する。これは夫の隠し子に間違いないと、アリエノールは継母としてその子を育てることにするのだが……堅物で不器用な夫と、余命わずかで卑屈になっていた妻がお互いの真実に気が付くまでの話。

【完結】美しい人。

❄️冬は つとめて
恋愛
「あなたが、ウイリアム兄様の婚約者? 」 「わたくし、カミーユと言いますの。ねえ、あなたがウイリアム兄様の婚約者で、間違いないかしら。」 「ねえ、返事は。」 「はい。私、ウイリアム様と婚約しています ナンシー。ナンシー・ヘルシンキ伯爵令嬢です。」 彼女の前に現れたのは、とても美しい人でした。

完】異端の治癒能力を持つ令嬢は婚約破棄をされ、王宮の侍女として静かに暮らす事を望んだ。なのに!王子、私は侍女ですよ!言い寄られたら困ります!

仰木 あん
恋愛
マリアはエネローワ王国のライオネル伯爵の長女である。 ある日、婚約者のハルト=リッチに呼び出され、婚約破棄を告げられる。 理由はマリアの義理の妹、ソフィアに心変わりしたからだそうだ。 ハルトとソフィアは互いに惹かれ、『真実の愛』に気付いたとのこと…。 マリアは色々な物を継母の連れ子である、ソフィアに奪われてきたが、今度は婚約者か…と、気落ちをして、実家に帰る。 自室にて、過去の母の言葉を思い出す。 マリアには、王国において、異端とされるドルイダスの異能があり、強力な治癒能力で、人を癒すことが出来る事を… しかしそれは、この国では迫害される恐れがあるため、内緒にするようにと強く言われていた。 そんな母が亡くなり、継母がソフィアを連れて屋敷に入ると、マリアの生活は一変した。 ハルトという婚約者を得て、家を折角出たのに、この始末……。 マリアは父親に願い出る。 家族に邪魔されず、一人で静かに王宮の侍女として働いて生きるため、再び家を出るのだが……… この話はフィクションです。 名前等は実際のものとなんら関係はありません。

訳あり侯爵様に嫁いで白い結婚をした虐げられ姫が逃亡を目指した、その結果

柴野
恋愛
国王の側妃の娘として生まれた故に虐げられ続けていた王女アグネス・エル・シェブーリエ。 彼女は父に命じられ、半ば厄介払いのような形で訳あり侯爵様に嫁がされることになる。 しかしそこでも不要とされているようで、「きみを愛することはない」と言われてしまったアグネスは、ニヤリと口角を吊り上げた。 「どうせいてもいなくてもいいような存在なんですもの、さっさと逃げてしまいましょう!」 逃亡して自由の身になる――それが彼女の長年の夢だったのだ。 あらゆる手段を使って脱走を実行しようとするアグネス。だがなぜか毎度毎度侯爵様にめざとく見つかってしまい、その度失敗してしまう。 しかも日に日に彼の態度は温かみを帯びたものになっていった。 気づけば一日中彼と同じ部屋で過ごすという軟禁状態になり、溺愛という名の雁字搦めにされていて……? 虐げられ姫と女性不信な侯爵によるラブストーリー。 ※小説家になろうに重複投稿しています。

悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。

三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。 何度も断罪を回避しようとしたのに! では、こんな国など出ていきます!

婚約者が他の令嬢に微笑む時、私は惚れ薬を使った

葵 すみれ
恋愛
ポリーヌはある日、婚約者が見知らぬ令嬢と二人きりでいるところを見てしまう。 しかも、彼は見たことがないような微笑みを令嬢に向けていた。 いつも自分には冷たい彼の柔らかい態度に、ポリーヌは愕然とする。 そして、親が決めた婚約ではあったが、いつの間にか彼に恋心を抱いていたことに気づく。 落ち込むポリーヌに、妹がこれを使えと惚れ薬を渡してきた。 迷ったあげく、婚約者に惚れ薬を使うと、彼の態度は一転して溺愛してくるように。 偽りの愛とは知りながらも、ポリーヌは幸福に酔う。 しかし幸せの狭間で、惚れ薬で彼の心を縛っているのだと罪悪感を抱くポリーヌ。 悩んだ末に、惚れ薬の効果を打ち消す薬をもらうことを決意するが……。 ※小説家になろうにも掲載しています

処理中です...