【書籍化進行中】契約婚ですが可愛い継子を溺愛します

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)

文字の大きさ
上 下
24 / 316

24.契約にないので関わりません

しおりを挟む
 旦那様が帰宅した。家令フランクは出迎えに玄関へ向かい、伝えた執事ベルントも後を追う。見送って、私はレオンの口元をハンカチで拭った。

 小さな子って、すぐに鼻水や涎を垂らすのよね。絹のハンカチではなく、綿のハンカチを用意してもらった。硬くて使いづらいですよ、と侍女のリリーは忠告する。もっともな意見だけれど……。

「煮てから揉むのよ、それで……こう」

 これは街の商店の奥さんに教えてもらった知恵だ。一度煮てから干す。二度目に酢を混ぜた液体に浸し、濯いでまた干すらしい。実際に試してみたら、ゴワゴワだった家族の服が柔らかくなった。

 吸水性も良くなると聞いているから、汗や涎を拭き取るのに最適だわ。準備した大量のハンカチを、次々と交換しながら使う。すっごい贅沢! 同じように感じたのか、エルヴィンは裏返したり折ったりして使用する。

 途中で侍女に見つかり、交換するよう説得されていた。ふふっ、私もつい先日叱られたばかりよ。

「おかあしゃま! こえ!!」

 庭に咲く花を指差して呼ぶレオンに近づけば、綺麗な白い花を見せてくれた。

「綺麗ね」

「うん」

 嬉しそうに笑うのは、同じ気持ちを分かち合いたいのね。微笑んで眺めていると、庭師が声をかけてきた。

「花を摘んでご用意しましょうか」

「いいえ。このままにしてちょうだい」

 摘んだら可哀想だわ。レオンもそう感じたから、手を伸ばさなかったんだと思う。可愛いレオンの黒髪を撫でて、手を繋ぐ。一緒に立ち上がって、庭師にお礼を言った。いつも綺麗に整えてくれて、ありがとう。

「あぃあと!」

 真似してぺこりとお辞儀するレオンに、感動した庭師が深く頭を下げた。皺だらけで小さな切り傷も残る指先は、泥がついている。その手は、仕事に誇りを持って生きる人の宝だわ。

 レオンにはこういった教育も必要よね。いままで情緒教育が足りていなかったんだもの。それでもこんなに素直で明るいのは、天使だから? 抱き上げたレオンは、温かな手で首に触れる。

 ぎゅっと掴まる可愛い息子を抱いたまま、くるりと回った。

「きゃぁ!」

 大喜びで声を上げる。駆け寄ったエルヴィンや双子と一緒に、部屋へ戻った。そういえば、誰も邪魔しにこないわね。旦那様が帰ったから顔を出せ、なんて言われるかと思ったけれど。

 あの方との契約に、夫婦らしい交流や触れ合いは記載されていなかった。屋敷内なら、社交の場ではないから問題なし。何か言われたら、そう返しておこうと考えていた。関わらないでいてくれるなら、楽でいいわ。

 絵本を読みたいと騒ぐ双子に、レオンが意思表示した。

「ぼくも、ほん」

「いいわ、カッコいい英雄の出てくるお話を読みましょうね」

 大喜びする双子が絡むようにスカートを握り、エルヴィンがそれを叱る。騒がしくお部屋に戻り、土足禁止にした居間に座った。用意されたタオルで、子供達の手足や顔を拭く。綺麗になったのを確認し、絵本を一冊広げた。

 膝に座るレオン、後ろから覗き込む双子。エルヴィンは読みたい本があるようで、自分で開いて文字を目で追っている。

「あるところに、悪い魔法使いがいました……」

 魔法使いに妹を連れ去られ、倒しに行くお話。抑揚をつけて感情豊かに語れば、子供達は釘付けだ。いつの間にか、エルヴィンも加わった子供達は「幸せに暮らしましたとさ」で終わる物語に目を輝かせていた。
しおりを挟む
感想 724

あなたにおすすめの小説

「君を愛するつもりはない」と言ったら、泣いて喜ばれた

菱田もな
恋愛
完璧令嬢と名高い公爵家の一人娘シャーロットとの婚約が決まった第二皇子オズワルド。しかし、これは政略結婚で、婚約にもシャーロット自身にも全く興味がない。初めての顔合わせの場で「悪いが、君を愛するつもりはない」とはっきり告げたオズワルドに、シャーロットはなぜか歓喜の涙を浮かべて…? ※他サイトでも掲載中しております。

夫と息子は私が守ります!〜呪いを受けた夫とワケあり義息子を守る転生令嬢の奮闘記〜

梵天丸
恋愛
グリーン侯爵家のシャーレットは、妾の子ということで本妻の子たちとは差別化され、不遇な扱いを受けていた。 そんなシャーレットにある日、いわくつきの公爵との結婚の話が舞い込む。 実はシャーレットはバツイチで元保育士の転生令嬢だった。そしてこの物語の舞台は、彼女が愛読していた小説の世界のものだ。原作の小説には4行ほどしか登場しないシャーレットは、公爵との結婚後すぐに離婚し、出戻っていた。しかしその後、シャーレットは30歳年上のやもめ子爵に嫁がされた挙げ句、愛人に殺されるという不遇な脇役だった。 悲惨な末路を避けるためには、何としても公爵との結婚を長続きさせるしかない。 しかし、嫁いだ先の公爵家は、極寒の北国にある上、夫である公爵は魔女の呪いを受けて目が見えない。さらに公爵を始め、公爵家の人たちはシャーレットに対してよそよそしく、いかにも早く出て行って欲しいという雰囲気だった。原作のシャーレットが耐えきれずに離婚した理由が分かる。しかし、実家に戻れば、悲惨な末路が待っている。シャーレットは図々しく居座る計画を立てる。 そんなある日、シャーレットは城の中で公爵にそっくりな子どもと出会う。その子どもは、公爵のことを「お父さん」と呼んだ。

大公閣下!こちらの双子様、耳と尾がはえておりますが!?

まめまめ
恋愛
 魔法が使えない無能ハズレ令嬢オリヴィアは、実父にも見限られ、皇子との縁談も破談になり、仕方なく北の大公家へ家庭教師として働きに出る。  大公邸で会ったのは、可愛すぎる4歳の双子の兄妹! 「オリヴィアさまっ、いっしょにねよ?」 (可愛すぎるけど…なぜ椅子がシャンデリアに引っかかってるんですか!?カーテンもクロスもぼろぼろ…ああ!スープのお皿は投げないでください!!)  双子様の父親、大公閣下に相談しても 「子どもたちのことは貴女に任せます。」  と冷たい瞳で吐き捨てられるだけ。  しかもこちらの双子様、頭とおしりに、もふもふが…!?  どん底だけどめげないオリヴィアが、心を閉ざした大公閣下と可愛い謎の双子とどうにかこうにか家族になっていく恋愛要素多めのホームドラマ(?)です。

継母の品格 〜 行き遅れ令嬢は、辺境伯と愛娘に溺愛される 〜

出口もぐら
恋愛
【短編】巷で流行りの婚約破棄。  令嬢リリーも例外ではなかった。家柄、剣と共に生きる彼女は「女性らしさ」に欠けるという理由から、婚約破棄を突き付けられる。  彼女の手は研鑽の証でもある、肉刺や擦り傷がある。それを隠すため、いつもレースの手袋をしている。別にそれを恥じたこともなければ、婚約破棄を悲しむほど脆弱ではない。 「行き遅れた令嬢」こればかりはどうしようもない、と諦めていた。  しかし、そこへ辺境伯から婚約の申し出が――。その辺境伯には娘がいた。 「分かりましたわ!これは契約結婚!この小さなお姫様を私にお守りするようにと仰せですのね」  少しばかり天然、快活令嬢の継母ライフ。 ▼連載版、準備中。 ■この作品は「小説家になろう」にも投稿しています。

【完結】ブスと呼ばれるひっつめ髪の眼鏡令嬢は婚約破棄を望みます。

はゆりか
恋愛
幼き頃から決まった婚約者に言われた事を素直に従い、ひっつめ髪に顔が半分隠れた瓶底丸眼鏡を常に着けたアリーネ。 周りからは「ブス」と言われ、外見を笑われ、美しい婚約者とは並んで歩くのも忌わしいと言われていた。 婚約者のバロックはそれはもう見目の美しい青年。 ただ、美しいのはその見た目だけ。 心の汚い婚約者様にこの世の厳しさを教えてあげましょう。 本来の私の姿で…… 前編、中編、後編の短編です。

頭頂部に薔薇の棘が刺さりまして

犬野きらり
恋愛
第二王子のお茶会に参加して、どうにかアピールをしようと、王子の近くの場所を確保しようとして、転倒。 王家の薔薇に突っ込んで転んでしまった。髪の毛に引っ掛かる薔薇の枝に棘。 失態の恥ずかしさと熱と痛みで、私が寝込めば、初めましての小さき者の姿が見えるようになり… この薔薇を育てた人は!?

余命六年の幼妻の願い~旦那様は私に興味が無い様なので自由気ままに過ごさせて頂きます。~

流雲青人
恋愛
商人と商品。そんな関係の伯爵家に生まれたアンジェは、十二歳の誕生日を迎えた日に医師から余命六年を言い渡された。 しかし、既に公爵家へと嫁ぐことが決まっていたアンジェは、公爵へは病気の存在を明かさずに嫁ぐ事を余儀なくされる。 けれど、幼いアンジェに公爵が興味を抱く訳もなく…余命だけが過ぎる毎日を過ごしていく。

「股ゆる令嬢」の幸せな白い結婚

ウサギテイマーTK
恋愛
公爵令嬢のフェミニム・インテラは、保持する特異能力のために、第一王子のアージノスと婚約していた。だが王子はフェミニムの行動を誤解し、別の少女と付き合うようになり、最終的にフェミニムとの婚約を破棄する。そしてフェミニムを、子どもを作ることが出来ない男性の元へと嫁がせるのである。それが王子とその周囲の者たちの、破滅への序章となることも知らずに。 ※タイトルは下品ですが、R15範囲だと思います。完結保証。

処理中です...