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外伝2.僕の肩書きが変わった日(SIDEロルフ)
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*****SIDE ロルフ
フォルシウス帝国唯一の大公ナーリスヴァーラの跡取り。僕の肩書きはこれだった。でも、皇帝陛下が僕を跡取りに欲しいと言ったみたい。お父様は好きにすればいいと笑う。
皇帝陛下も、皇妃様も、お優しくて好きだ。双子のフランとエレンも仲良くしてくれる。お父様は皇帝陛下のお仕事を手伝って、お母様は皇妃様のお支度をしたり一緒にお茶を飲む仕事をしていた。だから常に僕も離宮に出入り出来る。
「エレン様、何度も申し上げたでしょう。紙は用意しますので、書類に絵を描いてはいけません」
お父様がエレンを叱る。でも彼女はまったく気にしないんだ。反省したと謝るのに、明日も同じことをするよ。ひらりと落ちた紙に描かれた絵をじっくり見て、呟く。
「馬?」
「違うわ、ルーよ」
黒と灰色の混じった狼の絵らしい。どう見ても足が長すぎるし、胴体が細いけど。耳も小さすぎるし、ポニーを見にいった時に見た馬かと思った。泣かれるから指摘しない。僕は賢いとみんなが褒めてくれるけど、狡いだけだ。
「ルー? こうしたらもっと似てるよ」
さらさらと耳を大きくして紙を折った。足を短く見せて、胴体を少し描き足したら、ほら、似てる。隣でじっと見つめたあと、エレンは手を叩いて喜んだ。ほっとした。エレンが笑ってると嬉しいんだ。でも誰かが見てると隠したくなる。
「フランはどうしたの?」
「お庭で薔薇を切るって言ってたわ。お母様にプレゼントするんじゃないかしら」
侍女のセリフを覚えて、大人っぽい口調で喋る。こういうの、エレンの背伸びが可愛い。だから微笑んで頷いた。
「僕達も見に行こうか」
皇帝陛下の双子の後、皇妃様は女の子を産んだ。エレンやフランの妹だ。いつもミルクの甘い香りがして、温かくて柔らかい。カリンと名付けられた姫は、僕にとっても妹みたいな存在だった。
エレンがカリンと仲良く並ぶ姿を見ると、すごく幸せになる。でもエレンはカリンがあまり好きではない。お母様を取られたと泣いていたから。僕はそんなエレンを抱き締めて、皇妃様の分もいっぱいキスをした。額も頬も手のひらも。お母様に話したら悲鳴を上げられたので、今は頬と手の甲だけにしてる。
「カリンに会いたいの?」
嫌そうに尋ねるエレンに、僕は首を横に振った。
「違うよ、皇妃様やお母様にこの絵を見せに行こうと思って。ルーの絵なら皇妃様がすごく喜んでくれる」
カリンよりエレンだ。僕は勉強や訓練以外の自由時間をすべて、エレンと一緒に過ごしている。彼女も嫌って言わないし、正直、カリンはどうでもいい。僕がカリンを気にしてるフリをすると、エレンが僕から離れなくなるから口にするんだ。
「そうね、絵を見せにいきましょう。カリンがいるかもしれないけど」
嫌だわと文句を言いながら、行くと撫でるんでしょう? そんな君が好きなんだ。
「……間違いなくお前の息子だな」
僕らのやりとりを見ていた皇帝陛下がぼそっと呟く。嫌そうな顔をして、お父様が言い返した。
「どちらかといえば、エリクに似てるぞ」
いつもより口が悪いお父様に、皇帝陛下は溜め息をついた。
「どちらにしろ、エレンの婿に決まりだな。変なのを近づけると、暴走しそうだ」
今日、僕の肩書きが変わった。皇帝陛下の跡取り候補じゃなくて、皇帝陛下の姫君の婿候補。手を繋いだエレンはご機嫌で、離宮の廊下から扉を叩く。お母様が扉を開くまでの間に、エレンの頬に口付けた。
君は僕のものだからね。
フォルシウス帝国唯一の大公ナーリスヴァーラの跡取り。僕の肩書きはこれだった。でも、皇帝陛下が僕を跡取りに欲しいと言ったみたい。お父様は好きにすればいいと笑う。
皇帝陛下も、皇妃様も、お優しくて好きだ。双子のフランとエレンも仲良くしてくれる。お父様は皇帝陛下のお仕事を手伝って、お母様は皇妃様のお支度をしたり一緒にお茶を飲む仕事をしていた。だから常に僕も離宮に出入り出来る。
「エレン様、何度も申し上げたでしょう。紙は用意しますので、書類に絵を描いてはいけません」
お父様がエレンを叱る。でも彼女はまったく気にしないんだ。反省したと謝るのに、明日も同じことをするよ。ひらりと落ちた紙に描かれた絵をじっくり見て、呟く。
「馬?」
「違うわ、ルーよ」
黒と灰色の混じった狼の絵らしい。どう見ても足が長すぎるし、胴体が細いけど。耳も小さすぎるし、ポニーを見にいった時に見た馬かと思った。泣かれるから指摘しない。僕は賢いとみんなが褒めてくれるけど、狡いだけだ。
「ルー? こうしたらもっと似てるよ」
さらさらと耳を大きくして紙を折った。足を短く見せて、胴体を少し描き足したら、ほら、似てる。隣でじっと見つめたあと、エレンは手を叩いて喜んだ。ほっとした。エレンが笑ってると嬉しいんだ。でも誰かが見てると隠したくなる。
「フランはどうしたの?」
「お庭で薔薇を切るって言ってたわ。お母様にプレゼントするんじゃないかしら」
侍女のセリフを覚えて、大人っぽい口調で喋る。こういうの、エレンの背伸びが可愛い。だから微笑んで頷いた。
「僕達も見に行こうか」
皇帝陛下の双子の後、皇妃様は女の子を産んだ。エレンやフランの妹だ。いつもミルクの甘い香りがして、温かくて柔らかい。カリンと名付けられた姫は、僕にとっても妹みたいな存在だった。
エレンがカリンと仲良く並ぶ姿を見ると、すごく幸せになる。でもエレンはカリンがあまり好きではない。お母様を取られたと泣いていたから。僕はそんなエレンを抱き締めて、皇妃様の分もいっぱいキスをした。額も頬も手のひらも。お母様に話したら悲鳴を上げられたので、今は頬と手の甲だけにしてる。
「カリンに会いたいの?」
嫌そうに尋ねるエレンに、僕は首を横に振った。
「違うよ、皇妃様やお母様にこの絵を見せに行こうと思って。ルーの絵なら皇妃様がすごく喜んでくれる」
カリンよりエレンだ。僕は勉強や訓練以外の自由時間をすべて、エレンと一緒に過ごしている。彼女も嫌って言わないし、正直、カリンはどうでもいい。僕がカリンを気にしてるフリをすると、エレンが僕から離れなくなるから口にするんだ。
「そうね、絵を見せにいきましょう。カリンがいるかもしれないけど」
嫌だわと文句を言いながら、行くと撫でるんでしょう? そんな君が好きなんだ。
「……間違いなくお前の息子だな」
僕らのやりとりを見ていた皇帝陛下がぼそっと呟く。嫌そうな顔をして、お父様が言い返した。
「どちらかといえば、エリクに似てるぞ」
いつもより口が悪いお父様に、皇帝陛下は溜め息をついた。
「どちらにしろ、エレンの婿に決まりだな。変なのを近づけると、暴走しそうだ」
今日、僕の肩書きが変わった。皇帝陛下の跡取り候補じゃなくて、皇帝陛下の姫君の婿候補。手を繋いだエレンはご機嫌で、離宮の廊下から扉を叩く。お母様が扉を開くまでの間に、エレンの頬に口付けた。
君は僕のものだからね。
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