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167.今日は特別です
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ナーリスヴァーラ大公ニルスと、シュルストレーム女公爵ソフィの結婚式は派手だった。僕が提供するのは、自由に使える広間の権利と食材や使用人で、花嫁のヴェールはトリシャが用意した。ここからが凄かった。
実家で虐げられた美女が皇帝の僕に見初められて皇妃になる話は、宮廷どころか民にも浸透している。多少の誘導も含んでるが、概ね事実だった。そんな姫を陰から助けた侍女は、生まれた国を捨ててまで帝国で主君を守った。忠義の話がどこからか広がっている。
これは僕の知らない話だから、ニルスに確認したけど……どうやら離宮の侍女達の噂話が原点らしい。好意的な話なので、害はないと放置したけど……最近になって急速に広まったのは、ニルスとの結婚が原因だろう。
主君のために出世を捨てた侍女が、帝国で女公爵の地位を与えられ、皇族の一員である大公の妻になる。わかりやすい成り上がりだよね。僕の代になってから平民の登用が進んでいる。宮廷内や文官武官問わず、能力があれば幸せを掴める――その代名詞というべき広告塔が、ソフィなのだ。
元平民が侍女を経て女公爵、大公夫人へと身分制度の階段を駆け上がった。先代皇帝の頃なら考えられない夢物語が現実になったことで、人々の噂は加熱していく。トリシャやソフィの名誉を傷つける噂が入ってないので、僕達は放置することにした。
「行こうか、トリシャ」
「はい」
微笑んだ皇妃に薄いヴェールを被せるのは、僕の独占欲が強過ぎるから。見せびらかしたい反面、彼女の美しさに魅入られる虫が増えるのが嫌だった。今日のトリシャのドレスは淡いブルー、強烈な色を避けたのは主役がニルスとソフィだからだね。僕も紺をベースに白と淡いグレーを配色した服に、そっとトリシャのドレスと同色のスカーフを飾る。
少し膨らんだ腹を締め付けないよう、ゆったりしたドレスを仕立てさせた。この辺は未亡人達も承知しており、肌触りや着心地抜群のドレスを提案してくる。柔らかな細い布を幾重にも重ねたことで、スカートがひらひらと風に踊る。一番下のスカートは1枚布のため、絶対に足は見えない辺りが気に入った。
「足元に気をつけて」
「ありがとう、エリク」
先に準備を済ませたニルスとソフィが待つ控室の前を抜け、広間に入って長椅子に並んで座る。集まった王侯貴族や民が見守る中、音楽がゆっくりと人々の意識を絡め取った。自然と、期待に満ちた眼差しが扉に注がれる。開いた扉から、腕を組んだ2人が入場した。このスタイルは、庶民が教会で誓うときに使われる一般的なものだ。わっと人々が拍手と歓声を上げた。
美しい音楽と心地よい祝いの声、僕達の一番の理解者が微笑みあって祭壇に向かう。待っていた大司教は僕達の時と同じで、難しい言葉で祝うと署名を促した。先に署名したニルスからペンを受け取り、ソフィが名を記す。置いたペンが転がるのを、大司教が指先で留めた。
「誓いの口付けを」
大司教の促しはあの日と同じ。ソフィのヴェールを上げたニルスが口付ける。それを見て感涙するトリシャのヴェールを少し捲り、僕も彼女の頬にキスをひとつ。警護のため、正装姿で後ろに立つ双子の騎士が、見事にシンクロした咳払いをした。
湧き立つ人々の祝福が、街中から聞こえる。僕とトリシャの結婚式を再現しているみたいだね。
「エリク」
呼ばれて視線をトリシャに戻すと、ヴェール越しにトリシャの唇が重なる。息をのんだ僕に「今日は特別です」と笑った天使は……輝いて見えた。
実家で虐げられた美女が皇帝の僕に見初められて皇妃になる話は、宮廷どころか民にも浸透している。多少の誘導も含んでるが、概ね事実だった。そんな姫を陰から助けた侍女は、生まれた国を捨ててまで帝国で主君を守った。忠義の話がどこからか広がっている。
これは僕の知らない話だから、ニルスに確認したけど……どうやら離宮の侍女達の噂話が原点らしい。好意的な話なので、害はないと放置したけど……最近になって急速に広まったのは、ニルスとの結婚が原因だろう。
主君のために出世を捨てた侍女が、帝国で女公爵の地位を与えられ、皇族の一員である大公の妻になる。わかりやすい成り上がりだよね。僕の代になってから平民の登用が進んでいる。宮廷内や文官武官問わず、能力があれば幸せを掴める――その代名詞というべき広告塔が、ソフィなのだ。
元平民が侍女を経て女公爵、大公夫人へと身分制度の階段を駆け上がった。先代皇帝の頃なら考えられない夢物語が現実になったことで、人々の噂は加熱していく。トリシャやソフィの名誉を傷つける噂が入ってないので、僕達は放置することにした。
「行こうか、トリシャ」
「はい」
微笑んだ皇妃に薄いヴェールを被せるのは、僕の独占欲が強過ぎるから。見せびらかしたい反面、彼女の美しさに魅入られる虫が増えるのが嫌だった。今日のトリシャのドレスは淡いブルー、強烈な色を避けたのは主役がニルスとソフィだからだね。僕も紺をベースに白と淡いグレーを配色した服に、そっとトリシャのドレスと同色のスカーフを飾る。
少し膨らんだ腹を締め付けないよう、ゆったりしたドレスを仕立てさせた。この辺は未亡人達も承知しており、肌触りや着心地抜群のドレスを提案してくる。柔らかな細い布を幾重にも重ねたことで、スカートがひらひらと風に踊る。一番下のスカートは1枚布のため、絶対に足は見えない辺りが気に入った。
「足元に気をつけて」
「ありがとう、エリク」
先に準備を済ませたニルスとソフィが待つ控室の前を抜け、広間に入って長椅子に並んで座る。集まった王侯貴族や民が見守る中、音楽がゆっくりと人々の意識を絡め取った。自然と、期待に満ちた眼差しが扉に注がれる。開いた扉から、腕を組んだ2人が入場した。このスタイルは、庶民が教会で誓うときに使われる一般的なものだ。わっと人々が拍手と歓声を上げた。
美しい音楽と心地よい祝いの声、僕達の一番の理解者が微笑みあって祭壇に向かう。待っていた大司教は僕達の時と同じで、難しい言葉で祝うと署名を促した。先に署名したニルスからペンを受け取り、ソフィが名を記す。置いたペンが転がるのを、大司教が指先で留めた。
「誓いの口付けを」
大司教の促しはあの日と同じ。ソフィのヴェールを上げたニルスが口付ける。それを見て感涙するトリシャのヴェールを少し捲り、僕も彼女の頬にキスをひとつ。警護のため、正装姿で後ろに立つ双子の騎士が、見事にシンクロした咳払いをした。
湧き立つ人々の祝福が、街中から聞こえる。僕とトリシャの結婚式を再現しているみたいだね。
「エリク」
呼ばれて視線をトリシャに戻すと、ヴェール越しにトリシャの唇が重なる。息をのんだ僕に「今日は特別です」と笑った天使は……輝いて見えた。
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