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162.祝勝会は上司抜きで
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凱旋式は先頭の将軍アレスから、最後の国旗を持つ兵まで見守るのが君主の役目だ。先代皇帝は将軍だけ見たら引き上げてたらしいけど、失礼にも程があるよ。だから人心を掌握できないんだろうね。
穏やかに微笑んで、国民である兵士が無事帰還したことを喜ぶ。別に偽らなくたって出来ることを、嫌がるなんてクズ過ぎるよ。全員の名前と顔を覚えるほど軍に傾倒することはないけど、自国の安全を脅かす敵と戦った兵士を労うのは、皇帝の当たり前の責務だった。
全員が会場内に入り、アレスの号令で観客席側に敬礼する。そこに並んで手を振るのは、彼らの家族なのは当たり前だった。功績者の妻子を押し除け、皇族に愛国心をアピールする貴族なんて要らない。だから片付けるよう命じた。敬礼した兵達の表情が綻んでいく。この場に貴族が並んでいたら見られなかった笑顔だよ。
「我が国のために戦った諸君らを誇りに思う。祝勝会を大広間にて行うゆえ、階級関係なく家族を伴って参加するように」
僕の声がよく通る。隣でトリシャが裾を捌いて立ち上がり、ゆっくり会釈した。彼女に手を貸し、アレスが答礼する姿を見守る。それからようやく退席だった。
きっちり宣言したから、関係者以外立ち入り禁止を徹底させよう。兵士が伴うなら恋人でも姉妹や友人でも入場できる。だが関係ない貴族が入り込もうとしたら、排除するよう手配した。出兵しなかった騎士や兵士も気合が入っている。僕の指示は絶対だから、きちんと役割を果たしてくれるだろう。
「私も顔を出しましょう」
「そうだね。ただ……上司がいると飲み会が白けて盛り上がりに欠けるだろう? だから挨拶だけしたら抜け出すけど、いいかい?」
戦った兵達が、家族と美味しいものを食べて生きて帰れたことを祝うのが、祝勝会だった。皇帝陛下が臨席し続けたら、邪魔しちゃうからね。くすくす笑いながら告げると、トリシャは頷いた。
「統治者として当然ですわ。その後で庭のお散歩でもいかが?」
夜の庭も綺麗ですもの。以前に青薔薇や白薔薇を見せた本宮の庭を歩きたいと希望する彼女に、僕は条件をひとつ。
「だったらドレスを2着用意して。今のような裾の長い物は公式行事用だけど、その裾じゃ庭を歩けないからね」
後ろでソフィがしっかり約束した。両方用意して、本宮の僕の部屋を控室にすればいい。ドレスを運び込む手筈を整えるソフィは、もう立派な皇妃専属侍女だった。
「ああ、そうそう。アレスの希望でニルスが最後まで出席するから……ソフィもドレスを用意しなくちゃいけないよ」
「かしこまりました」
女公爵として、未来の大公夫人の地位を固める必要があるからね。婚約者がいるのに、他の女性が言いよる隙を与えてはダメだ。公式の場でニルスを一人にしないことも、ソフィの大切な役目だから。釘を刺してから、トリシャをエスコートして歩く僕は、袖に長い裾の一部を絡めた。
「こうして歩くと、親しさのアピールとして最高だね。君が裾を気にしてしがみ付いてくれるのも嬉しいよ」
「まぁっ! そんなこと考えてらしたのね」
扇でぺちっと軽く抗議され、口先でごめんねと謝り、頬にキスを落とす。こんなやり取りが嬉しくて幸せだなんて、トリシャも同じに感じてくれたら最高だね。
穏やかに微笑んで、国民である兵士が無事帰還したことを喜ぶ。別に偽らなくたって出来ることを、嫌がるなんてクズ過ぎるよ。全員の名前と顔を覚えるほど軍に傾倒することはないけど、自国の安全を脅かす敵と戦った兵士を労うのは、皇帝の当たり前の責務だった。
全員が会場内に入り、アレスの号令で観客席側に敬礼する。そこに並んで手を振るのは、彼らの家族なのは当たり前だった。功績者の妻子を押し除け、皇族に愛国心をアピールする貴族なんて要らない。だから片付けるよう命じた。敬礼した兵達の表情が綻んでいく。この場に貴族が並んでいたら見られなかった笑顔だよ。
「我が国のために戦った諸君らを誇りに思う。祝勝会を大広間にて行うゆえ、階級関係なく家族を伴って参加するように」
僕の声がよく通る。隣でトリシャが裾を捌いて立ち上がり、ゆっくり会釈した。彼女に手を貸し、アレスが答礼する姿を見守る。それからようやく退席だった。
きっちり宣言したから、関係者以外立ち入り禁止を徹底させよう。兵士が伴うなら恋人でも姉妹や友人でも入場できる。だが関係ない貴族が入り込もうとしたら、排除するよう手配した。出兵しなかった騎士や兵士も気合が入っている。僕の指示は絶対だから、きちんと役割を果たしてくれるだろう。
「私も顔を出しましょう」
「そうだね。ただ……上司がいると飲み会が白けて盛り上がりに欠けるだろう? だから挨拶だけしたら抜け出すけど、いいかい?」
戦った兵達が、家族と美味しいものを食べて生きて帰れたことを祝うのが、祝勝会だった。皇帝陛下が臨席し続けたら、邪魔しちゃうからね。くすくす笑いながら告げると、トリシャは頷いた。
「統治者として当然ですわ。その後で庭のお散歩でもいかが?」
夜の庭も綺麗ですもの。以前に青薔薇や白薔薇を見せた本宮の庭を歩きたいと希望する彼女に、僕は条件をひとつ。
「だったらドレスを2着用意して。今のような裾の長い物は公式行事用だけど、その裾じゃ庭を歩けないからね」
後ろでソフィがしっかり約束した。両方用意して、本宮の僕の部屋を控室にすればいい。ドレスを運び込む手筈を整えるソフィは、もう立派な皇妃専属侍女だった。
「ああ、そうそう。アレスの希望でニルスが最後まで出席するから……ソフィもドレスを用意しなくちゃいけないよ」
「かしこまりました」
女公爵として、未来の大公夫人の地位を固める必要があるからね。婚約者がいるのに、他の女性が言いよる隙を与えてはダメだ。公式の場でニルスを一人にしないことも、ソフィの大切な役目だから。釘を刺してから、トリシャをエスコートして歩く僕は、袖に長い裾の一部を絡めた。
「こうして歩くと、親しさのアピールとして最高だね。君が裾を気にしてしがみ付いてくれるのも嬉しいよ」
「まぁっ! そんなこと考えてらしたのね」
扇でぺちっと軽く抗議され、口先でごめんねと謝り、頬にキスを落とす。こんなやり取りが嬉しくて幸せだなんて、トリシャも同じに感じてくれたら最高だね。
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