157 / 173
157.将軍としての出陣を許す
しおりを挟む
ニルスとソフィの結婚式会場を貸し出す話は受け入れられ、正直ほっとした。他に思いつかないからね。トリシャのお陰で助かったよ。
誰かに抗議できる爵位だけあればいい。以前にニルスはそう言ったから、大公の地位を与えた。周囲の貴族がうるさいから、親族だと匂わせて黙らせる。与えた領地は邪魔だと返され、代わりに渡した金で孤児を育てて、僕の周囲に配置する。血の繋がった親兄弟だって、ここまでしないんじゃないかな。
献身的という単語がここまで似合う奴も珍しいけど、その意味では双子の騎士も近かった。方向性が同じだったら、互いに牽制し合いそうなタイプだったね。
この10日ばかりで舞い込んだ案件の中で、厄介なものから手をつける。属国同士の戦いは放置、結果が出たら最後の采配だけすればいい。僕が一々出て行くと分かれば、多少の牽制になるかも知れない。だがそれ以上にデメリットが大きかった。
僕がトリシャと過ごす時間が削られる。皇帝の仲裁が恒例化すれば狙われるし、離れた隙に鳥籠を狙う泥棒猫が出る可能性もあった。危険は芽のうちに摘むべきで、今後は各国に監視員を派遣する予定だ。それによって戦争や紛争の火種を事前に把握できる。火種のうちに消せば被害も出ないからね。トリシャが願ううちは、善政を敷く皇帝陛下でいるつもりだよ。
数枚の書類を処理し、椅子に寄り掛かる。専用の厨房で菓子を焼きたいから、と昨夜は拒まれてしまった。確かに結婚前は午前中に菓子を焼いて、午後のお茶に出してくれたけど……もっと甘い味を知った僕に、待てをするなんて。
相手がトリシャだから頷くしかないんだけど。押し倒して有耶無耶にしたい葛藤を抑えて眠るのは、とても大変だった。夫に我慢させているのに、彼女はすやすやと寝息を立てる。その無防備さに、僕が暴走しなかったのは奇跡だね。君への愛が成せる技だけど、何回もやったら効かなくなるよ。
ソフィの婚礼衣装の手配は明日の午後だし、ニルスは普段から式典用の採寸をしているから問題ない。あとは急ぎの仕事はない……かな? 頭の中であれこれ整理する僕の耳に、慌ただしい足音が聞こえた。
男性禁制にしていた離宮だけど、結婚を機に信用できる者に許可を与えた。ほとんどは近衛騎士とニルスの育てた侍従だ。力仕事を手伝うため、侍女との交流が進んでいるようで、結婚の許可を求める書類が届いたとニルスが笑ってたっけ。
ノックの音の後、アレスの声で入室の許可を求められる。ということは侍従の誰かだろう。
「いいよ」
「失礼いたします。皇帝陛下に幸あれ。ご報告がございます。属国セルベルに攻め込んだオリアンに、レンヘルム王国が加勢しました!」
セルベル国とオリアン国は、フォルシウス帝国の配下だが、レンヘルム王国は違う。漁夫の利を狙った加勢か、またはオリアンが裏切っていたか。
「アレス、聞いた?」
「はい」
「将軍としての出陣を許す。セルベル国に加勢し、オリアンとレンヘルムを叩きのめせ。ああ、オリアンの王族はまだ生かしておいてね。レンヘルムは併合しちゃっていいよ」
「拝命いたしました」
圧倒的武力を誇る帝国の騎士を動かす必要なんてない。近隣国は喜んで兵を差し出すからね。僕が動く事態になる前に片付けろ――命じた意味を受け取ったアレスの口元が弧を描いた。
誰かに抗議できる爵位だけあればいい。以前にニルスはそう言ったから、大公の地位を与えた。周囲の貴族がうるさいから、親族だと匂わせて黙らせる。与えた領地は邪魔だと返され、代わりに渡した金で孤児を育てて、僕の周囲に配置する。血の繋がった親兄弟だって、ここまでしないんじゃないかな。
献身的という単語がここまで似合う奴も珍しいけど、その意味では双子の騎士も近かった。方向性が同じだったら、互いに牽制し合いそうなタイプだったね。
この10日ばかりで舞い込んだ案件の中で、厄介なものから手をつける。属国同士の戦いは放置、結果が出たら最後の采配だけすればいい。僕が一々出て行くと分かれば、多少の牽制になるかも知れない。だがそれ以上にデメリットが大きかった。
僕がトリシャと過ごす時間が削られる。皇帝の仲裁が恒例化すれば狙われるし、離れた隙に鳥籠を狙う泥棒猫が出る可能性もあった。危険は芽のうちに摘むべきで、今後は各国に監視員を派遣する予定だ。それによって戦争や紛争の火種を事前に把握できる。火種のうちに消せば被害も出ないからね。トリシャが願ううちは、善政を敷く皇帝陛下でいるつもりだよ。
数枚の書類を処理し、椅子に寄り掛かる。専用の厨房で菓子を焼きたいから、と昨夜は拒まれてしまった。確かに結婚前は午前中に菓子を焼いて、午後のお茶に出してくれたけど……もっと甘い味を知った僕に、待てをするなんて。
相手がトリシャだから頷くしかないんだけど。押し倒して有耶無耶にしたい葛藤を抑えて眠るのは、とても大変だった。夫に我慢させているのに、彼女はすやすやと寝息を立てる。その無防備さに、僕が暴走しなかったのは奇跡だね。君への愛が成せる技だけど、何回もやったら効かなくなるよ。
ソフィの婚礼衣装の手配は明日の午後だし、ニルスは普段から式典用の採寸をしているから問題ない。あとは急ぎの仕事はない……かな? 頭の中であれこれ整理する僕の耳に、慌ただしい足音が聞こえた。
男性禁制にしていた離宮だけど、結婚を機に信用できる者に許可を与えた。ほとんどは近衛騎士とニルスの育てた侍従だ。力仕事を手伝うため、侍女との交流が進んでいるようで、結婚の許可を求める書類が届いたとニルスが笑ってたっけ。
ノックの音の後、アレスの声で入室の許可を求められる。ということは侍従の誰かだろう。
「いいよ」
「失礼いたします。皇帝陛下に幸あれ。ご報告がございます。属国セルベルに攻め込んだオリアンに、レンヘルム王国が加勢しました!」
セルベル国とオリアン国は、フォルシウス帝国の配下だが、レンヘルム王国は違う。漁夫の利を狙った加勢か、またはオリアンが裏切っていたか。
「アレス、聞いた?」
「はい」
「将軍としての出陣を許す。セルベル国に加勢し、オリアンとレンヘルムを叩きのめせ。ああ、オリアンの王族はまだ生かしておいてね。レンヘルムは併合しちゃっていいよ」
「拝命いたしました」
圧倒的武力を誇る帝国の騎士を動かす必要なんてない。近隣国は喜んで兵を差し出すからね。僕が動く事態になる前に片付けろ――命じた意味を受け取ったアレスの口元が弧を描いた。
11
お気に入りに追加
3,471
あなたにおすすめの小説
最後にひとつだけお願いしてもよろしいでしょうか
鳳ナナ
恋愛
第二王子カイルの婚約者、公爵令嬢スカーレットは舞踏会の最中突然婚約破棄を言い渡される。
王子が溺愛する見知らぬ男爵令嬢テレネッツァに嫌がらせをしたと言いがかりを付けられた上、
大勢の取り巻きに糾弾され、すべての罪を被れとまで言われた彼女は、ついに我慢することをやめた。
「この場を去る前に、最後に一つだけお願いしてもよろしいでしょうか」
乱れ飛ぶ罵声、弾け飛ぶイケメン──
手のひらはドリルのように回転し、舞踏会は血に染まった。
6年後に戦地から帰ってきた夫が連れてきたのは妻という女だった
白雲八鈴
恋愛
私はウォルス侯爵家に15歳の時に嫁ぎ婚姻後、直ぐに夫は魔王討伐隊に出兵しました。6年後、戦地から夫が帰って来ました、妻という女を連れて。
もういいですか。私はただ好きな物を作って生きていいですか。この国になんて出ていってやる。
ただ、皆に喜ばれる物を作って生きたいと願う女性がその才能に目を付けられ周りに翻弄されていく。彼女は自由に物を作れる道を歩むことが出来るのでしょうか。
番外編
謎の少女強襲編
彼女が作り出した物は意外な形で人々を苦しめていた事を知り、彼女は再び帝国の地を踏むこととなる。
私が成した事への清算に行きましょう。
炎国への旅路編
望んでいた炎国への旅行に行く事が出来ない日々を送っていたが、色々な人々の手を借りながら炎国のにたどり着くも、そこにも帝国の影が・・・。
え?なんで私に誰も教えてくれなかったの?そこ大事ー!
*本編は完結済みです。
*誤字脱字は程々にあります。
*なろう様にも投稿させていただいております。
【完結済】逆恨みで婚約破棄をされて虐待されていたおちこぼれ聖女、隣国のおちぶれた侯爵家の当主様に助けられたので、恩返しをするために奮闘する
ゆうき@初書籍化作品発売中
恋愛
偉大な聖女であった母を持つ、落ちこぼれ聖女のエレナは、婚約者である侯爵家の当主、アーロイに人殺しの死神として扱われ、牢に閉じ込められて酷い仕打ちを受ける日々を送っていた。
そんなエレナは、今は亡き母の遺言に従って、必死に耐える日々を送っていたが、同じ聖女の力を持ち、母から教えを受けていたジェシーによってアーロイを奪われ、婚約破棄を突き付けられる。
ここにいても、ずっと虐げられたまま人生に幕を下ろしてしまう――そんなのは嫌だと思ったエレナは、二人の結婚式の日に屋敷から人がいなくなった隙を突いて、脱走を決行する。
なんとか脱走はできたものの、著しく落ちた体力のせいで川で溺れてしまい、もう駄目だと諦めてしまう。
しかし、偶然通りかかった隣国の侯爵家の当主、ウィルフレッドによって、エレナは一命を取り留めた。
ウィルフレッドは過去の事故で右の手足と右目が不自由になっていた。そんな彼に恩返しをするために、エレナは聖女の力である回復魔法を使うが……彼の怪我は深刻で、治すことは出来なかった。
当主として家や家族、使用人達を守るために毎日奮闘していることを知ったエレナは、ウィルフレッドを治して幸せになってもらうために、彼の専属の聖女になることを決意する――
これは一人の落ちこぼれ聖女が、体が不自由な男性を助けるために奮闘しながら、互いに惹かれ合って幸せになっていく物語。
※全四十五話予定。最後まで執筆済みです。この物語はフィクションです。
魔力ゼロの出来損ない貴族、四大精霊王に溺愛される
日之影ソラ
ファンタジー
魔法使いの名門マスタローグ家の次男として生をうけたアスク。兄のように優れた才能を期待されたアスクには何もなかった。魔法使いとしての才能はおろか、誰もが持って生まれる魔力すらない。加えて感情も欠落していた彼は、両親から拒絶され別宅で一人暮らす。
そんなある日、アスクは一冊の不思議な本を見つけた。本に誘われた世界で四大精霊王と邂逅し、自らの才能と可能性を知る。そして精霊王の契約者となったアスクは感情も取り戻し、これまで自分を馬鹿にしてきた周囲を見返していく。
HOTランキング&ファンタジーランキング1位達成!!
夫と妹に裏切られて全てを失った私は、辺境地に住む優しい彼に出逢い、沢山の愛を貰いながら居場所を取り戻す
夏目萌
恋愛
レノアール地方にある海を隔てた二つの大国、ルビナとセネルは昔から敵対国家として存在していたけれど、この度、セネルの方から各国の繁栄の為に和平条約を結びたいと申し出があった。
それというのも、セネルの世継ぎであるシューベルトがルビナの第二王女、リリナに一目惚れした事がきっかけだった。
しかしリリナは母親に溺愛されている事、シューベルトは女好きのクズ王子と噂されている事から嫁がせたくない王妃は義理の娘で第一王女のエリスに嫁ぐよう命令する。
リリナには好きな時に会えるという条件付きで結婚に応じたシューベルトは当然エリスに見向きもせず、エリスは味方の居ない敵国で孤独な結婚生活を送る事になってしまう。
そして、結婚生活から半年程経ったある日、シューベルトとリリナが話をしている場に偶然居合わせ、実はこの結婚が自分を陥れるものだったと知ってしまい、殺されかける。
何とか逃げる事に成功したエリスはひたすら逃げ続け、力尽きて森の中で生き倒れているところを一人の男に助けられた。
その男――ギルバートとの出逢いがエリスの運命を大きく変え、全てを奪われたエリスの幸せを取り戻す為に全面協力を誓うのだけど、そんなギルバートには誰にも言えない秘密があった。
果たして、その秘密とは? そして、エリスとの出逢いは偶然だったのか、それとも……。
これは全てを奪われた姫が辺境地に住む謎の男に溺愛されながら自分を陥れた者たちに復讐をして居場所を取り戻す、成り上がりラブストーリー。
※ ファンタジーは苦手分野なので練習で書いてます。設定等受け入れられない場合はすみません。
※他サイト様にも掲載中。
【R18・BL】人間界の王子様とハーフヴァンパイアが結ばれるまでの話
あかさたな!
BL
このお話は予告なくR指定な内容が含まれています(9割はR指定かもしれません)
このお話は人間界の王子とハーフヴァンパイアのラブストーリー。
執着気味なハーフヴァンパイアの熱烈なアピールに掌の上で転がされていく王子が多いです。
体で繋ぎ止めたいハーフヴァンパイアと結構そういう方面に疎いまじめな王子が色々されていく日常です。
ーーーーー
2022.3タイトル変更します!
(仮)→ 人間界の王子様とハーフヴァンパイアが結ばれるまでの話
2022/03/08 完結いたしました。
最後までお付き合いいただき、大変励みになりました。
ありがとうございます。
これからもこのお話を末長く楽しんでいただけると幸いです。
異世界ゆるり紀行 ~子育てしながら冒険者します~
水無月 静琉
ファンタジー
神様のミスによって命を落とし、転生した茅野巧。様々なスキルを授かり異世界に送られると、そこは魔物が蠢く危険な森の中だった。タクミはその森で双子と思しき幼い男女の子供を発見し、アレン、エレナと名づけて保護する。格闘術で魔物を楽々倒す二人に驚きながらも、街に辿り着いたタクミは生計を立てるために冒険者ギルドに登録。アレンとエレナの成長を見守りながらの、のんびり冒険者生活がスタート!
***この度アルファポリス様から書籍化しました! 詳しくは近況ボードにて!
私を裏切った相手とは関わるつもりはありません
みちこ
ファンタジー
幼なじみに嵌められて処刑された主人公、気が付いたら8年前に戻っていた。
未来を変えるために行動をする
1度裏切った相手とは関わらないように過ごす
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる