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140.覚悟なら決まったよ

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 愛を囁くとは思えない恐ろしい会話なのに、羨ましいと感じました。そう告げるニルスに、僕は笑ってしまう。こんな狂った愛情を受け止められる人なんて、ほとんどいない。

「それが正常だよ。僕のような愛し方は狂ってる。自覚はあるけど、仕方ないよね」

 これが僕なんだから。フォルシウスの皇族は全員おかしい。異常者の血筋だと言い切れるほどに、誰もが狂っていた。父と兄は女狂い、次兄は男同士の恋愛に固執し、他の兄弟も殺人狂ばかり。すべて生まれや育ちのせいにする気はないけど、この血筋を残したいと思ったことはなかった。

 皇族をすべて殺した僕は、自分も結婚せずに子を残さず死ぬつもりでいた。それで皇族の穢れた血は絶える。他の誰が跡を継いでも構わない。フォルシウスの血は、人を惹きつける毒のような存在だった。近づけば死ぬのに、誰もがふらふらと誘われて近づく。権力を握ったことも影響してるだろうけど。

「お覚悟は決まりましたか?」

 執事の顔でしれっと尋ねるニルスに、僕は勝てない。誤魔化すこともしない。心配という本音を瞳に浮かべた乳兄弟に、嘘を返すほど人でなしではないつもりだよ。

「ああ、トリシャは僕の子を産んでくれるよ」

 さきほど言葉にした。さらりと頼んだ風を装って、断られても笑って許す雰囲気を作りながら……手が震えていたんだ。拒まれたら押さえつけて襲っていたかも知れないね。怖がられて泣かれても、発情期の獣のように彼女を抱いただろう。そうならなくて良かった。

「安心した」

 短いけれど、ニルスの素の言葉に息が詰まる。どれだけ心配させたか、ここまで献身してくれる存在を悩ませてきたか。謝るのは間違っている気がして、口元を緩めた。

「ありがとう、ニルス」

 疲れた体をベッドに沈める僕の周りで、無言のニルスはクッションやシーツを直し……顔を上げた。わずかに潤んだ瞳が瞬いて、何もなかったように一礼する。

「ねえ、君はどうするの?」

 ちょっとした意地悪だ。そんな取り澄ました顔で誤魔化そうとするから、突いてみたくなった。口を挟んだり、手を出したりしないつもりだったんだよ? 君が悪いんだ。責任転嫁しながら答えを待つ。

「何のことでございましょう」

 平坦な声で返され「わからないならいいよ」と目を閉じる。耳に届いた小さな溜め息、僕の悪戯を許す時の癖だね。暖かな手のひらが額に触れた。目元を覆われ、絶対に視線が合わない状況で聞こえたのは……。

「俺もエリクを見習ってみるさ」

 幼馴染であり、乳兄弟のニルスとしての口調で、伝わった言葉に唇が弧を描いた。手が離れても瞼を閉じたまま、何も言わない。ゆっくり気配が遠ざかり、ニルスは扉を閉めた。

 くつりと喉が鳴る。

「ニルスだって、十分危険じゃないか」

 僕のことを言えた立場じゃないだろ。ソフィを囲い込む気でいるくせに。喉を震わせて笑い、思いを馳せる。トリシャにいつバラそうかな。
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