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119.準備は互いに着々と
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「今日から数日、ソフィに頼みたい仕事があってね。公爵夫人としての仕事だから、その間はトリシャにも僕の仕事を手伝って欲しいんだ」
常に一緒にいたソフィの不在を気にしないよう、トリシャにも理由を作る。一緒にいることが目的だから、仕事といっても簡単な作業をお願いする予定だ。賢くて真面目なトリシャだから、本当に頼んでも仕上げてくれそうだけどね。
提案にトリシャは素直に頷いてくれた。書類一式をリビングに持ち込み、食事用の丸テーブルを囲む。ニルスは僕に書類を差し出し、署名した書類をトリシャに回す。彼女は押印して、吸い取り紙でインクの滲みを押さえるのが役割だった。
「簡単な作業だけど、信頼できる人じゃないと書類を見せられないからね」
そう理由づけして、トリシャに書類を回す。実際、外部に流出すると面倒な書類ばかり回ってくるから、理由はあながち嘘でもなかった。
「いつでもお手伝いしますわ」
微笑むトリシャに罪悪感が刺激されるけど、仕方ない。危険な囮をソフィが引き受けたなんて知ったら、君は連れ戻そうとするだろう? ヨアキムに君の姿を見せたくない。あの男が企んでいる謀略に君を巻き込むのも御免だった。この点はソフィやニルスも見解が一致している。
書類を片付けながら、時間を確認する。そろそろかな。口元が緩んだ。
「どうしたのですか、エリク」
時間を気にした仕草に、首を傾げたトリシャが尋ねる。こういう敏感なところ、君らしくて好きだよ。こんなに聡いのに、僕に騙されてくれる優しさも含めてね。
「お茶にしようか。ニルス、外の女性騎士も入れてあげて。彼女達も貴族令嬢だから、トリシャと仲良くなった方がいいだろう」
「畏まりました。準備に少しお時間をください」
「着替えは不要だよ」
決めてあった言葉をさりげなく混ぜて合図する。にっこりと笑ったニルスが席を外した。その間に手元の乾いた書類を分類して、トリシャの艶がある髪に手を滑らせた。
「ソフィの手入れはすごいね、こんなにトリシャの髪が輝いてる」
「はい、本当によくしてくれますわ。今朝も椿油を使って丁寧に梳いてもらったんです。手触りも以前より柔らかくなった気がします……っ」
柔らかくなったか、指先じゃ分からないな。身勝手な理由をつけて、一房手にとって唇を押し当てる。驚きで末尾が飛び上がった声に、くすっと笑った。そんなに可愛いと、もっと意地悪してみたくなるよ。
「本当だね」
「は、はい」
真っ赤になった首筋や頬にキスをしようか迷っていると、ニルスが帰ってきた。絶対に外でタイミングを図ってたと思う。そつないと言うか、僕が暴走しないよう邪魔したつもりかな。
「お待たせいたしました。陛下、本日のお茶は赤いハーブティをご用意しております。酸味が強いので、こちらのジャムを添えてどうぞ」
焼き菓子やメレンゲを添えた皿とは別に、ジャムが入った器が用意された。目を輝かせる甘党のトリシャのカップへ、ジャムを一掬い……表情を見ながらもう一匙足す。その様子を微笑ましそうに見つめるニルスの後ろで、女性騎士達は固まっていた。
僕がこんなに甘い顔を見せるのは、トリシャにだけだからね。驚かせたみたいだ。
ヨアキムの方も、順調に進んでるはず。互いに準備した結果を披露する時、どんな顔をするか楽しみだよ。
常に一緒にいたソフィの不在を気にしないよう、トリシャにも理由を作る。一緒にいることが目的だから、仕事といっても簡単な作業をお願いする予定だ。賢くて真面目なトリシャだから、本当に頼んでも仕上げてくれそうだけどね。
提案にトリシャは素直に頷いてくれた。書類一式をリビングに持ち込み、食事用の丸テーブルを囲む。ニルスは僕に書類を差し出し、署名した書類をトリシャに回す。彼女は押印して、吸い取り紙でインクの滲みを押さえるのが役割だった。
「簡単な作業だけど、信頼できる人じゃないと書類を見せられないからね」
そう理由づけして、トリシャに書類を回す。実際、外部に流出すると面倒な書類ばかり回ってくるから、理由はあながち嘘でもなかった。
「いつでもお手伝いしますわ」
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書類を片付けながら、時間を確認する。そろそろかな。口元が緩んだ。
「どうしたのですか、エリク」
時間を気にした仕草に、首を傾げたトリシャが尋ねる。こういう敏感なところ、君らしくて好きだよ。こんなに聡いのに、僕に騙されてくれる優しさも含めてね。
「お茶にしようか。ニルス、外の女性騎士も入れてあげて。彼女達も貴族令嬢だから、トリシャと仲良くなった方がいいだろう」
「畏まりました。準備に少しお時間をください」
「着替えは不要だよ」
決めてあった言葉をさりげなく混ぜて合図する。にっこりと笑ったニルスが席を外した。その間に手元の乾いた書類を分類して、トリシャの艶がある髪に手を滑らせた。
「ソフィの手入れはすごいね、こんなにトリシャの髪が輝いてる」
「はい、本当によくしてくれますわ。今朝も椿油を使って丁寧に梳いてもらったんです。手触りも以前より柔らかくなった気がします……っ」
柔らかくなったか、指先じゃ分からないな。身勝手な理由をつけて、一房手にとって唇を押し当てる。驚きで末尾が飛び上がった声に、くすっと笑った。そんなに可愛いと、もっと意地悪してみたくなるよ。
「本当だね」
「は、はい」
真っ赤になった首筋や頬にキスをしようか迷っていると、ニルスが帰ってきた。絶対に外でタイミングを図ってたと思う。そつないと言うか、僕が暴走しないよう邪魔したつもりかな。
「お待たせいたしました。陛下、本日のお茶は赤いハーブティをご用意しております。酸味が強いので、こちらのジャムを添えてどうぞ」
焼き菓子やメレンゲを添えた皿とは別に、ジャムが入った器が用意された。目を輝かせる甘党のトリシャのカップへ、ジャムを一掬い……表情を見ながらもう一匙足す。その様子を微笑ましそうに見つめるニルスの後ろで、女性騎士達は固まっていた。
僕がこんなに甘い顔を見せるのは、トリシャにだけだからね。驚かせたみたいだ。
ヨアキムの方も、順調に進んでるはず。互いに準備した結果を披露する時、どんな顔をするか楽しみだよ。
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