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109.恋人への贈り物は豪勢に

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 午後のお茶菓子は、トリシャお手製のプディングだった。午前中に用意したようで、午後は本を読んで過ごしたと聞く。他愛ない話をしながら、お茶を楽しんだ。こういう時間、ずっとなかったな。マルグレッドがいた頃は、普通にお茶を楽しんでたけど。

 これからの幸せは、トリシャと築いていく。側近の双子とニルスがいて、トリシャにもソフィがいる。僕達はそれぞれに辛い道を歩いたけど、もう幸せになってもいいはず。

 挨拶に来る隣国の新王が遅れているので、先にお茶を済ませた。呼び寄せた宝石商が並べるのは、どれも一級品の宝石ばかりだ。

「トリシャは何色が好き?」

「青ですわ」

 即答されて、僕の方が照れてしまう。偶然だなんて謙遜はしない。だって僕の目を真っ直ぐに見つめて口にしたんだから。嬉しくて頬が緩んだ。

「僕はトリシャを思い出させる紫が好きだけど、実はね。その瞳の色も好きなんだ。濃い桃色の瞳は薔薇とも違う魅力がある」

 恐れ多いと否定するかと思ったけど、トリシャは真っ赤になった頬を両手で包みながら嬉しそうに笑う。そっか、君も過去を乗り越えたんだっけね。そうやって笑っていてくれるのが、僕の幸せだよ。

 話を聞きながら、老年の宝石商は石を選び出した。鮮やかな赤から薄いピンクまで、綺麗にグラデーションを作る。すぐ脇に青から紫までを並べた。どちらも見事な色と艶だ。大きさは多少ばらつきがあるものの、その美しさは見事だった。

「この辺かしら」

 トリシャがひとつ選ぶ。桃の花に似た深い色だけど、透明感がある一粒だった。自分の顔の脇に掲げて見せる。トリシャの瞳の方が綺麗だけど、色はかなり近いね。

「うん、ほとんど同じ色だね」

「こちらは紅玉に分類しております。硬さもあり、指輪からペンダント、ブローチなど幅広くお使いいただける大きさも確保した逸品です」

 売り込みの文句に頷きながら、購入を決める。金額は後からついてくるもので、皇帝が確認する事項ではない。後ろでニルスが購入の手配を始めた。僕の宝石を選んで欲しいと言ったから、先にトリシャが動いたのかな。僕の先手を取るなんて、優秀だね。

「トリシャには、ここからここまでを……そうだな。青を中心にグラデーションで、紫を通って透明になるまで並べてみてよ」

 僕の瞳の色が青なのは有名だから、宝石商も一際大きな蒼玉を用意している。それを指さし、両側にグラデーションを作るように指示した。頷いた宝石商が、追加の宝石を運ばせて並べ始める。

 中央から左右へ紫になり、薄くなって透明になるまで。後ろは金剛石で纏める形だ。ネックレスだけど、中央の蒼玉をさらに金剛石で囲む形を提案された。うん、商売上手だね。断る理由がないので頷く。

「エリク、あの……」

 値段を想像して怖くなったらしいトリシャだが、人前でお金の話が出来ずに濁す。それをいいことに僕は笑顔で押し切った。

「平気だよ。最愛の皇妃に贈るネックレスだからね。金に糸目はつけないから、最高の品を頼むよ」

 口にして命じた僕に、トリシャは困ったような顔をする。安心して、国が傾くほど浪費するわけじゃないし。君は無理にでも贈らないと自分で買わないから。慎ましさも大切だけど、帝国の女性の頂点に立つ以上、最低限の宝飾品は揃えなくちゃ。

 その後も耳飾りから腕輪、指輪と大量の注文を受けた宝石商は感激して帰っていった。

「買いすぎですわ」

「そんなことないさ。前皇帝の側妃はこの数十倍の宝石を持っていたからね。僕に恥をかかせないよう黙っていてくれてありがとう」

 頬にキスをしてお礼を言うと、ぱくぱくと口を開いたり閉じたりしたトリシャが俯く。真っ赤になったうなじと耳を見ながら、頬と手の甲にキスをして。来客を告げるニルスに頷いて立ち上がった。

「夕食までには戻るからね」
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