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67.誘い出し損ねちゃった
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トリシャに似合いそうな装飾品を幾つか選び、宝物庫を出る。感じる視線を無視して、僕は離宮へ向かった。ここの廊下は先日襲われてから、急ピッチで柱を交換させている。本当ならとっくに終わるはずの工事を、少しだけ時間調整した。
離宮側から着手した工事は中程まで来ている。つまり、襲うなら本宮に近い今しかない。さあ、出てこい……緩みそうな口元を引き締めた。左斜め前にアレス、右斜め後ろにマルスが守りを固める。さらに近衛が3人ほど後ろに従っていた。
「死ねっ!」
ほら来た。待っていた攻撃に反応したのはアレスだ。前方の柱の影から飛び出した男を一閃して斬り捨てる。容赦のない攻撃は、男が持っていた剣ごと分断して肉や骨を断った。
「……っ!」
後ろのマルスが別の敵を見つけて剣を抜く。こういった場面だと僕の許可は必要なかった。彼らにはそれだけの権限を与えてある。先に鞘で攻撃を受けて火花を散らし、抜いた剣を男の胸に突き立てた。見事な対応に感心していると、後ろの近衛が距離を詰めてくる。
「皇帝陛下、ここは危険です」
「……そうだね」
曖昧にぼかして頷く。ここは危険? 僕にとって誰より頼りになる騎士が2人も揃っている場所で、何を言ってるんだろう。ちらりと視線を投げた先で、倒した敵に足を乗せて剣を抜くマルスが瞬きした。
「こちらへ。安全な場所にご案内します」
答えずに後ろについて歩き始めた。双子を僕から引き離す気か。それとも僕を始末する予定地に導こうというのか。どちらにしろ、無駄だけれど。
僕を誘導する近衛は2人だが、そのうち片方は意味が分かっていない様子だ。どこへ行くのかと、仲間に尋ねていた。いや……仲間ではないね。敵だ。
「よしっ! ここが貴様の墓場だ、死ね!」
どうして暴漢というのは同じ台詞を吐くのか。これは決まりでもあるのかな? のんびりとそんなことを思った僕の上に、剣が振り翳される。近づく刃を見ながら、腰にある短剣に触れようともしなかった。
だって失礼だろう? 僕を守る騎士はちゃんといて、彼らの実力を疑っていないのに、僕が武器を持とうとするなんてさ。ニルスが居たら、彼が迎撃したかな。その前に、着いていく行動を窘められて終わりだ。
くすくす笑う僕を庇うように、近衛の1人が鞘を盾に剣の一撃を受けた。直後、駆け抜ける疾風の如き影がひとつ。
「死ぬのはお前だ。我が君に刃を向けた罪を贖え」
吐き捨てたマルスの横薙ぎが、敵となった近衛の腹を引き裂いた。裏切らなかった騎士が攻撃を防いだせいで、振りかぶった剣を持つ彼の胴体はガラ空きだ。飛び散る血と、腹圧で押し出された内臓が足元を濡らす。その様子を僕は顔色ひとつ変えずに見ていた。口元に笑みを浮かべたまま。
「そこの君、今の動きは見事だった。褒美を与えよう。マルス、用意してあげて」
「承知いたしました」
「ありがたき幸せ」
胸に手を当てて一礼する騎士は、仲間の血や臓物で汚れていた。この後の随行はできないため、今日の仕事は終わりでいいと告げる。
渡り廊下に戻りながら、僕は大きく溜め息を吐いた。どうしよう、誘い出し損ねちゃったね。また明日、同じような茶番を繰り返す必要が出てきた。ふと見ると袖に赤い血が飛んでいて、僕はダンスの前にシャツを着替える必要に気づく。さっさと出てくればいいのに。
離宮側から着手した工事は中程まで来ている。つまり、襲うなら本宮に近い今しかない。さあ、出てこい……緩みそうな口元を引き締めた。左斜め前にアレス、右斜め後ろにマルスが守りを固める。さらに近衛が3人ほど後ろに従っていた。
「死ねっ!」
ほら来た。待っていた攻撃に反応したのはアレスだ。前方の柱の影から飛び出した男を一閃して斬り捨てる。容赦のない攻撃は、男が持っていた剣ごと分断して肉や骨を断った。
「……っ!」
後ろのマルスが別の敵を見つけて剣を抜く。こういった場面だと僕の許可は必要なかった。彼らにはそれだけの権限を与えてある。先に鞘で攻撃を受けて火花を散らし、抜いた剣を男の胸に突き立てた。見事な対応に感心していると、後ろの近衛が距離を詰めてくる。
「皇帝陛下、ここは危険です」
「……そうだね」
曖昧にぼかして頷く。ここは危険? 僕にとって誰より頼りになる騎士が2人も揃っている場所で、何を言ってるんだろう。ちらりと視線を投げた先で、倒した敵に足を乗せて剣を抜くマルスが瞬きした。
「こちらへ。安全な場所にご案内します」
答えずに後ろについて歩き始めた。双子を僕から引き離す気か。それとも僕を始末する予定地に導こうというのか。どちらにしろ、無駄だけれど。
僕を誘導する近衛は2人だが、そのうち片方は意味が分かっていない様子だ。どこへ行くのかと、仲間に尋ねていた。いや……仲間ではないね。敵だ。
「よしっ! ここが貴様の墓場だ、死ね!」
どうして暴漢というのは同じ台詞を吐くのか。これは決まりでもあるのかな? のんびりとそんなことを思った僕の上に、剣が振り翳される。近づく刃を見ながら、腰にある短剣に触れようともしなかった。
だって失礼だろう? 僕を守る騎士はちゃんといて、彼らの実力を疑っていないのに、僕が武器を持とうとするなんてさ。ニルスが居たら、彼が迎撃したかな。その前に、着いていく行動を窘められて終わりだ。
くすくす笑う僕を庇うように、近衛の1人が鞘を盾に剣の一撃を受けた。直後、駆け抜ける疾風の如き影がひとつ。
「死ぬのはお前だ。我が君に刃を向けた罪を贖え」
吐き捨てたマルスの横薙ぎが、敵となった近衛の腹を引き裂いた。裏切らなかった騎士が攻撃を防いだせいで、振りかぶった剣を持つ彼の胴体はガラ空きだ。飛び散る血と、腹圧で押し出された内臓が足元を濡らす。その様子を僕は顔色ひとつ変えずに見ていた。口元に笑みを浮かべたまま。
「そこの君、今の動きは見事だった。褒美を与えよう。マルス、用意してあげて」
「承知いたしました」
「ありがたき幸せ」
胸に手を当てて一礼する騎士は、仲間の血や臓物で汚れていた。この後の随行はできないため、今日の仕事は終わりでいいと告げる。
渡り廊下に戻りながら、僕は大きく溜め息を吐いた。どうしよう、誘い出し損ねちゃったね。また明日、同じような茶番を繰り返す必要が出てきた。ふと見ると袖に赤い血が飛んでいて、僕はダンスの前にシャツを着替える必要に気づく。さっさと出てくればいいのに。
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