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48.嫉妬する権利がないわ(SIDEベアトリス)

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*****SIDE ベアトリス



 エリクが告白をしてくれた。至高の地位にいて、どんな女性でも望みのまま手に入る人が……私を? 驚いたけれど、嬉しさがじわじわと広がる。私が魔女と呼ばれた原因のひとつを知っても、あなたは私を隣に置いてくれるのね。

 もうひとつの理由が、あなたの耳に入る日が来ないことを祈るわ。知ってしまったら、あなたは私を嫌悪する。あの人達と同じように、心の底から私を嫌うでしょう。罪を背負って生まれた私は、誰にも愛されないくらい穢れているの。

 幸せに浸れる時間は少しだけ。その時間が終わったら、ソフィを逃がして私はエリクの前に跪きましょう。彼が下す断罪を受けて、この命を散らす覚悟は出来ています。それまで、ほんの一瞬でも長くこの幸せが続きますように……。

 一緒に選んだ青いドレスの見本生地に指先を這わせる。我が侭を言って、半分ほど手元に残してもらった。ハンカチにするには小さい絹の切れ端は、艶があってとても美しい。膝の上に置いて、何度も撫でる。あの人が私のために選び、似合うと言ってくれた色。光の加減で紫が映り込むのは、この髪色と同じね。

「さきほどの方、どなたかしら。お綺麗な人だったわね」

 見送りに立つのは告白を受けてからの習慣になりつつある。今日もエリクが本宮へ仕事へ向かう姿に手を振った。いつもなら彼に話しかける人はニルスくらい。なのに、知らない女性が近づいて話しかけた。皇帝陛下であるエリクに話しかけるなら、きっと地位の高い女性だろう。

 親し気に何か話しかけた後、上を向いて微笑んだエリクの横で私を睨む。まさか……エリクには定められた婚約者でもいたのかしら。いえ、いない方がおかしいわ。だって巨大なフォルシウス帝国を支える、唯一の直系ですもの。

 家柄や外見はもちろん、性格まで考慮された完璧な婚約者がいて当たり前よ。私、もしかして婚約者の女性を退けた悪女じゃないかしら。エリクを譲れと言われたら、どう答えれば? もちろん、嫌よ。でも私のような魔女が、彼を独り占めに出来る筈がない。

 睨んだ彼女を、エリクは咎めなかった。気づかなかっただけ? それとも……彼女は無礼が許されるほど地位が高く、エリクに近しい女性? 青ざめていく唇が震えた。

「ご不安なら、皇帝陛下に尋ねられてはいかがでしょうか」

 ソフィは簡単そうにそう告げる。そうね、分かっているわ。外から見れば、私はエリクに寵愛される妃候補でしょう。でも一夏の蝶に過ぎないの。尋ねて「正妃はあの子にする」と言われたら、私がただの愛妾で……いずれ捨てられるのなら、身を引くのは私の方だわ。

 嫉妬する権利なんて、私にはないの。

「……そうね」

 ソフィを心配させないために、ぎこちなく微笑む。目を伏せて気持ちを落ち着かせたのに、指先に触れる青い絹に気づいたら動揺してしまった。あの人が私に贈ってくれるドレス……受け取るまで、身に着けるまでこの離宮にいられなかったら。

 不安より、悔しく泣きたくなる。居場所がなくなるのも怖いけれど、エリクに「要らない」と言われることが何より恐ろしかった。捨てるくらいならいっそ――この命を奪って。
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