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46.騒動の種は芽吹くか

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 ドレスの手配をして、お飾りを決めて。靴を新調させた。用意した靴は彼女の足に少し合わなくて、美しい足に傷が出来てしまったんだ。僕が立ち合いの下で、女性の店員にサイズ計測をさせた。緊張して何度か間違えてたけど、ちゃんと寸法通りに靴を仕立てて来るだろう。

 トリシャのために女性の職人や店員を選んで取り立てた影響で、少しずつ女性が女性のための店を作り始めたという。僕にとっては経済が活性化するし、有能な女性の発掘に役立つから支援した方がいいね。新しい宰相に指示して、改革の後押しをするよう命じた。

 こういう命令は、先に僕の言葉が走ってから書類の形で戻ってくる。具体的な策を並べられた紙に目を通し、問題がなければ承認のサインを行う。だがよほどの愚策が載っていない限り、そのまま通ることが多かった。文官は家柄ではなく実力で選ばれるため、試験も複雑だ。有能な者が自然と目指す出世のルートだった。

「我が国の王女がぜひお会いしたいと」

「会ってどうするの」

 離宮から戻る道で顔を合わせたのは、隣国の使者だ。属国とはいえ、ここまで入り込んだ手腕を見る限り無能ではないらしい。しかし、彼の上司である国王は無能だった。僕が婚約者を正式に定める――そう聞いて欲が出たんだろう?

 より美しい娘を献上できれば、婚約者の交代があり得る、とか。馬鹿だね、その程度で覆るわけがないし、僕はトリシャだから婚約するんだ。隣国の王女の情報なんて調べるまでもなく聞こえてくるけど、興味を抱かなかった。これが事実上の答えなんだ。

 気になれば僕は自分で動く。それは女性であっても、目新しい国や発明であっても同じだ。そして情報が入ってくる隣国の王女にまったく食指が動かないなら、それは興味の対象外という意味。押し付けようとしても放置して踏みつけにするだけ。

「一度お会いしていただければ」

 お前の面目が立つってわけか。恩を売って、この使者を帝国に取り込むのも悪くない。どうやら宮殿内に入り込んで、僕の歩くルートを探し当てる程度には能力が高いみたいだし。アレスに目配せすると、彼はしっかり頷いた。これでスカウトの手配は整ったね。

 少しでも能力が高い者は使えるから取り込む。邪魔になるなら切り捨てる。ただそれだけの事で、僕の心はまったく動かない。だから有能な皇帝陛下でいられるんだ。感情で他人を判断してたら、目が曇るし足元を掬われる未来しかないからね。

 曖昧な態度で断らなければ、彼は勝手に動くだろう。予想を裏切らず、使者は「断られなかった」旨だけを自国へ伝えた。国王は大喜びで王女を出立させた。詳しい内容はニルスや双子が承知していればいい。僕は……新たに撒いた騒動の種にわずかな期待を寄せる。

 ねえ、トリシャ。君は誰かに嫉妬したことがある? 願わくば、僕に関する嫉妬が初めてであるように。君を傷つける者は僕が排除するけど、僕は君の初めてでありたい。嫉妬の感情も、愛する喜びも、愛される痛みも。すべて僕のために感じて。

 愛してるよ、トリシャ。だけど君は……本当に可哀想だ。僕みたいな男に愛されたのだから。
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