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第5章 魔女は裏切りの花束を好む
5-9.策略はどちらも好む手段だから
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「ちっ、先に行け」
「後は任せた!」
ショーンの叫びに応じたウィリアムは、黒馬の腹に合図を入れた。軽い蹴りに反応したリアンが全力で走る。その先に槍を構えた敵を見つけたが速度は落とさない。黒い鎧を纏ったリアムが疾風のごとき速さで抜けると、槍を叩き折られた敵が転がっていた。
「どけ、邪魔をすれば容赦しない」
立ちはだかる敵を打ち払いながら走らせる。主の心境を知っているのか、リアンは止まらずに走り……やがて戦場を抜け出た。
戦の先端を開いてすぐに違和感を覚えた。敵の数と包囲の陣形がおかしい。最初は数を揃え損ねたのかと考えるが、誘いこむ動きと裏腹に中央の布陣が厚かった。まるで誘った敵を放すまいとするような粘着質の意思が感じられる陣形だ。
直後に駆けつけた使者の報告に、ショーンもウィリアムも耳を疑った。背後でエイデンの守る城が、攻撃を受けているというのだ。
ラシエラの会戦で半日ほど姿を見せてから引き返す予定だったが、ウィリアムより早く敵が動いた。エイデンの部隊を配置したことで、最悪の事態は免れている。しかし事態は、一刻の猶予も許されない緊迫したものだった。
首都を見下ろす小高い山肌に城は建てられている。つまり後ろに山脈を背負った地形は、山脈の裏側にあるオズボーンに近いという欠点があった。普段ならば城下町より高い城は山砦と同じで攻略しづらい地形だが、後ろの山から攻められた場合は長所と短所が反転する。
見落としたわけじゃない。だが、ここまで早くオズボーンが動けるはずがないと侮っていた。
「リアン、悪いが頑張ってくれ」
距離にして2時間ほどが、ひどく遠く感じる。ぶるると首を振って嘶いたリアンは、漆黒のボディを全力で走らせ続けた。上に乗せた主の焦燥感を感じているように、足を止めることはない。
「間に合ってくれ」
やがて城の姿が見えたとき……美しい塔の一部は炎に包まれていた。
愛用の剣を引き抜きながら、エイデンは乾いた唇を舌で舐める。
「陛下、後ろにお下がりください」
「俺は国王だ」
玉座の上で、大きめの王冠を頭に載せながらが切り替えした。この玉座を譲れば、命は助かるかもしれない。ウィリアムにもう一度会えるなら、這い蹲って命乞いする姿を嘲笑されても後悔しないだろう。
しかし……そんな俺をみたウィルは哀しむ。生き残ったことを喜んでくれる半面で、間に合わなかった己を責めて苦しむ奴だ。だから笑って玉座に残る。
絶対にウィリアムは間に合う。彼が来るまで、この玉座を守るのが国王としての役目であり、信頼の証だとエリヤは笑った。その表情に悲壮感は欠片もない。
「わかりました、絶対に僕が守る!」
公的は「私」と一人称を偽るエイデンだが、本来の口調が顔を覗かせていた。剣の扱いでは国内でも3本の指に入る実力者だ。半月刀を操るショーンと互角に戦うエイデンは、金髪を後ろでひとつに結んだ。
普段は静かな謁見の間に、遠くから響く剣戟の音が届く。そして足音が響き――重い扉が開かれた。
「後は任せた!」
ショーンの叫びに応じたウィリアムは、黒馬の腹に合図を入れた。軽い蹴りに反応したリアンが全力で走る。その先に槍を構えた敵を見つけたが速度は落とさない。黒い鎧を纏ったリアムが疾風のごとき速さで抜けると、槍を叩き折られた敵が転がっていた。
「どけ、邪魔をすれば容赦しない」
立ちはだかる敵を打ち払いながら走らせる。主の心境を知っているのか、リアンは止まらずに走り……やがて戦場を抜け出た。
戦の先端を開いてすぐに違和感を覚えた。敵の数と包囲の陣形がおかしい。最初は数を揃え損ねたのかと考えるが、誘いこむ動きと裏腹に中央の布陣が厚かった。まるで誘った敵を放すまいとするような粘着質の意思が感じられる陣形だ。
直後に駆けつけた使者の報告に、ショーンもウィリアムも耳を疑った。背後でエイデンの守る城が、攻撃を受けているというのだ。
ラシエラの会戦で半日ほど姿を見せてから引き返す予定だったが、ウィリアムより早く敵が動いた。エイデンの部隊を配置したことで、最悪の事態は免れている。しかし事態は、一刻の猶予も許されない緊迫したものだった。
首都を見下ろす小高い山肌に城は建てられている。つまり後ろに山脈を背負った地形は、山脈の裏側にあるオズボーンに近いという欠点があった。普段ならば城下町より高い城は山砦と同じで攻略しづらい地形だが、後ろの山から攻められた場合は長所と短所が反転する。
見落としたわけじゃない。だが、ここまで早くオズボーンが動けるはずがないと侮っていた。
「リアン、悪いが頑張ってくれ」
距離にして2時間ほどが、ひどく遠く感じる。ぶるると首を振って嘶いたリアンは、漆黒のボディを全力で走らせ続けた。上に乗せた主の焦燥感を感じているように、足を止めることはない。
「間に合ってくれ」
やがて城の姿が見えたとき……美しい塔の一部は炎に包まれていた。
愛用の剣を引き抜きながら、エイデンは乾いた唇を舌で舐める。
「陛下、後ろにお下がりください」
「俺は国王だ」
玉座の上で、大きめの王冠を頭に載せながらが切り替えした。この玉座を譲れば、命は助かるかもしれない。ウィリアムにもう一度会えるなら、這い蹲って命乞いする姿を嘲笑されても後悔しないだろう。
しかし……そんな俺をみたウィルは哀しむ。生き残ったことを喜んでくれる半面で、間に合わなかった己を責めて苦しむ奴だ。だから笑って玉座に残る。
絶対にウィリアムは間に合う。彼が来るまで、この玉座を守るのが国王としての役目であり、信頼の証だとエリヤは笑った。その表情に悲壮感は欠片もない。
「わかりました、絶対に僕が守る!」
公的は「私」と一人称を偽るエイデンだが、本来の口調が顔を覗かせていた。剣の扱いでは国内でも3本の指に入る実力者だ。半月刀を操るショーンと互角に戦うエイデンは、金髪を後ろでひとつに結んだ。
普段は静かな謁見の間に、遠くから響く剣戟の音が届く。そして足音が響き――重い扉が開かれた。
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