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第5章 魔女は裏切りの花束を好む
5-7.甘やかしすぎても
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エリヤを膝の上に乗せて黒髪を撫でる。不満そうに尖らせた唇は見えなくても想像できてしまい、ウィリアムは頬を緩ませた。
国王の私室でなければ、不敬罪に問われかねない体勢だった。普段は子供扱いするなと騒ぐエリヤだが、今日は大人しく腕の中に収まっている。その頬が多少膨らんでいても。
「だからね、オレが一度出陣する。途中で近衛をおいてオレは引き返すから、少しだけ我慢して欲しい。その間はエイデンが警護してくれるし、ラシエラを叩く役はショーンに頼んだから」
「……やだ」
国王として納得してくれたのだが、ずっとこんな調子で駄々を捏ねている。ショーンやエイデンへの指示書には印を押してくれたしサインももらえた。しかし感情が納得していないのだ。
それが可愛くてしかたないウィリアムは、膝の上に乗せて懐柔を試みていた。もちろん、半分はいちゃつくだけのスキンシップだ。
「大急ぎで帰るからさ。ね?」
横から腕の中の宝を覗き込むと、赤く染まった頬をぷいっと逸らしてしまう。まだ足りないらしい。黒髪の間にのぞく旋毛に唇を押し当て、続いて顳や頬にキスを落とした。
「お願い」
耳に囁いて、耳たぶを口で挟んだ。嚙むというより、唇で挟んだ耳たぶをもぐもぐ食んでみる。普段はしない動きが擽ったくて、エリヤが肩を竦めて身を捩った。
「こ、こら」
「オレはエリヤに笑顔で見送って欲しいし、帰ってきたときに褒めて欲しい」
要望を口にすれば、陥落はあとわずか。堅固な砦だったエリヤの心は、かなり傾いていた。その証拠に、上目遣いの蒼い瞳がこちらを窺っている。
「帰って?」
戻ってではなく、帰ってくる。その単語に秘めた意味にエリヤは気付いていた。帰るべき場所はエリヤの隣だと、ウィリアムは断言しているのだ。
ソファの上でエリヤを膝に乗せ、その温もりを閉じ込めながら贅沢な時間に酔う。わずかに身体を左右に揺すりながら、エリヤの頬にキスをした。やっと顔を見せてくれた愛しい人の赤い唇が、誘うように薄く開かれる。
「キス、していい?」
「聞くな」
即答したエリヤの唇を、そのまま吐息ごと奪った。重ねていつもより深く舌を絡めて離れる。ぎゅっと腕に力を入れて抱き締めた。
「無傷で帰れ、傷つけることは許さない」
「陛下じゃなく、エリヤの命令?」
「……そうだ」
目の縁を少し赤く染めたエリヤの言葉が嬉しくて、目元や顳に唇を押し当てた。そのたびに腕の中の恋人が肩を揺らす。何度経験しても慣れない仕草が可愛かった。
「うん、エリヤのために無傷で帰る」
「なら……少しだけ我慢してやる」
ラシエラ国からの宣戦布告が届いたのは今朝早くだった。かの国の後ろにオズボーンがいるのは間違いない。ラシエラ単独で戦を仕掛けるだけの戦力も物資も足りていないのだから。
オズボーンはラシエラを餌にしてぶつけ、疲弊したところを横から突くつもりだ。ここまでの戦略の読みはショーンとウィリアムの間で一致していた。そして、オズボーンは王族を直接狙うだろうという見解も。
ウィリアムが出陣して国王の傍を離れなければ、オズボーンは動かない。今回の戦でオズボーンを徹底的に叩くつもりのシュミレ国首脳陣としては、ウィリアムを囮にする方法が一番効率的だった。囮に呼び寄せられたラシエラを傭兵を運用するショーンが潰し、主力部隊をエイデンに預けて城で待ち構える。
ウィリアムは囮を終えた時点で引き返し、エイデンと合流して国王の騎士の役目を果たせばいい。オズボーン内も一枚岩ではなく、戦争を嫌い国内整備を掲げる一派も存在した。穏健な彼らを焚き付けて、国内の統一に手を貸す。
策略は宮廷の華――魔女の采配はすでに揮われていた。
国王の私室でなければ、不敬罪に問われかねない体勢だった。普段は子供扱いするなと騒ぐエリヤだが、今日は大人しく腕の中に収まっている。その頬が多少膨らんでいても。
「だからね、オレが一度出陣する。途中で近衛をおいてオレは引き返すから、少しだけ我慢して欲しい。その間はエイデンが警護してくれるし、ラシエラを叩く役はショーンに頼んだから」
「……やだ」
国王として納得してくれたのだが、ずっとこんな調子で駄々を捏ねている。ショーンやエイデンへの指示書には印を押してくれたしサインももらえた。しかし感情が納得していないのだ。
それが可愛くてしかたないウィリアムは、膝の上に乗せて懐柔を試みていた。もちろん、半分はいちゃつくだけのスキンシップだ。
「大急ぎで帰るからさ。ね?」
横から腕の中の宝を覗き込むと、赤く染まった頬をぷいっと逸らしてしまう。まだ足りないらしい。黒髪の間にのぞく旋毛に唇を押し当て、続いて顳や頬にキスを落とした。
「お願い」
耳に囁いて、耳たぶを口で挟んだ。嚙むというより、唇で挟んだ耳たぶをもぐもぐ食んでみる。普段はしない動きが擽ったくて、エリヤが肩を竦めて身を捩った。
「こ、こら」
「オレはエリヤに笑顔で見送って欲しいし、帰ってきたときに褒めて欲しい」
要望を口にすれば、陥落はあとわずか。堅固な砦だったエリヤの心は、かなり傾いていた。その証拠に、上目遣いの蒼い瞳がこちらを窺っている。
「帰って?」
戻ってではなく、帰ってくる。その単語に秘めた意味にエリヤは気付いていた。帰るべき場所はエリヤの隣だと、ウィリアムは断言しているのだ。
ソファの上でエリヤを膝に乗せ、その温もりを閉じ込めながら贅沢な時間に酔う。わずかに身体を左右に揺すりながら、エリヤの頬にキスをした。やっと顔を見せてくれた愛しい人の赤い唇が、誘うように薄く開かれる。
「キス、していい?」
「聞くな」
即答したエリヤの唇を、そのまま吐息ごと奪った。重ねていつもより深く舌を絡めて離れる。ぎゅっと腕に力を入れて抱き締めた。
「無傷で帰れ、傷つけることは許さない」
「陛下じゃなく、エリヤの命令?」
「……そうだ」
目の縁を少し赤く染めたエリヤの言葉が嬉しくて、目元や顳に唇を押し当てた。そのたびに腕の中の恋人が肩を揺らす。何度経験しても慣れない仕草が可愛かった。
「うん、エリヤのために無傷で帰る」
「なら……少しだけ我慢してやる」
ラシエラ国からの宣戦布告が届いたのは今朝早くだった。かの国の後ろにオズボーンがいるのは間違いない。ラシエラ単独で戦を仕掛けるだけの戦力も物資も足りていないのだから。
オズボーンはラシエラを餌にしてぶつけ、疲弊したところを横から突くつもりだ。ここまでの戦略の読みはショーンとウィリアムの間で一致していた。そして、オズボーンは王族を直接狙うだろうという見解も。
ウィリアムが出陣して国王の傍を離れなければ、オズボーンは動かない。今回の戦でオズボーンを徹底的に叩くつもりのシュミレ国首脳陣としては、ウィリアムを囮にする方法が一番効率的だった。囮に呼び寄せられたラシエラを傭兵を運用するショーンが潰し、主力部隊をエイデンに預けて城で待ち構える。
ウィリアムは囮を終えた時点で引き返し、エイデンと合流して国王の騎士の役目を果たせばいい。オズボーン内も一枚岩ではなく、戦争を嫌い国内整備を掲げる一派も存在した。穏健な彼らを焚き付けて、国内の統一に手を貸す。
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