78 / 79
外伝
外伝2−2.名前はもう決めているの
しおりを挟む
意識が遠ざかるように眠った私は、そのまま我が子を離さなかったらしい。取り上げるのを諦めて、寝かせておいてくれた。目が覚めると腕が痺れていて、その重さに笑みが溢れる。
「随分と良く眠っていたね。抱き上げようとしたけど、ルナが離さなかったんだ」
そう笑う夫に、まだ首が据わらない娘を託した。意外なことに、カスト様は赤子の扱いに慣れているみたい。すっと首を支えて抱き上げ、用意されたベビーベッドへ横たえた。このベッドは、カスト様のお義父様にいただいたの。
ピザーヌ伯爵家のお義父様よ。カスト様はロレッツィ侯爵家に養子入りしたから、そちらのお義父様もいる。プレゼントの話を聞いて、出遅れたと悔しそうにしておられたけど……次の日にはベビーメリーを下さったわ。
生まれて男女の区別をつけないと、服や装飾品のプレゼントは難しいから。まだ用意したものは少ない。小さな体を包む白いベビー服はお母様のお手製よ。お父様は乳母の手配をしてくださったし。
何も足りない物がないわ。お母様は産後に着用する服も、私のために用意してくれたと聞いています。自ら授乳して育てたいと申し出たので、そのせいかしら。
「名前は決まりましたか?」
「いいや。君がいないのに決めるわけないだろう? 候補が出尽くしたところで会議終了だ。ちなみに候補は45個もあるから、絞るのに骨が折れそうさ」
「まぁ! そんなに?」
見せていただいた候補はどれも素敵な名前だけれど、実はもう選んでいるの。ルーナアリア――可愛い女の子が産まれたら、つけたい名前よ。前王妃のリーディア様が呟いたことがあった。いつか私が姫を産んだら、その名前を頂こうと考えていたの。
偶然にも今回の45個の候補の中に含まれていて、私は何くわぬ顔でその名前を口にした。
「ルーナアリア、可愛いわね。この子に似合うわ」
「いいと思うよ、僕らの娘はルーナアリアに決まりだ」
カスト様は頷き、お父様達に報告へ向かう。侍女に頼んで娘をもう一度抱かせてもらった。抱き締めた娘ルーナアリアへ、そっと囁く。
「会えないけど、あなたには大切に思ってくれるお祖母様がまだいるの。ルーナアリアの名をくださったあの方のように、素敵な女性に育って欲しいわ」
囁いて抱き締める。まだ柔らかい娘は、すやすやと穏やかな寝息を立てていた。この子は、新たなシモーニ公爵家の象徴だわ。王家を支える柱となる家の娘、だからこそ幸せになって欲しい。
「愛してるわ、ルーナアリア。あなたは幸せになるために生まれてきたのよ」
薄ら開いた紫の瞳がとろんと歪んで、また瞼の下に隠れてしまう。この子のためなら、何でもしたい。何でも出来る。そう強く思った。
「随分と良く眠っていたね。抱き上げようとしたけど、ルナが離さなかったんだ」
そう笑う夫に、まだ首が据わらない娘を託した。意外なことに、カスト様は赤子の扱いに慣れているみたい。すっと首を支えて抱き上げ、用意されたベビーベッドへ横たえた。このベッドは、カスト様のお義父様にいただいたの。
ピザーヌ伯爵家のお義父様よ。カスト様はロレッツィ侯爵家に養子入りしたから、そちらのお義父様もいる。プレゼントの話を聞いて、出遅れたと悔しそうにしておられたけど……次の日にはベビーメリーを下さったわ。
生まれて男女の区別をつけないと、服や装飾品のプレゼントは難しいから。まだ用意したものは少ない。小さな体を包む白いベビー服はお母様のお手製よ。お父様は乳母の手配をしてくださったし。
何も足りない物がないわ。お母様は産後に着用する服も、私のために用意してくれたと聞いています。自ら授乳して育てたいと申し出たので、そのせいかしら。
「名前は決まりましたか?」
「いいや。君がいないのに決めるわけないだろう? 候補が出尽くしたところで会議終了だ。ちなみに候補は45個もあるから、絞るのに骨が折れそうさ」
「まぁ! そんなに?」
見せていただいた候補はどれも素敵な名前だけれど、実はもう選んでいるの。ルーナアリア――可愛い女の子が産まれたら、つけたい名前よ。前王妃のリーディア様が呟いたことがあった。いつか私が姫を産んだら、その名前を頂こうと考えていたの。
偶然にも今回の45個の候補の中に含まれていて、私は何くわぬ顔でその名前を口にした。
「ルーナアリア、可愛いわね。この子に似合うわ」
「いいと思うよ、僕らの娘はルーナアリアに決まりだ」
カスト様は頷き、お父様達に報告へ向かう。侍女に頼んで娘をもう一度抱かせてもらった。抱き締めた娘ルーナアリアへ、そっと囁く。
「会えないけど、あなたには大切に思ってくれるお祖母様がまだいるの。ルーナアリアの名をくださったあの方のように、素敵な女性に育って欲しいわ」
囁いて抱き締める。まだ柔らかい娘は、すやすやと穏やかな寝息を立てていた。この子は、新たなシモーニ公爵家の象徴だわ。王家を支える柱となる家の娘、だからこそ幸せになって欲しい。
「愛してるわ、ルーナアリア。あなたは幸せになるために生まれてきたのよ」
薄ら開いた紫の瞳がとろんと歪んで、また瞼の下に隠れてしまう。この子のためなら、何でもしたい。何でも出来る。そう強く思った。
39
お気に入りに追加
5,335
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢の腰巾着で婚約者に捨てられ断罪される役柄だと聞いたのですが、覚悟していた状況と随分違います。
夏笆(なつは)
恋愛
「ローズマリー、大変なの!わたくしは悪役令嬢で、あなたはその取り巻き。そして、わたくしたち断罪されてしまうのよ!」
ある日、親友の公爵令嬢リリーにそう言われた侯爵令嬢ローズマリーは、自分達が婚約破棄されたうえに断罪されるゲームの登場人物だと説明される。
婚約破棄はともかく、断罪は家の為にも避けなければ。
そう覚悟を決めたローズマリーだったが、物語のヒロインに見向きもしない婚約者にやたらと甘やかされ、かまわれて、もしかして違う覚悟が必要だったのでは、と首を傾げることになる。
このお話は、自分が悪役令嬢の腰巾着の役どころだと思っていた侯爵令嬢ローズマリーが、自身の婚約者に依ってゲームのストーリーの主人公のような扱いを受ける、溺愛ラブコメです。
小説家になろうに掲載しているもの(100話まで)を、加筆修正しています。
なんでも思い通りにしないと気が済まない妹から逃げ出したい
木崎優
恋愛
「君には大変申し訳なく思っている」
私の婚約者はそう言って、心苦しそうに顔を歪めた。「私が悪いの」と言いながら瞳を潤ませている、私の妹アニエスの肩を抱きながら。
アニエスはいつだって私の前に立ちはだかった。
これまで何ひとつとして、私の思い通りになったことはない。すべてアニエスが決めて、両親はアニエスが言うことならと頷いた。
だからきっと、この婚約者の入れ替えも両親は快諾するのだろう。アニエスが決めたのなら間違いないからと。
もういい加減、妹から離れたい。
そう思った私は、魔術師の弟子ノエルに結婚を前提としたお付き合いを申し込んだ。互いに利のある契約として。
だけど弟子だと思ってたその人は実は魔術師で、しかも私を好きだったらしい。
番?呪いの別名でしょうか?私には不要ですわ
紅子
恋愛
私は充分に幸せだったの。私はあなたの幸せをずっと祈っていたのに、あなたは幸せではなかったというの?もしそうだとしても、あなたと私の縁は、あのとき終わっているのよ。あなたのエゴにいつまで私を縛り付けるつもりですか?
何の因果か私は10歳~のときを何度も何度も繰り返す。いつ終わるとも知れない死に戻りの中で、あなたへの想いは消えてなくなった。あなたとの出会いは最早恐怖でしかない。終わらない生に疲れ果てた私を救ってくれたのは、あの時、私を救ってくれたあの人だった。
12話完結済み。毎日00:00に更新予定です。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
お姉さまに婚約者を奪われたけど、私は辺境伯と結ばれた~無知なお姉さまは辺境伯の地位の高さを知らない~
マルローネ
恋愛
サイドル王国の子爵家の次女であるテレーズは、長女のマリアに婚約者のラゴウ伯爵を奪われた。
その後、テレーズは辺境伯カインとの婚約が成立するが、マリアやラゴウは所詮は地方領主だとしてバカにし続ける。
しかし、無知な彼らは知らなかったのだ。西の国境線を領地としている辺境伯カインの地位の高さを……。
貴族としての基本的な知識が不足している二人にテレーズは失笑するのだった。
そしてその無知さは取り返しのつかない事態を招くことになる──。
殿下が恋をしたいと言うのでさせてみる事にしました。婚約者候補からは外れますね
さこの
恋愛
恋がしたい。
ウィルフレッド殿下が言った…
それではどうぞ、美しい恋をしてください。
婚約者候補から外れるようにと同じく婚約者候補のマドレーヌ様が話をつけてくださりました!
話の視点が回毎に変わることがあります。
緩い設定です。二十話程です。
本編+番外編の別視点
魅了魔法は使えません!~好きな人は「魅了持ち」の私を監視してただけみたいです~
山科ひさき
恋愛
「あなたの指示さえなければ近づきもしませんよ」「どこに好意を抱く要素があるというんです?」
他者を自分の虜にし、意のままに操ることさえできる強力な力、魅了魔法。アリシアはその力を身に宿した「魅了持ち」として生まれ、周囲からの偏見にさらされながら生きてきた。
「魅了持ち」の自分に恋愛などできるはずがないと諦めていた彼女だったが、魔法学園に入学し、一人の男子生徒と恋に落ちる。
しかし、彼が学園の理事長から彼女の監視を命じられていたことを知ってしまい……。
私のことを追い出したいらしいので、お望み通り出て行って差し上げますわ
榎夜
恋愛
私の婚約も勉強も、常に邪魔をしてくるおバカさんたちにはもうウンザリですの!
私は私で好き勝手やらせてもらうので、そちらもどうぞ自滅してくださいませ。
【完結】婚約破棄はしたいけれど傍にいてほしいなんて言われましても、私は貴方の母親ではありません
すだもみぢ
恋愛
「彼女は私のことを好きなんだって。だから君とは婚約解消しようと思う」
他の女性に言い寄られて舞い上がり、10年続いた婚約を一方的に解消してきた王太子。
今まで婚約者だと思うからこそ、彼のフォローもアドバイスもしていたけれど、まだそれを当たり前のように求めてくる彼に驚けば。
「君とは結婚しないけれど、ずっと私の側にいて助けてくれるんだろう?」
貴方は私を母親だとでも思っているのでしょうか。正直気持ち悪いんですけれど。
王妃様も「あの子のためを思って我慢して」としか言わないし。
あんな男となんてもう結婚したくないから我慢するのも嫌だし、非難されるのもイヤ。なんとかうまいこと立ち回って幸せになるんだから!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる