72 / 79
72.この夜会は大成功ですね
しおりを挟む
旧王家と揉めたことで立場をなくした伯爵家の方に、手を差し伸べたことがありました。間に入って取りなし、何事もなく終わった。その件にお礼をいただきました。高価な物は受け取れないと言いましたら、美しい花束を……とても良い香りですわ。
「ありがとうございます。部屋に飾らせていただきますわ」
微笑んだ私に、ナターリ伯爵夫人は優雅に一礼して言い添えました。
「今後も定期的に、王女殿下のお部屋を飾る花を届けることをお許しください」
「定期的に、ですか?」
「ええ、王女殿下が公爵閣下になられても……ずっとです。夫ナターリ伯爵は、香水の事業を手がけております。ですが身に付ける香りは好みがありますので、花にするよう私が進言しましたの」
ほほっと笑う奥様はころんと丸い頬を赤く染めて、幸せそうに語ります。こんな夫婦、素敵ですね。私は丁寧にお礼を言い、無理をしないようお願いしました。どんなに裕福な家でも、豊かな領地でも、荒天による不作や不幸は訪れます。そのような時は、自分達を優先すること。これを約束してくださるなら、お花は嬉しく受け取りますわ。
その次は、災害時に助けられたと数人の殿方が来られました。侯爵から男爵まで。さまざまな階級の当主ばかりです。数年前に起きた地滑りによる災害と、その周辺の領地への物流が滞る問題がありました。覚えています。その時に助けられたと、各地の名産品を持ち寄ってくれました。
見事な木彫りの花瓶、領地で収穫した葡萄のワイン、丹精込めて育てた野菜、珍しい果物。奥様が作られた焼き菓子に至るまで、種類や量は様々ですが、すべて嬉しく思いました。
人に向けた好意が、このような形で返ってくるなんて。夜会は顔見せの場ですが、私はお礼を言われる場になっていました。お陰で、皆様と順番に話すことが出来ています。夜会は大成功ですね。
「私の婚約者は人気者だな」
公的な口調で微笑むカスト様が、私の腰に手を回して抱き寄せました。人前ですが、婚約者なので問題ありませんね。嫉妬されたようで嬉しく感じます。カスト様へ向けられる女性の視線を遮りたくて、私もカスト様にしなだれ掛かりました。
「君は気づかないだろうね。麗しの王女殿下を見つめる令息達の視線が、痛いくらいだ」
嫉妬の眼差しが、カスト様へ? ふふっ、そんな嬉しがらせを仰るなんて可愛い人です。私に見惚れる殿方は、カスト様と……そうですね。家族や親族だけですわ。お父様、弟ダヴィード、アロルド伯父様くらい? そう返したら、大きな溜め息を吐いて、困ったような顔をされてしまいました。
「知らぬは当人ばかりなり……本当にその通りだ」
ええ、本当にその通りですわ。素敵なカスト様に見惚れるご令嬢方の視線に、カスト様だけが気づかないんですもの。普段はとても鋭い方ですのに……そんなところも大好きですわ。
深夜になって解散が告げられるまで、夜会の広間は賑わっておりました。あの婚約破棄があった夜会が嘘のよう。居心地良い人々の間で、私はいつも以上に微笑みを絶やさず過ごせました。
「ありがとうございます。部屋に飾らせていただきますわ」
微笑んだ私に、ナターリ伯爵夫人は優雅に一礼して言い添えました。
「今後も定期的に、王女殿下のお部屋を飾る花を届けることをお許しください」
「定期的に、ですか?」
「ええ、王女殿下が公爵閣下になられても……ずっとです。夫ナターリ伯爵は、香水の事業を手がけております。ですが身に付ける香りは好みがありますので、花にするよう私が進言しましたの」
ほほっと笑う奥様はころんと丸い頬を赤く染めて、幸せそうに語ります。こんな夫婦、素敵ですね。私は丁寧にお礼を言い、無理をしないようお願いしました。どんなに裕福な家でも、豊かな領地でも、荒天による不作や不幸は訪れます。そのような時は、自分達を優先すること。これを約束してくださるなら、お花は嬉しく受け取りますわ。
その次は、災害時に助けられたと数人の殿方が来られました。侯爵から男爵まで。さまざまな階級の当主ばかりです。数年前に起きた地滑りによる災害と、その周辺の領地への物流が滞る問題がありました。覚えています。その時に助けられたと、各地の名産品を持ち寄ってくれました。
見事な木彫りの花瓶、領地で収穫した葡萄のワイン、丹精込めて育てた野菜、珍しい果物。奥様が作られた焼き菓子に至るまで、種類や量は様々ですが、すべて嬉しく思いました。
人に向けた好意が、このような形で返ってくるなんて。夜会は顔見せの場ですが、私はお礼を言われる場になっていました。お陰で、皆様と順番に話すことが出来ています。夜会は大成功ですね。
「私の婚約者は人気者だな」
公的な口調で微笑むカスト様が、私の腰に手を回して抱き寄せました。人前ですが、婚約者なので問題ありませんね。嫉妬されたようで嬉しく感じます。カスト様へ向けられる女性の視線を遮りたくて、私もカスト様にしなだれ掛かりました。
「君は気づかないだろうね。麗しの王女殿下を見つめる令息達の視線が、痛いくらいだ」
嫉妬の眼差しが、カスト様へ? ふふっ、そんな嬉しがらせを仰るなんて可愛い人です。私に見惚れる殿方は、カスト様と……そうですね。家族や親族だけですわ。お父様、弟ダヴィード、アロルド伯父様くらい? そう返したら、大きな溜め息を吐いて、困ったような顔をされてしまいました。
「知らぬは当人ばかりなり……本当にその通りだ」
ええ、本当にその通りですわ。素敵なカスト様に見惚れるご令嬢方の視線に、カスト様だけが気づかないんですもの。普段はとても鋭い方ですのに……そんなところも大好きですわ。
深夜になって解散が告げられるまで、夜会の広間は賑わっておりました。あの婚約破棄があった夜会が嘘のよう。居心地良い人々の間で、私はいつも以上に微笑みを絶やさず過ごせました。
38
お気に入りに追加
5,306
あなたにおすすめの小説
【完結】公女が死んだ、その後のこと
杜野秋人
恋愛
【第17回恋愛小説大賞 奨励賞受賞しました!】
「お母様……」
冷たく薄暗く、不潔で不快な地下の罪人牢で、彼女は独り、亡き母に語りかける。その掌の中には、ひと粒の小さな白い錠剤。
古ぼけた簡易寝台に座り、彼女はそのままゆっくりと、覚悟を決めたように横たわる。
「言いつけを、守ります」
最期にそう呟いて、彼女は震える手で錠剤を口に含み、そのまま飲み下した。
こうして、第二王子ボアネルジェスの婚約者でありカストリア公爵家の次期女公爵でもある公女オフィーリアは、獄中にて自ら命を断った。
そして彼女の死後、その影響はマケダニア王国の王宮内外の至るところで噴出した。
「ええい、公務が回らん!オフィーリアは何をやっている!?」
「殿下は何を仰せか!すでに公女は儚くなられたでしょうが!」
「くっ……、な、ならば蘇生させ」
「あれから何日経つとお思いで!?お気は確かか!」
「何故だ!何故この私が裁かれねばならん!」
「そうよ!お父様も私も何も悪くないわ!悪いのは全部お義姉さまよ!」
「…………申し開きがあるのなら、今ここではなく取り調べと裁判の場で存分に申すがよいわ。⸺連れて行け」
「まっ、待て!話を」
「嫌ぁ〜!」
「今さら何しに戻ってきたかね先々代様。わしらはもう、公女さま以外にお仕えする気も従う気もないんじゃがな?」
「なっ……貴様!領主たる儂の言うことが聞けんと」
「領主だったのは亡くなった女公さまとその娘の公女さまじゃ。あの方らはあんたと違って、わしら領民を第一に考えて下さった。あんたと違ってな!」
「くっ……!」
「なっ、譲位せよだと!?」
「本国の決定にございます。これ以上の混迷は連邦友邦にまで悪影響を与えかねないと。⸺潔く観念なさいませ。さあ、ご署名を」
「おのれ、謀りおったか!」
「…………父上が悪いのですよ。あの時止めてさえいれば、彼女は死なずに済んだのに」
◆人が亡くなる描写、及びベッドシーンがあるのでR15で。生々しい表現は避けています。
◆公女が亡くなってからが本番。なので最初の方、恋愛要素はほぼありません。最後はちゃんとジャンル:恋愛です。
◆ドアマットヒロインを書こうとしたはずが。どうしてこうなった?
◆作中の演出として自死のシーンがありますが、決して推奨し助長するものではありません。早まっちゃう前に然るべき窓口に一言相談を。
◆作者の作品は特に断りなき場合、基本的に同一の世界観に基づいています。が、他作品とリンクする予定は特にありません。本作単品でお楽しみ頂けます。
◆この作品は小説家になろうでも公開します。
◆24/2/17、HOTランキング女性向け1位!?1位は初ですありがとうございます!
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした
葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。
でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。
本編完結済みです。時々番外編を追加します。
【完結】婚姻無効になったので新しい人生始めます~前世の記憶を思い出して家を出たら、愛も仕事も手に入れて幸せになりました~
Na20
恋愛
セレーナは嫁いで三年が経ってもいまだに旦那様と使用人達に受け入れられないでいた。
そんな時頭をぶつけたことで前世の記憶を思い出し、家を出ていくことを決意する。
「…そうだ、この結婚はなかったことにしよう」
※ご都合主義、ふんわり設定です
※小説家になろう様にも掲載しています
今さら後悔しても知りません 婚約者は浮気相手に夢中なようなので消えてさしあげます
神崎 ルナ
恋愛
旧題:長年の婚約者は政略結婚の私より、恋愛結婚をしたい相手がいるようなので、消えてあげようと思います。
【奨励賞頂きましたっ( ゚Д゚) ありがとうございます(人''▽`)】 コッペリア・マドルーク公爵令嬢は、王太子アレンの婚約者として良好な関係を維持してきたと思っていた。
だが、ある時アレンとマリアの会話を聞いてしまう。
「あんな堅苦しい女性は苦手だ。もし許されるのであれば、君を王太子妃にしたかった」
マリア・ダグラス男爵令嬢は下級貴族であり、王太子と婚約などできるはずもない。
(そう。そんなに彼女が良かったの)
長年に渡る王太子妃教育を耐えてきた彼女がそう決意を固めるのも早かった。
何故なら、彼らは将来自分達の子を王に据え、更にはコッペリアに公務を押し付け、自分達だけ遊び惚けていようとしているようだったから。
(私は都合のいい道具なの?)
絶望したコッペリアは毒薬を入手しようと、お忍びでとある店を探す。
侍女達が話していたのはここだろうか?
店に入ると老婆が迎えてくれ、コッペリアに何が入用か、と尋ねてきた。
コッペリアが正直に全て話すと、
「今のあんたにぴったりの物がある」
渡されたのは、小瓶に入った液状の薬。
「体を休める薬だよ。ん? 毒じゃないのかって? まあ、似たようなものだね。これを飲んだらあんたは眠る。ただし」
そこで老婆は言葉を切った。
「目覚めるには条件がある。それを満たすのは並大抵のことじゃ出来ないよ。下手をすれば永遠に眠ることになる。それでもいいのかい?」
コッペリアは深く頷いた。
薬を飲んだコッペリアは眠りについた。
そして――。
アレン王子と向かい合うコッペリア(?)がいた。
「は? 書類の整理を手伝え? お断り致しますわ」
※お読み頂きありがとうございます(人''▽`) hotランキング、全ての小説、恋愛小説ランキングにて1位をいただきました( ゚Д゚)
(2023.2.3)
ありがとうございますっm(__)m ジャンピング土下座×1000000
※お読みくださり有難うございました(人''▽`) 完結しました(^▽^)
完)嫁いだつもりでしたがメイドに間違われています
オリハルコン陸
恋愛
嫁いだはずなのに、格好のせいか本気でメイドと勘違いされた貧乏令嬢。そのままうっかりメイドとして馴染んで、その生活を楽しみ始めてしまいます。
◇◇◇◇◇◇◇
「オマケのようでオマケじゃない〜」では、本編の小話や後日談というかたちでまだ語られてない部分を補完しています。
14回恋愛大賞奨励賞受賞しました!
これも読んでくださったり投票してくださった皆様のおかげです。
ありがとうございました!
ざっくりと見直し終わりました。完璧じゃないけど、とりあえずこれで。
この後本格的に手直し予定。(多分時間がかかります)
幼馴染の公爵令嬢が、私の婚約者を狙っていたので、流れに身を任せてみる事にした。
完菜
恋愛
公爵令嬢のアンジェラは、自分の婚約者が大嫌いだった。アンジェラの婚約者は、エール王国の第二王子、アレックス・モーリア・エール。彼は、誰からも愛される美貌の持ち主。何度、アンジェラは、婚約を羨ましがられたかわからない。でもアンジェラ自身は、5歳の時に婚約してから一度も嬉しいなんて思った事はない。アンジェラの唯一の幼馴染、公爵令嬢エリーもアンジェラの婚約者を羨ましがったうちの一人。アンジェラが、何度この婚約が良いものではないと説明しても信じて貰えなかった。アンジェラ、エリー、アレックス、この三人が貴族学園に通い始めると同時に、物語は動き出す。
私のことが大嫌いらしい婚約者に婚約破棄を告げてみた結果。
夢風 月
恋愛
カルディア王国公爵家令嬢シャルロットには7歳の時から婚約者がいたが、何故かその相手である第二王子から酷く嫌われていた。
顔を合わせれば睨まれ、嫌味を言われ、周囲の貴族達からは哀れみの目を向けられる日々。
我慢の限界を迎えたシャルロットは、両親と国王を脅……説得して、自分たちの婚約を解消させた。
そしてパーティーにて、いつものように冷たい態度をとる婚約者にこう言い放つ。
「私と殿下の婚約は解消されました。今までありがとうございました!」
そうして笑顔でパーティー会場を後にしたシャルロットだったが……次の日から何故か婚約を解消したはずのキースが家に押しかけてくるようになった。
「なんで今更元婚約者の私に会いに来るんですか!?」
「……好きだからだ」
「……はい?」
いろんな意味でたくましい公爵令嬢と、不器用すぎる王子との恋物語──。
※タグをよくご確認ください※
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる