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72.この夜会は大成功ですね
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旧王家と揉めたことで立場をなくした伯爵家の方に、手を差し伸べたことがありました。間に入って取りなし、何事もなく終わった。その件にお礼をいただきました。高価な物は受け取れないと言いましたら、美しい花束を……とても良い香りですわ。
「ありがとうございます。部屋に飾らせていただきますわ」
微笑んだ私に、ナターリ伯爵夫人は優雅に一礼して言い添えました。
「今後も定期的に、王女殿下のお部屋を飾る花を届けることをお許しください」
「定期的に、ですか?」
「ええ、王女殿下が公爵閣下になられても……ずっとです。夫ナターリ伯爵は、香水の事業を手がけております。ですが身に付ける香りは好みがありますので、花にするよう私が進言しましたの」
ほほっと笑う奥様はころんと丸い頬を赤く染めて、幸せそうに語ります。こんな夫婦、素敵ですね。私は丁寧にお礼を言い、無理をしないようお願いしました。どんなに裕福な家でも、豊かな領地でも、荒天による不作や不幸は訪れます。そのような時は、自分達を優先すること。これを約束してくださるなら、お花は嬉しく受け取りますわ。
その次は、災害時に助けられたと数人の殿方が来られました。侯爵から男爵まで。さまざまな階級の当主ばかりです。数年前に起きた地滑りによる災害と、その周辺の領地への物流が滞る問題がありました。覚えています。その時に助けられたと、各地の名産品を持ち寄ってくれました。
見事な木彫りの花瓶、領地で収穫した葡萄のワイン、丹精込めて育てた野菜、珍しい果物。奥様が作られた焼き菓子に至るまで、種類や量は様々ですが、すべて嬉しく思いました。
人に向けた好意が、このような形で返ってくるなんて。夜会は顔見せの場ですが、私はお礼を言われる場になっていました。お陰で、皆様と順番に話すことが出来ています。夜会は大成功ですね。
「私の婚約者は人気者だな」
公的な口調で微笑むカスト様が、私の腰に手を回して抱き寄せました。人前ですが、婚約者なので問題ありませんね。嫉妬されたようで嬉しく感じます。カスト様へ向けられる女性の視線を遮りたくて、私もカスト様にしなだれ掛かりました。
「君は気づかないだろうね。麗しの王女殿下を見つめる令息達の視線が、痛いくらいだ」
嫉妬の眼差しが、カスト様へ? ふふっ、そんな嬉しがらせを仰るなんて可愛い人です。私に見惚れる殿方は、カスト様と……そうですね。家族や親族だけですわ。お父様、弟ダヴィード、アロルド伯父様くらい? そう返したら、大きな溜め息を吐いて、困ったような顔をされてしまいました。
「知らぬは当人ばかりなり……本当にその通りだ」
ええ、本当にその通りですわ。素敵なカスト様に見惚れるご令嬢方の視線に、カスト様だけが気づかないんですもの。普段はとても鋭い方ですのに……そんなところも大好きですわ。
深夜になって解散が告げられるまで、夜会の広間は賑わっておりました。あの婚約破棄があった夜会が嘘のよう。居心地良い人々の間で、私はいつも以上に微笑みを絶やさず過ごせました。
「ありがとうございます。部屋に飾らせていただきますわ」
微笑んだ私に、ナターリ伯爵夫人は優雅に一礼して言い添えました。
「今後も定期的に、王女殿下のお部屋を飾る花を届けることをお許しください」
「定期的に、ですか?」
「ええ、王女殿下が公爵閣下になられても……ずっとです。夫ナターリ伯爵は、香水の事業を手がけております。ですが身に付ける香りは好みがありますので、花にするよう私が進言しましたの」
ほほっと笑う奥様はころんと丸い頬を赤く染めて、幸せそうに語ります。こんな夫婦、素敵ですね。私は丁寧にお礼を言い、無理をしないようお願いしました。どんなに裕福な家でも、豊かな領地でも、荒天による不作や不幸は訪れます。そのような時は、自分達を優先すること。これを約束してくださるなら、お花は嬉しく受け取りますわ。
その次は、災害時に助けられたと数人の殿方が来られました。侯爵から男爵まで。さまざまな階級の当主ばかりです。数年前に起きた地滑りによる災害と、その周辺の領地への物流が滞る問題がありました。覚えています。その時に助けられたと、各地の名産品を持ち寄ってくれました。
見事な木彫りの花瓶、領地で収穫した葡萄のワイン、丹精込めて育てた野菜、珍しい果物。奥様が作られた焼き菓子に至るまで、種類や量は様々ですが、すべて嬉しく思いました。
人に向けた好意が、このような形で返ってくるなんて。夜会は顔見せの場ですが、私はお礼を言われる場になっていました。お陰で、皆様と順番に話すことが出来ています。夜会は大成功ですね。
「私の婚約者は人気者だな」
公的な口調で微笑むカスト様が、私の腰に手を回して抱き寄せました。人前ですが、婚約者なので問題ありませんね。嫉妬されたようで嬉しく感じます。カスト様へ向けられる女性の視線を遮りたくて、私もカスト様にしなだれ掛かりました。
「君は気づかないだろうね。麗しの王女殿下を見つめる令息達の視線が、痛いくらいだ」
嫉妬の眼差しが、カスト様へ? ふふっ、そんな嬉しがらせを仰るなんて可愛い人です。私に見惚れる殿方は、カスト様と……そうですね。家族や親族だけですわ。お父様、弟ダヴィード、アロルド伯父様くらい? そう返したら、大きな溜め息を吐いて、困ったような顔をされてしまいました。
「知らぬは当人ばかりなり……本当にその通りだ」
ええ、本当にその通りですわ。素敵なカスト様に見惚れるご令嬢方の視線に、カスト様だけが気づかないんですもの。普段はとても鋭い方ですのに……そんなところも大好きですわ。
深夜になって解散が告げられるまで、夜会の広間は賑わっておりました。あの婚約破棄があった夜会が嘘のよう。居心地良い人々の間で、私はいつも以上に微笑みを絶やさず過ごせました。
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