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42.婚約の申し出と忠誠の狭間で
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私の部屋にお父様とお母様が並び、私は困惑しました。弟ダヴィードは仲間はずれにされたと思わないかしら。それに、皆で話すなら談話室の方がよいのでは? いろいろ浮かぶ言葉を飲み込み、用意された紅茶に口に運びます。
「実はね、カスト君から相談を受けたんだ」
お父様は騎士であるカスト様を「君」とお呼びになるのですね。その部分が気になって、話を半分ほどに聞いておりました。私より茶に近い金髪をかき上げた父の手が、迷いながら膝の上で組まれる。言いづらいことでしょうか。
お母様はずっと居ても構わないと仰いましたが、お父様のご意見は違うのかも知れません。そうであれば気にせず、口にしてくだればいいのに。
「彼は婚約したいと……その……」
私を見てお父様は眉尻を下げました。護衛の専属騎士として名乗りを挙げた方が、突然婚約のお話を? イニシャル入りのハンカチを肌身離さずお持ちなら、相思相愛ですね。専属騎士として遠慮なさっているなら不要な気遣いでした。
お父様は私が傷つくと思われたのでしょう。専属騎士は結婚せず、護衛対象を一番に考える方もおられます。もちろん全員ではなく、そんな義務もないのですけれど。忠誠を誓ったばかりで、別の令嬢と婚約など許さないとお父様が考えたなら……それは逆に私を傷つけますわ。
縛り付ける気などないのです。
「どう思う?」
「素敵なことだと思いますわ」
にっこり笑った私に、安堵の表情を浮かべるお父様。ですがお母様は顔を強張らせました。それからお父様の肩を叩きます。結構強い力をお持ちなのか、パシッと派手な音がしました。
「あなた、まったく言葉が足りておりません。私達の可愛いルーナは、カスト様に婚約者がいると思っています。わかりますか? あの腫れた目元は、失恋したと思っての……」
「お、お母様!」
驚くほど大きな制止の声が出て、自分でびっくりしました。肩を揺らした私の顔が熱くなり、おそらく真っ赤でしょう。食い入るように見つめたお父様が、お母様と私を交互に確認します。徐に笑顔になりました。
「なるほど、わかった。それなら当事者で話をするのが一番だ! 私達は退散するとしよう。私も妻も婚約には賛成だ。それだけは覚えておいてくれ」
お父様は謎かけのような言葉を残し、立ち上がります。慌ててお見送りに立つ私に、その場でいいと示されました。出ていくお父様とお母様が扉を閉める前に、するりと細身の騎士が入室します。
カスト様? 未婚の男女となるので、扉は開けたままにしました。侍女が手早く青い花のカップを片付け、金のラインが美しいカップに交換します。お茶の種類も変えたようで、ハーブのすっきりした香りでした。
まだ顔が腫れているので俯いて、大きめのタオルで顔を隠します。こんな顔を見せるのは恥ずかしい。好きになった人だから、いつも美しく着飾った私を覚えていて欲しいのです。騎士の礼を取って待つカスト様に、座ってくださいとお伝えしました。
緊張で固まる私の向かいに腰掛けたカスト様は、私より緊張しているみたい。忠誠と愛情は別なので、婚約に反対したりしないと伝えなくてはいけません。
「あの、カスト様」
「ジェラルディーナ様!」
同時に呼びかけ、同時に固まりました。
「実はね、カスト君から相談を受けたんだ」
お父様は騎士であるカスト様を「君」とお呼びになるのですね。その部分が気になって、話を半分ほどに聞いておりました。私より茶に近い金髪をかき上げた父の手が、迷いながら膝の上で組まれる。言いづらいことでしょうか。
お母様はずっと居ても構わないと仰いましたが、お父様のご意見は違うのかも知れません。そうであれば気にせず、口にしてくだればいいのに。
「彼は婚約したいと……その……」
私を見てお父様は眉尻を下げました。護衛の専属騎士として名乗りを挙げた方が、突然婚約のお話を? イニシャル入りのハンカチを肌身離さずお持ちなら、相思相愛ですね。専属騎士として遠慮なさっているなら不要な気遣いでした。
お父様は私が傷つくと思われたのでしょう。専属騎士は結婚せず、護衛対象を一番に考える方もおられます。もちろん全員ではなく、そんな義務もないのですけれど。忠誠を誓ったばかりで、別の令嬢と婚約など許さないとお父様が考えたなら……それは逆に私を傷つけますわ。
縛り付ける気などないのです。
「どう思う?」
「素敵なことだと思いますわ」
にっこり笑った私に、安堵の表情を浮かべるお父様。ですがお母様は顔を強張らせました。それからお父様の肩を叩きます。結構強い力をお持ちなのか、パシッと派手な音がしました。
「あなた、まったく言葉が足りておりません。私達の可愛いルーナは、カスト様に婚約者がいると思っています。わかりますか? あの腫れた目元は、失恋したと思っての……」
「お、お母様!」
驚くほど大きな制止の声が出て、自分でびっくりしました。肩を揺らした私の顔が熱くなり、おそらく真っ赤でしょう。食い入るように見つめたお父様が、お母様と私を交互に確認します。徐に笑顔になりました。
「なるほど、わかった。それなら当事者で話をするのが一番だ! 私達は退散するとしよう。私も妻も婚約には賛成だ。それだけは覚えておいてくれ」
お父様は謎かけのような言葉を残し、立ち上がります。慌ててお見送りに立つ私に、その場でいいと示されました。出ていくお父様とお母様が扉を閉める前に、するりと細身の騎士が入室します。
カスト様? 未婚の男女となるので、扉は開けたままにしました。侍女が手早く青い花のカップを片付け、金のラインが美しいカップに交換します。お茶の種類も変えたようで、ハーブのすっきりした香りでした。
まだ顔が腫れているので俯いて、大きめのタオルで顔を隠します。こんな顔を見せるのは恥ずかしい。好きになった人だから、いつも美しく着飾った私を覚えていて欲しいのです。騎士の礼を取って待つカスト様に、座ってくださいとお伝えしました。
緊張で固まる私の向かいに腰掛けたカスト様は、私より緊張しているみたい。忠誠と愛情は別なので、婚約に反対したりしないと伝えなくてはいけません。
「あの、カスト様」
「ジェラルディーナ様!」
同時に呼びかけ、同時に固まりました。
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