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16.まるで別人のようでした
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「此度のことは誠に申し訳なかった。ジェラルディーナ嬢に過失は一切ない。愚かな第一王子は廃嫡として王族から追放となった故、許して欲しい」
いきなりの国王陛下の謝罪から始まり、私とお父様はお気持ちを汲み取って了承しました。ここまでは問題なく、ヴァレンテ様との婚約は解消が成立します。すでに決定されていた事項でも、簡単に終わりに出来ないのが貴族社会の面倒なところでしょう。互いの面目もあるため、きちんとした謝罪が終わるまで事件が終わったと見做されないのです。
「側妃の子とはいえ、ヴァレンテの失態は私からもお詫びします。シモーニ公爵、本当に申し訳なかったわ」
「いえ。お気持ちは嬉しく存じます」
気のせいでしょうか。お父様の顔色が悪い気がしました。口調もいつもより堅いですが、今回の婚約破棄という事件を思えば当然かも知れません。私の名誉より、公爵家を軽んじた行いでしたから。お父様が気分を害されるのも仕方ありませんね。
お父様が握ったままの右手に、そっと左手を添えました。上から乗せる形で包み、こちらへ目を向けたお父様に微笑みかけます。少しは気が楽になればよいのですが。
「娘ジェラルディーナは公爵領に連れて帰りますが、よろしいですね」
念を押すお父様の強い口調に、王妃様は目を見開いた後でお茶を一口。国王陛下は困った顔で王妃様の様子を確認しました。どうやら決定権は王妃様がお持ちのようです。ヴァレンテ様の立太子の件で譲った王妃様に遠慮しておられるのでしょうか。
「一度領地へ戻るのは、マルティーナ様を安心させるためにも必要でしょう。ですが王家としても、王太子妃教育を施したジェラルディーナ嬢を手放すことは出来ませんわ。そこでジェラルディーナ・ド・シモーニ嬢の婚約者として、私のパトリツィオはどうかしら」
今、奇妙な尊称が入っていましたわ。個人名と貴族の家名の間に「ド」が入るのは、女性王族のみ。男性王族は「デ」が使用されてきました。私のジェラルディーナの名に、「ド」が入るのは家名が「ブリアーニ」になった時だけです。王妃様は「シモーニ」と仰ったのに?
驚いて固まる私の手を握るお父様が、むっとした口調で切り返します。しっかり握られた手が少し痛いくらいでした。私を奪われると恐れるようなお父様の態度に、不安が募ります。何が起きているのかしら。
「王妃殿下、我が娘の名はジェラルディーナ・シモーニです。今後も変わることはないでしょう。我が娘に婿を取り、領地内で暮らすことをお許しいただきたい」
「なりません。私の次の王妃はルーナのみ。それ以外は認めませんし、息子パトリツィオがルーナを娶れば済む話でしょう?」
「いいえ。我がシモーニ公爵家は王家との距離を置くことに決めました。王都にある屋敷もメーダ伯爵に処分させています。これは公爵家当主としての決定事項であり、ジェラルディーナが我が娘である現状、誰も邪魔できない私の権利です」
「ダメよ! そんなの許さないわ!!」
「母上?」
「王妃よ、いかがした」
王太子パトリツィオ殿下と、国王陛下が驚きの声をあげます。私も驚きました。王妃様にこんな激しい一面があるなんて。想像したこともありませんわ。いつも微笑んでおられて、優しく明るく、誰にでも平等に接する方です。こんなに感情を露わにした顔も声も、別人のようで恐ろしく感じました。
いきなりの国王陛下の謝罪から始まり、私とお父様はお気持ちを汲み取って了承しました。ここまでは問題なく、ヴァレンテ様との婚約は解消が成立します。すでに決定されていた事項でも、簡単に終わりに出来ないのが貴族社会の面倒なところでしょう。互いの面目もあるため、きちんとした謝罪が終わるまで事件が終わったと見做されないのです。
「側妃の子とはいえ、ヴァレンテの失態は私からもお詫びします。シモーニ公爵、本当に申し訳なかったわ」
「いえ。お気持ちは嬉しく存じます」
気のせいでしょうか。お父様の顔色が悪い気がしました。口調もいつもより堅いですが、今回の婚約破棄という事件を思えば当然かも知れません。私の名誉より、公爵家を軽んじた行いでしたから。お父様が気分を害されるのも仕方ありませんね。
お父様が握ったままの右手に、そっと左手を添えました。上から乗せる形で包み、こちらへ目を向けたお父様に微笑みかけます。少しは気が楽になればよいのですが。
「娘ジェラルディーナは公爵領に連れて帰りますが、よろしいですね」
念を押すお父様の強い口調に、王妃様は目を見開いた後でお茶を一口。国王陛下は困った顔で王妃様の様子を確認しました。どうやら決定権は王妃様がお持ちのようです。ヴァレンテ様の立太子の件で譲った王妃様に遠慮しておられるのでしょうか。
「一度領地へ戻るのは、マルティーナ様を安心させるためにも必要でしょう。ですが王家としても、王太子妃教育を施したジェラルディーナ嬢を手放すことは出来ませんわ。そこでジェラルディーナ・ド・シモーニ嬢の婚約者として、私のパトリツィオはどうかしら」
今、奇妙な尊称が入っていましたわ。個人名と貴族の家名の間に「ド」が入るのは、女性王族のみ。男性王族は「デ」が使用されてきました。私のジェラルディーナの名に、「ド」が入るのは家名が「ブリアーニ」になった時だけです。王妃様は「シモーニ」と仰ったのに?
驚いて固まる私の手を握るお父様が、むっとした口調で切り返します。しっかり握られた手が少し痛いくらいでした。私を奪われると恐れるようなお父様の態度に、不安が募ります。何が起きているのかしら。
「王妃殿下、我が娘の名はジェラルディーナ・シモーニです。今後も変わることはないでしょう。我が娘に婿を取り、領地内で暮らすことをお許しいただきたい」
「なりません。私の次の王妃はルーナのみ。それ以外は認めませんし、息子パトリツィオがルーナを娶れば済む話でしょう?」
「いいえ。我がシモーニ公爵家は王家との距離を置くことに決めました。王都にある屋敷もメーダ伯爵に処分させています。これは公爵家当主としての決定事項であり、ジェラルディーナが我が娘である現状、誰も邪魔できない私の権利です」
「ダメよ! そんなの許さないわ!!」
「母上?」
「王妃よ、いかがした」
王太子パトリツィオ殿下と、国王陛下が驚きの声をあげます。私も驚きました。王妃様にこんな激しい一面があるなんて。想像したこともありませんわ。いつも微笑んでおられて、優しく明るく、誰にでも平等に接する方です。こんなに感情を露わにした顔も声も、別人のようで恐ろしく感じました。
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