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08.戦の支度を整えよ!
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王都にある屋敷から届いた知らせに、分家頭のメーダ伯爵家は顔色を失った。フクロウが届ける手紙は、足に結びつけた筒に入っている。その内容を吟味し、本家に伝令するのがメーダ伯爵に与えられた役割のひとつだった。
「ジェラルディーナ姫様が……」
口にするも憚られるような、非礼極まりない仕打ちを受けた。そのショックで倒れ、現在もまだ回復していないだと? 怒りに震える手で、握り締めた手紙を丁寧に伸ばして新たなフクロウに持たせた。窓から解き放ち、疲れたフクロウを休ませるよう手配する。
「全分家を招集しろ。戦になるぞ」
「はっ」
踵を鳴らして一礼する騎士は、シモーニ公爵家の専属だ。私設軍を保有し、その戦力の高さで他国にも知られた公爵家に喧嘩を売ったのだ。王家も相応の覚悟をしているはずだった。早いうちに姫の脱出を手配しなくては。
頭の中で次々と戦略を打ち立て、包囲網を形成していく。これを実行に移す許可を本家から取れたが最後、王国は地獄を見るだろう。巻き込まれる民は気の毒だが、彼らが戴く王冠が変わるだけの話だった。すぐに終わらせてやる。大量の犠牲が出る前に、片をつければ済む。
「兵糧の確認をせよ。備蓄の量は足りているか」
「確認中です」
侍従がハキハキと答える。ここは公爵領と王国の間に位置する。シモーニ公爵家を守る柱の一つである砦があった。公爵領は元は小国として独立していた地域で、周囲を守る砦や外壁はほぼ残されている。活用する道を選んだ先代公爵閣下の先見の明に感服しながら、メーダ伯爵は砦の状況を再度確認し始めた。
兵糧や兵力の招集、武器の確認と民の避難誘導。攻め込むとなれば、王都の詳細な地図も必要だ。王宮内の地下通路を記した地図は、どこにあったか。一番槍はメーダ伯爵家に賜ることが出来るとよいが。
戦支度を整えながら、分家に向けて放たれた伝令を見送る。愛用の剣を磨き、鎧を引っ張り出した。少し埃を被っていたが、払えば美しく輝く。
「姫様のお心は繊細だ。傷付けた第一王子の首を国王に投げつけてやろう」
忠誠を誓ったのは、シモーニ公爵家だ。与えられた伯爵位も、公爵家が持っている複数の爵位から賜った。シモーニ公爵家の分家はすべて、その所領を本家から委託されている。王家の恩は受けていなかった。
「旦那様、ピザーヌ伯爵家から使者が参っております」
あの家は分家ではないが、姫様の恩義を受けていたな。ならば敵にはなるまい。引き入れておくか。
「客間へ通せ、今行く」
身なりを確認し、さすがに剣は置いていく。執務室を出て階下の客間に入ると、伯爵家の嫡男カストが立ち上がり、膝をついて礼を尽くす。その姿は騎士のようであった。剣を佩き、マントを付け、戦に赴くような恰好である。
「久しぶりだ。カスト殿、お話があるとか」
「メーダ伯爵、挨拶を省く無礼をお許しください。シモーニ公爵令嬢の件について、すでにお聞きおよびでしょうか」
「もちろんだ」
怒りが再燃する。握った拳が震えるのを、カストはしっかり見つめてから視線を合わせた。決意の滲んだ瞳は、メーダ伯爵のきつい眼差しを受け止めて瞬く。
「我がピザーヌ伯爵家、および親族であるテバルディ子爵家、トスカーニ子爵家、ルーゴ男爵家は、シモーニ公爵家にお味方いたします。母の実家ロレンツィ侯爵家も、現在傘下の家をまとめております」
王家ではなくシモーニ公爵家を支持する。それは命運を委ねる決断だった。いち早く味方であると表明した若者に、初老のメーダ伯爵は重々しく頷いた。
翌日から、同様の申し出がさまざまな一族から寄せられるが、嫡男が自ら駆けつけたことで、ピザーヌ伯爵家は一歩抜きん出る形となった。
「ジェラルディーナ姫様が……」
口にするも憚られるような、非礼極まりない仕打ちを受けた。そのショックで倒れ、現在もまだ回復していないだと? 怒りに震える手で、握り締めた手紙を丁寧に伸ばして新たなフクロウに持たせた。窓から解き放ち、疲れたフクロウを休ませるよう手配する。
「全分家を招集しろ。戦になるぞ」
「はっ」
踵を鳴らして一礼する騎士は、シモーニ公爵家の専属だ。私設軍を保有し、その戦力の高さで他国にも知られた公爵家に喧嘩を売ったのだ。王家も相応の覚悟をしているはずだった。早いうちに姫の脱出を手配しなくては。
頭の中で次々と戦略を打ち立て、包囲網を形成していく。これを実行に移す許可を本家から取れたが最後、王国は地獄を見るだろう。巻き込まれる民は気の毒だが、彼らが戴く王冠が変わるだけの話だった。すぐに終わらせてやる。大量の犠牲が出る前に、片をつければ済む。
「兵糧の確認をせよ。備蓄の量は足りているか」
「確認中です」
侍従がハキハキと答える。ここは公爵領と王国の間に位置する。シモーニ公爵家を守る柱の一つである砦があった。公爵領は元は小国として独立していた地域で、周囲を守る砦や外壁はほぼ残されている。活用する道を選んだ先代公爵閣下の先見の明に感服しながら、メーダ伯爵は砦の状況を再度確認し始めた。
兵糧や兵力の招集、武器の確認と民の避難誘導。攻め込むとなれば、王都の詳細な地図も必要だ。王宮内の地下通路を記した地図は、どこにあったか。一番槍はメーダ伯爵家に賜ることが出来るとよいが。
戦支度を整えながら、分家に向けて放たれた伝令を見送る。愛用の剣を磨き、鎧を引っ張り出した。少し埃を被っていたが、払えば美しく輝く。
「姫様のお心は繊細だ。傷付けた第一王子の首を国王に投げつけてやろう」
忠誠を誓ったのは、シモーニ公爵家だ。与えられた伯爵位も、公爵家が持っている複数の爵位から賜った。シモーニ公爵家の分家はすべて、その所領を本家から委託されている。王家の恩は受けていなかった。
「旦那様、ピザーヌ伯爵家から使者が参っております」
あの家は分家ではないが、姫様の恩義を受けていたな。ならば敵にはなるまい。引き入れておくか。
「客間へ通せ、今行く」
身なりを確認し、さすがに剣は置いていく。執務室を出て階下の客間に入ると、伯爵家の嫡男カストが立ち上がり、膝をついて礼を尽くす。その姿は騎士のようであった。剣を佩き、マントを付け、戦に赴くような恰好である。
「久しぶりだ。カスト殿、お話があるとか」
「メーダ伯爵、挨拶を省く無礼をお許しください。シモーニ公爵令嬢の件について、すでにお聞きおよびでしょうか」
「もちろんだ」
怒りが再燃する。握った拳が震えるのを、カストはしっかり見つめてから視線を合わせた。決意の滲んだ瞳は、メーダ伯爵のきつい眼差しを受け止めて瞬く。
「我がピザーヌ伯爵家、および親族であるテバルディ子爵家、トスカーニ子爵家、ルーゴ男爵家は、シモーニ公爵家にお味方いたします。母の実家ロレンツィ侯爵家も、現在傘下の家をまとめております」
王家ではなくシモーニ公爵家を支持する。それは命運を委ねる決断だった。いち早く味方であると表明した若者に、初老のメーダ伯爵は重々しく頷いた。
翌日から、同様の申し出がさまざまな一族から寄せられるが、嫡男が自ら駆けつけたことで、ピザーヌ伯爵家は一歩抜きん出る形となった。
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