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外伝(次世代)

第5話 幸せを運ぶ卵(2)

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 緊張する指先が触れたのは、柔らかな膜のような感触。それから手のひらを押し当てた。ほんのり温かい卵の表面を夢中になって撫でていると、マリエッラ先生が大きなタライを運んでくる。

 何に使うのかしら。タライをお母様の膝の上に乗せて、真ん中に卵を置いた。

 卵のベッドなら、クッションを入れないと。慌ててクッションを掴んだ私に、お母様が「見てて」と悪戯する前のアグニ兄様みたいな顔をする。首をかしげる私の前で、お母様は卵に手を触れて声をかけた。

「出てきて、可愛い私の赤ちゃん」

 ……今の声、お姫様と呼ばれたの、覚えてる。ふとそう思った。

 卵の表面にヒビが入って割れる。どうしようと思ったら、大量のお水がタライに流れ出た。中で寝ていた子竜が大きく息を吸い込み、鳴く。

「びぎゃぁあああああ、ぴぎゃ、ひっ!」

 変わった鳴き声――必死に水の中をお母様の方へ泳ごうとする。呆然と見ている間に、マリエッラ先生がタライを片付けた。お父様が抱き上げてタオルで包んで、お母様に渡す。

「男の子だ。ありがとう、ステファニー」

「まあ、お跡継ぎね」

「家など継がず好きに生きろ。執務など誰かに任せればよい」

「まだ早いわよ」

 くすくす笑ったお母様が、受け取った弟を私に見せてくれた。大きな口を開けてぴぃぴぃ鳴いてるこの子が、私の弟なのね。初めまして、私がお姉様よ。クラリーサというの。

 まだ喉が痛いので、指先を差し出した。きゅっと掴んで口元に引き寄せ、ちゅっちゅと吸い付く。その様子に微笑んだお母様が、ブラウスの上をはだける。

 お風呂じゃないのに脱いでしまっていいのかしら。咥えた指を外した私に、お父様が腕を伸ばした。

「おいで、リサ」

 素直にお父様に抱っこされると、弟はお母様の胸に吸い付いてた。夢中でお乳を飲んでるみたい。両手で胸をぎゅっと掴んでるわ。痛くないの?

 私の視線と首をかしげる仕草で察したお母様が答えてくれた。

「平気よ。リサの時もそうだったわ。お母さんになると痛くても我慢できるようになるの」

 やっぱり我慢してるんだ。痛そうだもの。強く抓られた時の記憶が過って、心配になった。くすくす笑うお母様はすごく綺麗で、幸せそう。マリエッラ先生はタライを片付けに行ったまま戻らない。

 この部屋にいるのは私達だけ。

「リサ、よく頑張った。少しお休み」

 お父様の大きな手が目元を隠す。額から鼻まで覆う温かな感触に目を閉じたら……もう開けなかった。そのまま眠りについて、次に起きたら弟の名前が決まってたのが少し悔しい。私も一緒に考えたかったのに! そう怒ったら、次に産まれる弟か妹の名前を考えさせてくれると約束した。

 早く次の卵、産まれないかしら。
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