上 下
52 / 109
本編

第39話 準備は万全でした(1)

しおりを挟む
 ピクニック計画を聞くなり、リオ兄様のお頬が緩みました。

「それはいい考えだよ、フランカと僕も参加するね」

 穏やかな表情で賛同するリオ兄様は、昨夜どこかへ出かけて朝まで戻りませんでした。でもフランカが何も聞かないなら、行き先を事前に知らされていたのね。

 以前にフランカとリオ兄様は何やら不思議な話をしていた。前世の記憶、ゲームがどうの……盗み聞きするつもりはなく、すぐにその場から離れたけれど。

 恋人同士の会話なら私が知る必要のないことだもの。知るべきなら、2人は教えてくれるわ。だから何も聞かないのが、私の信頼の示し方よ。

「僕が陛下をお誘いしてくるから、準備して待ってて」

 明け方に戻ったばかりなのに、兄は馬を用意すると駆けだしました。公爵家の屋敷から王城までは近いですが、寝不足の身では危険では? この後もお出かけになるのだし、帰りが遅くなったら疲れがたまるのではありませんか……とても心配です。

 ぐるぐると考え、思い切って提案してみました。

「ねえ、フランカ。リオ兄様は寝不足だろうから、馬車で出かけるのはどうかしら」

 それなら御者がいるから、往復寝ていられます。馬から落ちる心配もありませんし。

「あら、リオなら平気よ。そうだわ! 親しくなるために、横抱きで馬に乗せていただくといいわ」

 婚約者の心配より、こちらの運命の恋を優先する親友は鼻歌交じりに侍女と打ち合わせを再開しました。持っていく食事、お茶の道具、連れていく侍女や騎士の数……あっという間に準備が整っていきます。手際が良すぎて、魔法を見ているようですわ。

「ティファの服も決めなくちゃ」

「これではダメなの?」

 いま着ているのはシンプルなワンピースです。先ほど着替えたばかりですし、フリルやレースは少なめでした。これならピクニックでも動きやすいと思うのですけれど。

「ダメよ。だって恋人に会いに行く服装じゃないもの」

「恋人……」

 今の私とテユ様にふさわしい表現じゃないと思います。テユ様は好きと言葉をくださるけれど、私は浮かれているだけで自分の気持ちが理解できていません。

「これにしましょう」

 舞踏会や宴に着るドレスとは違うけれど、普段のワンピースとも違うデザインでした。確かに外出用に作らせたけれど……本当にこれを着るの? ピクニックなのよ。抗議と疑問の声は、フランカの笑顔に飲み込まれます。

「手伝って頂戴」

 公爵家のメイドをすでに掌握した未来の女夫人の命令で、私はあっという間に着替えさせられ、髪を高い位置で結ぶことになりました。
しおりを挟む
感想 31

あなたにおすすめの小説

公爵令嬢の辿る道

ヤマナ
恋愛
公爵令嬢エリーナ・ラナ・ユースクリフは、迎えた5度目の生に絶望した。 家族にも、付き合いのあるお友達にも、慕っていた使用人にも、思い人にも、誰からも愛されなかったエリーナは罪を犯して投獄されて凍死した。 それから生を繰り返して、その度に自業自得で凄惨な末路を迎え続けたエリーナは、やがて自分を取り巻いていたもの全てからの愛を諦めた。 これは、愛されず、しかし愛を求めて果てた少女の、その先の話。 ※暇な時にちょこちょこ書いている程度なので、内容はともかく出来についてはご了承ください。 追記  六十五話以降、タイトルの頭に『※』が付いているお話は、流血表現やグロ表現がございますので、閲覧の際はお気を付けください。

真実の愛がどうなろうと関係ありません。

希猫 ゆうみ
恋愛
伯爵令息サディアスはメイドのリディと恋に落ちた。 婚約者であった伯爵令嬢フェルネは無残にも婚約を解消されてしまう。 「僕はリディと真実の愛を貫く。誰にも邪魔はさせない!」 サディアスの両親エヴァンズ伯爵夫妻は激怒し、息子を勘当、追放する。 それもそのはずで、フェルネは王家の血を引く名門貴族パートランド伯爵家の一人娘だった。 サディアスからの一方的な婚約解消は決して許されない裏切りだったのだ。 一ヶ月後、愛を信じないフェルネに新たな求婚者が現れる。 若きバラクロフ侯爵レジナルド。 「あら、あなたも真実の愛を実らせようって仰いますの?」 フェルネの曾祖母シャーリンとレジナルドの祖父アルフォンス卿には悲恋の歴史がある。 「子孫の我々が結婚しようと関係ない。聡明な妻が欲しいだけだ」 互いに塩対応だったはずが、気づくとクーデレ夫婦になっていたフェルネとレジナルド。 その頃、真実の愛を貫いたはずのサディアスは…… (予定より長くなってしまった為、完結に伴い短編→長編に変更しました)

妹を溺愛したい旦那様は婚約者の私に出ていってほしそうなので、本当に出ていってあげます

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族令嬢であったアリアに幸せにすると声をかけ、婚約関係を結んだグレゴリー第一王子。しかしその後、グレゴリーはアリアの妹との関係を深めていく…。ある日、彼はアリアに出ていってほしいと独り言をつぶやいてしまう。それを耳にしたアリアは、その言葉の通りに家出することを決意するのだった…。

そちらがその気なら、こちらもそれなりに。

直野 紀伊路
恋愛
公爵令嬢アレクシアの婚約者・第一王子のヘイリーは、ある日、「子爵令嬢との真実の愛を見つけた!」としてアレクシアに婚約破棄を突き付ける。 それだけならまだ良かったのだが、よりにもよって二人はアレクシアに冤罪をふっかけてきた。 真摯に謝罪するなら潔く身を引こうと思っていたアレクシアだったが、「自分達の愛の為に人を貶めることを厭わないような人達に、遠慮することはないよね♪」と二人を返り討ちにすることにした。 ※小説家になろう様で掲載していたお話のリメイクになります。 リメイクですが土台だけ残したフルリメイクなので、もはや別のお話になっております。 ※カクヨム様、エブリスタ様でも掲載中。 …ºo。✵…𖧷''☛Thank you ☚″𖧷…✵。oº… ☻2021.04.23 183,747pt/24h☻ ★HOTランキング2位 ★人気ランキング7位 たくさんの方にお読みいただけてほんと嬉しいです(*^^*) ありがとうございます!

悪役令嬢が行方不明!?

mimiaizu
恋愛
乙女ゲームの設定では悪役令嬢だった公爵令嬢サエナリア・ヴァン・ソノーザ。そんな彼女が行方不明になるというゲームになかった事件(イベント)が起こる。彼女を見つけ出そうと捜索が始まる。そして、次々と明かされることになる真実に、妹が両親が、婚約者の王太子が、ヒロインの男爵令嬢が、皆が驚愕することになる。全てのカギを握るのは、一体誰なのだろう。 ※初めての悪役令嬢物です。

[完結]婚約破棄してください。そして私にもう関わらないで

みちこ
恋愛
妹ばかり溺愛する両親、妹は思い通りにならないと泣いて私の事を責める 婚約者も妹の味方、そんな私の味方になってくれる人はお兄様と伯父さんと伯母さんとお祖父様とお祖母様 私を愛してくれる人の為にももう自由になります

幼馴染の親友のために婚約破棄になりました。裏切り者同士お幸せに

hikari
恋愛
侯爵令嬢アントニーナは王太子ジョルジョ7世に婚約破棄される。王太子の新しい婚約相手はなんと幼馴染の親友だった公爵令嬢のマルタだった。 二人は幼い時から王立学校で仲良しだった。アントニーナがいじめられていた時は身を張って守ってくれた。しかし、そんな友情にある日亀裂が入る。

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

処理中です...