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本編
第21話 熱烈な告白が熱くて
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意識がゆっくりと浮上します。ふわふわと現実感のない、空を飛ぶような揺れに誘われて目を開く……と同時に慌てて閉じました。
何だったのかしら、今、目に映ったのは……。
目を閉じたまま、自分の身体を包む温もりを確かめます。背中から腰、膝裏、左半身が温かいですわね。あと頬もじわりと熱が伝わってきました。まずいですわ、目を閉じている方が余計に熱を感じてしまう気がします。
「ティファ、目が覚めたのでしょう?」
親友フランカの「わかってるわよ」という声に、そっと目を開きました。美しい金色の瞳が真っ直ぐに覗き込んできます。数回瞬きすると、テュフォン様は美貌を和らげて微笑まれました。
「よかった。具合は悪くないか? どこぞ痛まぬか?」
「あ、あの……」
「そなたは倒れたのだ。気を張っておったのだな。気づかず悪いことをした」
申し訳なさそうにテュフォン様が謝るため、「いいえ」と答えていました。
竜帝陛下と知っても、今のしょんぼりした姿には犬の耳と垂れた尻尾が見えますわ。幻覚でも……この方に似合いますわね。ぺたんと垂れた耳や尻尾を想像すると、なんだか強く出にくいです。
「下ろしていただけますか?」
ソファに腰掛けたテュフォン様の膝の上で横抱きされた形は、お姫様抱っこと呼称される体勢でした。未婚女性として、婚約者以外の腕に身を委ねるのははしたないと慌ててしまう。
「ベクトル、なぜステファニーは慌てているのか。我の言動はまたおかしいか?」
困惑した表情で父に尋ねる前に、私のお願いを聞いてくださいませ! 左側に束ねた淡い金髪をちょっと引っ張って気を引きました。途端に蕩けるような甘い笑みを向けられます。
「どうした? 何かあれば遠慮なく言うがよい。飲み物をやろうか、それとも」
「下ろしてくださいませ」
今度は疑問形ではなく、確定させて同じ言葉を繰り返しました。少し眉尻を下げて唇を尖らせた仕草は、尻尾や耳があればしょんぼりと垂れていたでしょう。まるで叱られた大型犬のようでした。
頭の中なので、失礼ながら断定させていただきます。やっぱりこの方は犬っぽいですわ。それも主人に忠実な大型犬ですわね。
「陛下、聞こえておいででしょう?」
「ああ、隣に居てくれるか」
しっかり要求を突きつける抜け目のない青年の顔を見つめると、頬が赤くなってしまいました。無駄に顔のいい殿方も考えものですわ。その顔で捨てられた犬のように悄気られると、悪いことをした気分になりますもの。
何にしろ今の状況より、隣に座る方が外聞がいいでしょう。妥協は必要よ、と自分に言い聞かせました。王妃教育に含まれていた外交手腕を使うなら今だわ。絶対に聞き間違いが起きないよう、しっかり言い聞かせなくては……。
「わかりました。隣に座りますから、お膝の上からソファに下ろしてくださいね」
頷いたあと、なぜか抱いたまま立ち上がられてしまい、反射的に首に手を回して絞めるように抱きつきました。落ちる恐怖に肌が粟立ちますが、しっかり支えるテュフォン様の腕に不安が消えます。そのまま向きを変えて、ソファの上に下ろされていました。
陛下と呼称される方が膝をつき、私の足元から見上げてくる姿は背徳感に苛まれてしまいます。レース越しの手を捧げ持ち、そっと上に唇を押し当てられました。顔を伏せるのではなく、顔の高さまで手を持ち上げる仕草は懇願の色を滲ませて、少し居心地が悪い思いをします。
「美しき月光のごときエステファニア嬢に申し上げる。そなたに心奪われた哀れな男に、婚約者となる最高の栄誉を与えて欲しい。我はもう、そなた以外を愛せぬ」
じわじわと血が上って、手も首筋も耳も……頬もすべてが赤くなるのが分かりました。熱くて息が苦しい。どうしましょう、こんな……熱烈な告白は初めてで。どう答えるのが正解なのかわかりません。
何だったのかしら、今、目に映ったのは……。
目を閉じたまま、自分の身体を包む温もりを確かめます。背中から腰、膝裏、左半身が温かいですわね。あと頬もじわりと熱が伝わってきました。まずいですわ、目を閉じている方が余計に熱を感じてしまう気がします。
「ティファ、目が覚めたのでしょう?」
親友フランカの「わかってるわよ」という声に、そっと目を開きました。美しい金色の瞳が真っ直ぐに覗き込んできます。数回瞬きすると、テュフォン様は美貌を和らげて微笑まれました。
「よかった。具合は悪くないか? どこぞ痛まぬか?」
「あ、あの……」
「そなたは倒れたのだ。気を張っておったのだな。気づかず悪いことをした」
申し訳なさそうにテュフォン様が謝るため、「いいえ」と答えていました。
竜帝陛下と知っても、今のしょんぼりした姿には犬の耳と垂れた尻尾が見えますわ。幻覚でも……この方に似合いますわね。ぺたんと垂れた耳や尻尾を想像すると、なんだか強く出にくいです。
「下ろしていただけますか?」
ソファに腰掛けたテュフォン様の膝の上で横抱きされた形は、お姫様抱っこと呼称される体勢でした。未婚女性として、婚約者以外の腕に身を委ねるのははしたないと慌ててしまう。
「ベクトル、なぜステファニーは慌てているのか。我の言動はまたおかしいか?」
困惑した表情で父に尋ねる前に、私のお願いを聞いてくださいませ! 左側に束ねた淡い金髪をちょっと引っ張って気を引きました。途端に蕩けるような甘い笑みを向けられます。
「どうした? 何かあれば遠慮なく言うがよい。飲み物をやろうか、それとも」
「下ろしてくださいませ」
今度は疑問形ではなく、確定させて同じ言葉を繰り返しました。少し眉尻を下げて唇を尖らせた仕草は、尻尾や耳があればしょんぼりと垂れていたでしょう。まるで叱られた大型犬のようでした。
頭の中なので、失礼ながら断定させていただきます。やっぱりこの方は犬っぽいですわ。それも主人に忠実な大型犬ですわね。
「陛下、聞こえておいででしょう?」
「ああ、隣に居てくれるか」
しっかり要求を突きつける抜け目のない青年の顔を見つめると、頬が赤くなってしまいました。無駄に顔のいい殿方も考えものですわ。その顔で捨てられた犬のように悄気られると、悪いことをした気分になりますもの。
何にしろ今の状況より、隣に座る方が外聞がいいでしょう。妥協は必要よ、と自分に言い聞かせました。王妃教育に含まれていた外交手腕を使うなら今だわ。絶対に聞き間違いが起きないよう、しっかり言い聞かせなくては……。
「わかりました。隣に座りますから、お膝の上からソファに下ろしてくださいね」
頷いたあと、なぜか抱いたまま立ち上がられてしまい、反射的に首に手を回して絞めるように抱きつきました。落ちる恐怖に肌が粟立ちますが、しっかり支えるテュフォン様の腕に不安が消えます。そのまま向きを変えて、ソファの上に下ろされていました。
陛下と呼称される方が膝をつき、私の足元から見上げてくる姿は背徳感に苛まれてしまいます。レース越しの手を捧げ持ち、そっと上に唇を押し当てられました。顔を伏せるのではなく、顔の高さまで手を持ち上げる仕草は懇願の色を滲ませて、少し居心地が悪い思いをします。
「美しき月光のごときエステファニア嬢に申し上げる。そなたに心奪われた哀れな男に、婚約者となる最高の栄誉を与えて欲しい。我はもう、そなた以外を愛せぬ」
じわじわと血が上って、手も首筋も耳も……頬もすべてが赤くなるのが分かりました。熱くて息が苦しい。どうしましょう、こんな……熱烈な告白は初めてで。どう答えるのが正解なのかわかりません。
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