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57.神々の決断と魔王の篩

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 世界の半分は魔族の領地で、残る半分を人族が使う。それは神々の間で取り決められたルールだった。先に破ったのは人族だ。

 互いを完全に滅ぼすまで戦うことは禁じられていないし、そもそも先に戦争を仕掛けたのも人族。となれば、人族を守護する神が何を言おうと関係なかった。見守る他の神々は呆れ顔だ。魔神は言いがかりに等しい話を黙って聞き、最後にぴしゃりと跳ね除けた。

「私が守護する魔族にルール違反はない」

 一方的に戦いを挑み、負けて敗退するのは人族の勝手だ。お気に入りだった先代魔王ナベルスを失った魔神は、淡々と言葉で報復した。

「人族が戦って滅びるなら、それも定めだ。そうだろう?」

 以前に言われたセリフをそっくりお返しした。人質を取ってナベルスを攻撃した勇者の蛮行に対し、魔神が抗議した際に告げられた言葉だった。守護し庇護する種族の戦いに、直接関与することは出来ない。表情を曇らせて見守る魔神は、ナベルスの死にひどく落ち込んだ。

 同時に、愛らしくも強い決意に輝く幼竜を発見する。魔王の庇護を受け、青き水竜王の子だ。最大限の加護と名を授けた。あの子が成長し、今は頼もしい魔王として君臨する。この状況はガブリエル自身が築いた。魔神は手を貸していない。

 咎められる所以はないと言い切り、人神を突き放した。女神が何を言おうと関係ない。その姿勢を、他の神々も支持した。身勝手にすぎる言い分に、勝敗がつく。人族にも魔族にも関与しない、そう決まったことに魔神は胸を撫で下ろした。




 大きな噴火により巻き上げられた煙が立ち込め、人族は慌てた。直接噴石が飛んでくる距離ではないが、影響は計り知れない。数日で煙が晴れると、今度は灰が降り始めた。家屋敷の屋根に貼り付く灰に雨が降り、固まっていく。掃除する庭先や街道も、すぐに濡れた灰が積もった。

 いくら掃除しても追いつかない状況に、人々は放置を始める。これ自体が崩壊の始まりだ。祈っても女神の神託はなく、信仰が揺らぎ始めた。何一つ知らせることなく、災害に襲われたのだ。

 街から離れた畑や川も灰に覆われた。畑の野菜は枯れ、濁った川は使えない。放牧する牛や馬も、食べる草が足りず痩せ始めた。このままでは干上がってしまう。訴えても、領主達は取り合わなかった。それどころではなかったのだ。

 傾く国の根底を見ぬフリでやり過ごす王侯貴族のツケは、間も無く彼らに返るだろう。曇って見えない上空を旋回する黒竜は、風を操り続けていた。人族の住む領域のみ、灰を舞い上げて風を停滞させる。

 森へ入る猟師は、ほとんど灰の影響がない木々の姿に恐怖を覚えた。自分達の住む街の方がおかしいのだと気づかぬまま、森を後にする。逆に森に近い小さな集落は、噴火の影響を受けずに日常を営んでいた。

 生き残れるのは、僅かな一部の善良な人族だけ。街に馴染んだ多くの人族は、その対象から外された。魔王という篩によって。
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