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03.生き残りからの情報がない

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 各地で小さな村や町が消滅している。その噂が勇者に届いたのは、最初の村が焼かれて半年も経った頃だった。すでに両手で足りない数の集落が襲撃され、まだ把握していない集落も含めれば三十を超える。領地で被害を受けた貴族に呼び出され、勇者ゼルクは厳しい表情で頷いた。

「魔族の討伐ですか」

「ああ、可能な限り魔族を減らしてくれ」

 民が減れば税収が落ちる。領主にとっても死活問題だった。依頼を受けてゼルクは情報を集める。どちらの方角から攻めて、どこへ退却したのか。魔族が根城にする場所を炙り出すつもりだった。

 地図を広げて襲われた集落を書き込む。ここで残酷な現実を知った。生き残りがいない。そのため、襲撃された場所や日時はもちろん、退却する方角も不明だった。相手の人数や種族も、まったく情報がない。

「行商人や徴税に向かった役人が発見するだけか」

 ゼルクが知る魔族は、子どもに手出ししなかった。滅多に生まれない子を大切にする魔族にとって、種族関係なく保護する対象らしい。過去に滅ぼされた村も、子どもは生き残っていた。だが今回は子どもも含め、すべて死体となって発見されている。

「方針が変わったみたいだ」

 眉を寄せて、報告に耳を傾ける。真っ黒な炭となった死体は、集落の内側で発見されていた。すべて積み上げられ、高温で焼却する形だ。弔いのように見える。それ以外には家畜が消えていた。

 唸るゼルクへ、魔法使いのエイベルが指摘する。

「魔王の死が影響したのか?」

 先代となる両ツノの魔王を殺した戦いで、肩を並べた戦友だ。彼は赤毛をくしゃりとかき上げた。

「また魔王が出てきたんだろ。連中は強さで王を選ぶらしいし?」

 別の強い魔族が名乗りを上げたのだろう。そう結論付け、エイベルは乱暴に引き寄せた椅子へ腰を下ろした。

「もしかしたら、前の魔王の方がマシだったかもな。少なくとも皆殺しはしなかった」

 子どもや年寄りはかなり見逃されてきた。だが今回の魔王は一切容赦する気はないようだ。生き残りがいないから、情報がなく今後の対策も立てづらい。厄介な敵になった、とエイベルはぼやいた。

 黙って聞いていたゼルクは、愛用の剣を背負う。かつて両ツノの魔王が手にした剣は、先の戦いで所有者が変わった。重く使い勝手の悪い剣だが、先代魔王から奪った事実が重要だ。ゼルクはそう考えていた。

「ひとまず、まだ無事な村に向かおう。そこで待ち伏せれば襲ってくるさ」

「気の長い作戦だが、仕方ないか」

 情報が何もない以上、立てられる作戦はない。どんな集落が襲われるのか、その要件も不明なのだ。すでに襲われた町や村に近い場所で、襲撃待ちをするしかなかった。近くの集落なら、駆けつければ間に合う可能性もある。

 魔王城襲撃の際、仲間だった神官は神殿へ戻っていた。回復魔法が使える魔法使いエイベルが同行するので、問題はないだろう。そう判断し、二人は領主から預かった十名ほどの兵士とともに出発した。
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