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第127話 初めての馬車と貴族街

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 服の乱れを確認して、おにぎりを頬張る。今日の具はおかかだった。よく噛んで食べる間に、大商人バローが到着する。お茶で最後の一口を流して、彼に挨拶した。

 倭国で見た姿より、豪華な服を着ている。国王陛下に謁見する手筈を整えたから、彼も同行するのね。アイリーンは予想しながら、大人のフリで頷く。その間にも、シンは淡々と話を進めた。

 同行した侍従や護衛も身なりを整え、綺麗な漆塗りの箱をいくつも運び始めた。中身は王家への土産だろう。何が入ってるのかな。考えてみるが、思い浮かばない。ルイは倭国の日常の道具に感動していたけれど。

 あの漆塗りの箱に障子も襖も入らないし、当然、畳も無理よね。華国なら美しい壺が有名だが、他国のものを持ってくるとも思えず。首を傾げただけに終わった。

「行くよ、リン」

「はい、シン兄様」

 ルイと連絡をとる方法を教えてもらって、駆けつけなくちゃ。ピンチなら助けに入るわ。だって、屋敷で助けてもらったもの。恩返しは確実に、できるだけ早く! 遅くなると利息がついて増える、キエはそう教えてくれた。返す量が増えちゃうわ。

 見た目はお淑やかな姫君のように、静々と歩く。アイリーンを導くシンも、立派な王子様然としていた。バローが用意した馬車に乗り込み、侍従達も用意された別の馬車に収まる。表面上は口元に薄く笑みを浮かべるアイリーンだが、内心は焦っていた。

 牛じゃなくて馬なの? 揺れるのに平気? 漆の箱の中身、ぐしゃぐしゃにならないかしら。そんな心配をよそに、馬車はゆっくり動き出した。護衛は借りた馬に跨り、馬車の周囲を守る。

「無理を言って悪かったな、バロー殿」

 皇太子自らの声かけに、バローは穏やかに一礼した。横長のシートに腰掛けた状態で、それでも優雅な所作だ。

「今後の交易の利点は、すでに国王陛下にお伝えいたしました。大変興味を持っておられます。両国の発展に寄与できるなど、一商人として最高の誉れにございます」

 会話の内容は、今後もよろしく程度ね。だいぶ前後左右を削った結論を抱きながら、アイリーンは窓からの景色に釘付けだった。以前に見た街は、夜ばかり。姉達と来た時も、庶民が暮らす一角の商店街だった。

 馬車がいま通過しているのは、貴族街と呼ばれる豪華な商店が立ち並ぶ道だ。宝石店や高価な本を並べた書店など、初めての光景が広がる。煌びやかなドレスが並ぶ店は、倭国より華やかだった。

 口を開けて眺めていると、田舎ものっぽいわ。でも驚くと口が……扇! すっと扇を帯の間から抜き取り、ふわりと広げた。顔の半分を隠した彼女は、外見だけなら深窓のご令嬢だ。

 シンは察した様子で口角を持ち上げ、あとで土産を買う名目で連れ出そうと考える。バローは、皇族御用達になれないかと目論んだ。あとで取り扱う高級品を見せて、気を引こう。互いの気持ちを読み合ったように、頷きあうシンとバロー。

 アイリーンはそんな事情を察することなく、初めての光景に目を輝かせた。
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