53 / 159
第52話 異国の風習は不思議なことだらけ
しおりを挟む
どこにいたのかと首を傾げるほど、食堂は人でいっぱいだ。三人だが、テーブル席は諦めるしかなさそうだった。最後の二段ほどで立ち尽くす三人を見つけ、女将さんが手招きする。
「宿泊者はこっち!」
「あ、ああ」
言われるまま厨房のカーテンに似た布をくぐる。後に暖簾の名を知るまで、なぜ中途半端な長さで縦に裂けたカーテンを使うのか。と彼らは疑問を抱き続けた。料理を作る旦那さんらしき男性に一礼し、女将さんに引っ張られて奥へ進む。
途中に小さな座敷があり、畳が敷かれた部屋があった。休憩室なのだろう。その前を通る廊下は細く長く、土を固めた様な舗装だった。表面が滑らかで、土足で歩けるのは便利だ。さらに進んだ奥に、畳の部屋があった。
事前学習で畳の話は聞いている。土足で上がってはならず、必ず靴を脱ぐ。旅用のしっかり編んだブーツを脱いで板の間に上り、畳の上に恐る恐る足を乗せた。素足ではないが、変な感じだ。フルール大陸でこのような文化を持つ地域はなかった。
「えっと、こうか?」
迷いながら、近くの机で食事をする男達の足に驚愕した。足を複雑に組んでいるが、骨折してないのか? どうやったら……。作法なら従う必要がある。ごくりと喉を鳴らし、ルイは片足を引き寄せた。折れた膝の、あれは内側か? そこへ逆の足のつま先を入れ……うぉっ!
後ろに転がった。幸い壁だったので、ごろんと寝転がる無様は避けられる。だが、出来そうな気がしない。
「ああ、異国の人が足を組むなんて無理だよ。楽なカッコで座りな」
げらげら笑って、女将さんはお茶を置いて行った。問題は、お茶の淹れ物に持ち手がないことだ。これはコップじゃないか? 周囲の様子を見ていると、湯飲みと呼称していた。確かにコップのように透けていないから、これが文化の違いだろう。
「ルイ様、頭打ってませんか」
「いや、平気だ。好きに座れと言われたが、意外と難しいな」
あれこれ挑戦した結果、足を伸ばして座り背後の壁に寄り掛かることで落ち着いた。机を挟んだ向かいに陣取るドナルドだけは、足を組むことにチャレンジしていた。この国の人が当たり前にこなしているのだから、自分にもできるはず。
彼の言い分もわかるが、向き不向きはあると思う。ルイは好きにさせることにした。女将さんはお茶を置いて消えたが、料理の注文をはどうしたら? 魔法による自動通訳で言葉は通じても、慣習の違いは魔法でも補えない。
「はいよ、三人分ね。ご飯が足りなければ言っとくれ。米のお代わりは自由だから」
一人分ずつお盆ごと置いて行った。配膳して片付けるものではないのか? 周囲は気にせず食べているので、民の間では普通なのだろう。疑問を呑み込み、カトラリーを探した。
「ルイ、この棒がカトラリーです」
「どうやって食べるんだ?」
「「さあ?」」
また周囲の動きを観察する。お腹は空いているのに、食べ方が分からなくて手を付けられないなど。だが仮にも王子や貴族令息が手づかみは不味いだろう。焦りながらも、じっくり観察を続けた。
「宿泊者はこっち!」
「あ、ああ」
言われるまま厨房のカーテンに似た布をくぐる。後に暖簾の名を知るまで、なぜ中途半端な長さで縦に裂けたカーテンを使うのか。と彼らは疑問を抱き続けた。料理を作る旦那さんらしき男性に一礼し、女将さんに引っ張られて奥へ進む。
途中に小さな座敷があり、畳が敷かれた部屋があった。休憩室なのだろう。その前を通る廊下は細く長く、土を固めた様な舗装だった。表面が滑らかで、土足で歩けるのは便利だ。さらに進んだ奥に、畳の部屋があった。
事前学習で畳の話は聞いている。土足で上がってはならず、必ず靴を脱ぐ。旅用のしっかり編んだブーツを脱いで板の間に上り、畳の上に恐る恐る足を乗せた。素足ではないが、変な感じだ。フルール大陸でこのような文化を持つ地域はなかった。
「えっと、こうか?」
迷いながら、近くの机で食事をする男達の足に驚愕した。足を複雑に組んでいるが、骨折してないのか? どうやったら……。作法なら従う必要がある。ごくりと喉を鳴らし、ルイは片足を引き寄せた。折れた膝の、あれは内側か? そこへ逆の足のつま先を入れ……うぉっ!
後ろに転がった。幸い壁だったので、ごろんと寝転がる無様は避けられる。だが、出来そうな気がしない。
「ああ、異国の人が足を組むなんて無理だよ。楽なカッコで座りな」
げらげら笑って、女将さんはお茶を置いて行った。問題は、お茶の淹れ物に持ち手がないことだ。これはコップじゃないか? 周囲の様子を見ていると、湯飲みと呼称していた。確かにコップのように透けていないから、これが文化の違いだろう。
「ルイ様、頭打ってませんか」
「いや、平気だ。好きに座れと言われたが、意外と難しいな」
あれこれ挑戦した結果、足を伸ばして座り背後の壁に寄り掛かることで落ち着いた。机を挟んだ向かいに陣取るドナルドだけは、足を組むことにチャレンジしていた。この国の人が当たり前にこなしているのだから、自分にもできるはず。
彼の言い分もわかるが、向き不向きはあると思う。ルイは好きにさせることにした。女将さんはお茶を置いて消えたが、料理の注文をはどうしたら? 魔法による自動通訳で言葉は通じても、慣習の違いは魔法でも補えない。
「はいよ、三人分ね。ご飯が足りなければ言っとくれ。米のお代わりは自由だから」
一人分ずつお盆ごと置いて行った。配膳して片付けるものではないのか? 周囲は気にせず食べているので、民の間では普通なのだろう。疑問を呑み込み、カトラリーを探した。
「ルイ、この棒がカトラリーです」
「どうやって食べるんだ?」
「「さあ?」」
また周囲の動きを観察する。お腹は空いているのに、食べ方が分からなくて手を付けられないなど。だが仮にも王子や貴族令息が手づかみは不味いだろう。焦りながらも、じっくり観察を続けた。
84
お気に入りに追加
83
あなたにおすすめの小説
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
残滓と呼ばれたウィザード、絶望の底で大覚醒! 僕を虐げてくれたみんなのおかげだよ(ニヤリ)
SHO
ファンタジー
15歳になり、女神からの神託の儀で魔法使い(ウィザード)のジョブを授かった少年ショーンは、幼馴染で剣闘士(ソードファイター)のジョブを授かったデライラと共に、冒険者になるべく街に出た。
しかし、着々と実績を上げていくデライラとは正反対に、ショーンはまともに魔法を発動する事すら出来ない。
相棒のデライラからは愛想を尽かされ、他の冒険者たちからも孤立していくショーンのたった一つの心の拠り所は、森で助けた黒ウサギのノワールだった。
そんなある日、ショーンに悲劇が襲い掛かる。しかしその悲劇が、彼の人生を一変させた。
無双あり、ザマァあり、復讐あり、もふもふありの大冒険、いざ開幕!
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
巻き込まれた薬師の日常
白髭
ファンタジー
商人見習いの少年に憑依した薬師の研究・開発日誌です。自分の居場所を見つけたい、認められたい。その心が原動力となり、工夫を凝らしながら商品開発をしていきます。巻き込まれた薬師は、いつの間にか周りを巻き込み、人脈と産業の輪を広げていく。現在3章継続中です。【カクヨムでも掲載しています】レイティングは念の為です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる