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第23話 許せるわけねえだろ
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吹き飛ばされたアイリーンを、ココが受け止める。気を失った彼女を背中に乗せて、足元の爆発が収まるのを待った。
『今の、何?』
封印の前段階である束縛の術に対して、不純物が混じった。禍狗の放った穢れか? 細く眇めたココの瞳が、状況を見極めようと輝く。
主人であるアイリーンと同じ青い瞳は、霊力を帯びて金色に変化した。見慣れた霊力と瘴気のような穢れ、そして……魔力?
『さっきの子?』
束縛用の術を放ったアイリーンに手を伸ばした。あの時、彼が持っていた剣は炎を帯びていた。つまりドラゴンの魔力が暴走したのだろう。
『余計なことを』
舌打ちしたい気分で、収まってきた粉塵を吹き飛ばす。風の式神が心配そうにアイリーンに寄り添った。術師の意識が落ちると、式神は解除される。しかしアイリーンの場合は神狐ココと契約しているため、ココの霊力を糧に維持が可能だった。
「う、ん……いったぁ」
爆風を直接間近で受け止めた腹を押さえるアイリーンが、起き上がろうとした。
『落ちるよ』
直前にココが忠告したので、慌ててしがみ付く。ココの背中に二つ折れの形で乗せられたアイリーンは、頭上も足の下も空中である事実に気づいた。これは下ろしてもらわないと動けないわね。大人しくなった主人をちらりと確認し、ココは禍狗の気配を追う。
『禍狗が、いない?』
「うそっ! また逃げられたの? あの爆発のせいよ、もう!!」
感情を溜めこまずに発散するタイプのアイリーンはひとしきり騒ぎ、突然青ざめた。頭上になっている地上へ目を凝らす。倒れている人影を見つけて、息を詰めた。
金髪の青年が転がっていた。
「っ、まさか……死んじゃってないわよね?」
「勝手に殺すな、くそっ」
剣に込めた魔力を盾にして、咄嗟に爆風を凌いだルイは縁起でもない発言に抗議する。まだ手足が痺れるものの、骨折はなさそうだった。ぎこちなく身を起こして座り、目の前に降りてきた少女と狐を見上げる。煙を吸い込んだようで喉が痛い。ルイは汚れた金髪を乱暴にかき上げた。
「今の化け物は……げほっ」
「何で邪魔したのよ! ルイが余計な事しなきゃ、私が仕留めてたんだから」
「……お前には名乗ってないぞ」
おにぎりをくれたリンが、先日王墓で会った少女だと確信はあった。だから屋根の上に座る彼女に話しかけたのだ。しかし、うかつな彼女は自ら同一人物だと名乗る行動を起こした。これじゃ隣大陸のスパイだと疑う気にもならない。
こんなスパイがいたら、逆に向こうの内部情報が駄々洩れだろう。口が軽すぎる。
「っ!! き、聞いたのよ、そう……リンから聞いたの」
あちゃーと額に肉球を押し当てたココが、ぼそっと吐き捨てた。
『そこは、狐に聞いたの方が良かったんじゃない? なんでリンと知り合いみたいになってるのさ』
「ちょ、どっちの味方よ!!」
的確過ぎる神狐の突っ込みに、アイリーンは顔を真っ赤にして憤慨する。その様子にルイは苦笑いして身を起こした。ようやく魔力が回復し始めた。あの状況で魔力の出し惜しみは出来なくて、ほぼすべて吐き出してしまったが……痺れの抜けた指先の動きを確認した後で、服や髪の埃を払った。
「リン、次は邪魔するな。アレは俺が殺す」
「禍狗は封印しなきゃいけないの! そっちこそ邪魔しないでよ」
相容れないらしい。彼女の主張に頷けるはずはなかった。あの化け物は、王都で……王宮の足元で国民を食らったのだ。爆風で飛ばされ、血は埃で隠れてしまっても、事件は確かに起きていた。隠せるものではない。
「封印なんて甘い処罰で許せるわけねえだろ」
丁寧な言葉遣いも、甘い顔も捨てて……ルイは言下に否定した。
『今の、何?』
封印の前段階である束縛の術に対して、不純物が混じった。禍狗の放った穢れか? 細く眇めたココの瞳が、状況を見極めようと輝く。
主人であるアイリーンと同じ青い瞳は、霊力を帯びて金色に変化した。見慣れた霊力と瘴気のような穢れ、そして……魔力?
『さっきの子?』
束縛用の術を放ったアイリーンに手を伸ばした。あの時、彼が持っていた剣は炎を帯びていた。つまりドラゴンの魔力が暴走したのだろう。
『余計なことを』
舌打ちしたい気分で、収まってきた粉塵を吹き飛ばす。風の式神が心配そうにアイリーンに寄り添った。術師の意識が落ちると、式神は解除される。しかしアイリーンの場合は神狐ココと契約しているため、ココの霊力を糧に維持が可能だった。
「う、ん……いったぁ」
爆風を直接間近で受け止めた腹を押さえるアイリーンが、起き上がろうとした。
『落ちるよ』
直前にココが忠告したので、慌ててしがみ付く。ココの背中に二つ折れの形で乗せられたアイリーンは、頭上も足の下も空中である事実に気づいた。これは下ろしてもらわないと動けないわね。大人しくなった主人をちらりと確認し、ココは禍狗の気配を追う。
『禍狗が、いない?』
「うそっ! また逃げられたの? あの爆発のせいよ、もう!!」
感情を溜めこまずに発散するタイプのアイリーンはひとしきり騒ぎ、突然青ざめた。頭上になっている地上へ目を凝らす。倒れている人影を見つけて、息を詰めた。
金髪の青年が転がっていた。
「っ、まさか……死んじゃってないわよね?」
「勝手に殺すな、くそっ」
剣に込めた魔力を盾にして、咄嗟に爆風を凌いだルイは縁起でもない発言に抗議する。まだ手足が痺れるものの、骨折はなさそうだった。ぎこちなく身を起こして座り、目の前に降りてきた少女と狐を見上げる。煙を吸い込んだようで喉が痛い。ルイは汚れた金髪を乱暴にかき上げた。
「今の化け物は……げほっ」
「何で邪魔したのよ! ルイが余計な事しなきゃ、私が仕留めてたんだから」
「……お前には名乗ってないぞ」
おにぎりをくれたリンが、先日王墓で会った少女だと確信はあった。だから屋根の上に座る彼女に話しかけたのだ。しかし、うかつな彼女は自ら同一人物だと名乗る行動を起こした。これじゃ隣大陸のスパイだと疑う気にもならない。
こんなスパイがいたら、逆に向こうの内部情報が駄々洩れだろう。口が軽すぎる。
「っ!! き、聞いたのよ、そう……リンから聞いたの」
あちゃーと額に肉球を押し当てたココが、ぼそっと吐き捨てた。
『そこは、狐に聞いたの方が良かったんじゃない? なんでリンと知り合いみたいになってるのさ』
「ちょ、どっちの味方よ!!」
的確過ぎる神狐の突っ込みに、アイリーンは顔を真っ赤にして憤慨する。その様子にルイは苦笑いして身を起こした。ようやく魔力が回復し始めた。あの状況で魔力の出し惜しみは出来なくて、ほぼすべて吐き出してしまったが……痺れの抜けた指先の動きを確認した後で、服や髪の埃を払った。
「リン、次は邪魔するな。アレは俺が殺す」
「禍狗は封印しなきゃいけないの! そっちこそ邪魔しないでよ」
相容れないらしい。彼女の主張に頷けるはずはなかった。あの化け物は、王都で……王宮の足元で国民を食らったのだ。爆風で飛ばされ、血は埃で隠れてしまっても、事件は確かに起きていた。隠せるものではない。
「封印なんて甘い処罰で許せるわけねえだろ」
丁寧な言葉遣いも、甘い顔も捨てて……ルイは言下に否定した。
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